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顔をなくせたら

氷砂糖の氷との似ても似つかなさ。それでも氷と名乗る図太さを見習いたい。

先月だったか、それくらいから身の周りの人に中国に帰るんだ帰るんだと言いふらして回って、実際自分もその気でいて、23日にはとっくに日本にいないはずだった。でも今、まだ日本にいる。なんてことなの。

僕は実際にこの足で、東京スカイツリーに背を向けて成田空港第一ターミナルの北ウィングまで向かった。小一時間チェックインカウンターの長い長い列を並んだあと、受付の姉さんにパスポートを渡して、本来はそのまま飛行機に乗ってめでたく入国するのが僕の旅の大前提だったのだ。僕の顔面とパスポートの顔写真を見比べるためにマスク外してくださいと言われて、僕は勝利を確信してた。自信満々にマスクを外してニコっと笑ってさえして見せた。結果受付の姉さんは僕のパスポートをペラペラめくって一言。ビザがないですね。え、ビザ?はい、ビザがないと入国できません、ビザはありますか?いえ…ないですけど。じゃあ入国できません。

少し前までは中国へ15日以内の渡航であればビザを控除してもらえるはずだったのだけれど、コロナでそれがなくなっていた。僕はあえなく来た道を引き返すことになった。飛行機のチケットはキャンセル。中国で待つ親族への弁明とか謝罪とか色々しなければいけないことが思い浮かぶけれど、何より僕が憂鬱なのは中国に行くと宣言してしまったフレンドに遠からずもういちど会い「中国に行ったんじゃないの?」と聞かれて「ビザがなくて返された」と答える流れを延々と繰り返す作業が始まることだった。

ごめんよ、誰彼さん。僕は中国に行く。寂しくなるよ。うん。大丈夫。また帰って来るよ。それまで元気でね。僕だって寂しいよ。これからは日本語も通じない親戚に振り回されることになる。正直、めちゃくちゃ心配だ。うまく会話ができるかもわからない。お願いだよ。どうか体を大事にしてね。向こうではDiscordもVRCもできないかもしれないけれど、ほんの少しの辛抱だと思うからさ。そう悲しまないで。お土産に写真をたくさん撮ってくるからさ。どうか僕を忘れないで。今生の別れみたいでしょう?12日後には帰ってくるのにね!たった12日がなんだか途方もなく遠い時間のように思えて、やや目に涙を浮かべながら、触れられもしないのに手を握って、再会を約束したんだよ。
ほら見て、空港に着いたよ。もう、しばしお別れだよ。それじゃ、またね。って、言ったんだよ。

それが今ときたら!

「あれっ?!ねこトーもう中国ついたの?!」「今中国から通話してるの?」
うおぉおお穴があったら入りたい。

ともかく、僕は中国に住む親からの招聘状とその他諸々の書類が届くまでは何もできないからだらだらしている。はたしてこの夏中に中国へ行けるかしら。

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