早期非小細胞肺がんに対する寡分割照射 ー Review ー

Wrona A et al. Semin Radiat Oncol. 2021. PMID: 33610276

早期非小細胞肺がんへの寡分割照射の応用
・早期(I期-II期)の非小細胞肺がんでは外科的切除(可能であれば肺葉切除+縦隔リンパ節郭清)が選択肢(1)。
・高齢や併存症、不良な呼吸機能のために手術が行えない患者、あるいは手術を拒否した患者では、放射線治療が有効な代替治療となりうる(2)。
・医学的に手術が不能で、通常分割による放射線治療が行われた患者の5年全生存割合は0-42%と報告されている(3)。
・通常分割照射後の主な再発は原発巣からの再発(55-70%)で、治療線量が少なすぎるという問題がある(4567)。
・放射線治療において、局所制御(LC)を改善する方法としては、通常分割照射による線量増加、放射線治療の治療期間の短縮、加速照射/過分割照射/寡分割照射による生物学的実効線量(BED)の増加などが考えられる。
・寡分割照射では、通常分割照射の2 Gyより多い線量の照射を行い、治療の分割回数を減らして治療を行う。
・放射線治療の治療期間(OTT)を短縮することで、非小細胞肺がん細胞の再増殖(repopulation)を減少させることにより、有効性を高め、局所性魚を改善できる可能性があるが、一方で正常組織の晩期毒性のリスクを上昇させる可能性がある(8
・LQ model (linear quadratic model)では、α/β比により1回の照射線量による影響が異なる(910)。
・急性反応組織(acute reacting tissue)ではα/β比が高く(例えば非小細胞肺がんを含む多くの腫瘍では10)では、1回線量の増加による影響は比較的小さい。
・一方で、晩期反応組織(late reacting tissue)では、α/β比が小さく(例えば肺実質は3)、1回線量が増加することによる組織への影響が比較的大きくなる(1112)。
・放射線生物学の理論を元にすると、通常分割照射と比較すると、寡分割照射では腫瘍と正常組織間の治療可能比を低下させることになる。
・したがって、寡分割照射が適する腫瘍というのは、早期肺腫瘍のように小さな腫瘍で、正常組織への線量や毒性を抑えることが可能な場合に限られる。
・線量集中性を高める技術(強度変調放射線治療を用いた照射)や標的の位置精度を高める技術(画像誘導放射線治療や標的の移動のマネージメント)を用いて、腫瘍への照射線量を高めながら、周囲の正常組織への照射線量や照射体積を減らすことにより毒性を低減することにより、寡分割照射が可能となる。

早期肺がんに対する中等度寡分割照射
・Dutch and Canadian studyでは、早期非小細胞肺がんに対する48Gy/12回(BED10 = 67.2 Gy、週5回照射)が評価され、有効性と安全性が示された(131415)。
・全生存期間の中央値は26.5ヶ月-33ヶ月、2年局所制御割合はいずれの試験でも>75%であった(131415)。
・領域リンパ節転移再発の発生率は低かった(6-7%)。
・この線量分割による安全性プロファイルは良好で、主な急性期毒性は皮膚炎(19%)、食道炎の発生割合は<5%で、晩期毒性として肋骨骨折が3%、皮下組織の線維化が6%に認められた。
・55 Gy/20回(BED10 = 70 Gy)(4週間)による寡分割照射は、英国でよく用いられている線量分割である。
・患者数が最も多い報告では、3次元原体照射(3D-CRT)を用いた照射で、全生存期間の中央値 24ヶ月、2年全生存割合 50%と報告されている(16)。
・グレード3以上の毒性の発生は認められなかった。
・グレード2以上の肺臓炎の発生割合は<20%、食道炎の発生は稀で軽度(グレード2以下)のものであった。
・他の3つの後方視的研究でも同様の線量分割(50-55 Gy/15-20回 または 52.5 Gy/15回)が評価されており、同様の結果であった(171819)。
・これらの解析結果では毒性レベルが低いことから、20回以下のスケジュールでさらなる線量増加ができる可能性が示唆された。
・高齢者に対する60 Gy/20回(BED10 = 78 Gy)の安全性と有効性の評価が行われ、2年全生存割合 56%、全生存期間 25ヶ月であった(20)。
・グレード3-4の急性期毒性の報告はみられなかった。
・同様の線量分割の中枢性の早期非小細胞肺がんに対する後方視的研究がなされ、2年全生存割合は60%、全生存期間の中央値は33ヶ月であった(21)。
・約5%の患者にグレード3以上の肺臓炎が認められたが、グレード3以上の食道炎の発生はみられなかった。
・前向き第2相試験(NCIC-CTG BR.25試験)では、3次元原体照射で(不均質補正なし)60 Gy/15回(BED10 = 84 Gy)の検討がなされた(22)。
・原発腫瘍の制御割合は87%、2年全生存割合は69%、全生存期間の中央値は41ヶ月であった。
・毒性は許容範囲のもので、グレード3毒性の主なものは肺臓炎(10%)と呼吸苦(14%)であった。
・治療された80例のうち、1例に致死的な肺出血の発生が認められた。
・この試験の結果はさらに単施設の研究でも確認されている(2324
・スペインのグループにより66 Gy/24回(BED10 = 84 Gy)の線量分割の評価がなされ、有効性と安全性が報告されている(25)。
・全生存期間の中央値は25ヶ月、2年全生存割合は51%であった。
・グレード3以上の急性期および晩期毒性の発生は認められなかった。
・高齢者に対する同様の線量分割(65 Gy/26回)(BED10 = 81.2 Gy)でも、同様の有効性と安全性が報告されている(26)。
・第1相試験(CALBG 39904)では、早期非小細胞肺がん(4 cm以下)で不良な呼吸機能による手術高リスク例において、総線量70 Gy(1回線量 2.41-4.11 Gy)の良好な成績が報告されている(27)。
・最大耐用線量の決定はなされなかったものの、通常分割照射と比較して、安全に治療期間(OTT)をおよそ半分にすることが可能であった。
・全生存期間の中央値は38.5ヶ月であった。
・毒性プロファイルは許容可能範囲で、3/39例にグレード3の有害イベントの発生を認めた。
・寡分割照射による70 Gy以上の照射を行うことは、同様の研究結果からも支持されている(28293031)。
・手術不適格な早期非小細胞肺がんでは、中等度の寡分割照射は有効で安全な治療法であるが、用いられる線量分割は様々である。

早期非小細胞肺がんに対する体幹部定位放射線治療
・体幹部定位放射線治療(SBRT)は寡分割照射の到達点である。
・体幹部定位放射線治療(SBRT)では、画像誘導下に高精度放射線技術を用いて、線量集中性の高い照射を行うが、比較的小さな標的体積の病変が治療に適する。
・体幹部定位放射線治療(SBRT)では、生物学的実効線量(BED10) 100 Gyを、通常3-8分割で(1-2週間)で照射を行う。
・通常多数の標的に対する多数のビームを設定し、急峻な線量勾配を形成することにより、周囲の正常組織への照射線量を低減する。
・体幹部定位放射線治療(SBRT)においては、直接的な腫瘍の殺細胞効果の他、腫瘍血管障害を介した間接的な腫瘍細胞死や抗腫瘍免疫の誘導などが抗腫瘍効果に寄与する(32)。
・さらに、体幹部定位放射線治療(SBRT)では、治療期間を短縮することにより、放射線治療の4R(再酸素化、修復、再増殖、再分布)による影響が排除される(33)。
・この治療技術を用いることにより、90%程度の局所制御が得られることが報告されており、患者背景が同様の場合には手術に匹敵するような生存成績が報告されている(3435)。

体幹部定位放射線治療(SBRT)の患者選択
・初期の頃には体幹部定位放射線治療(SBRT)は、手術不能な末梢性の早期非小細胞肺がんの評価が行われ、現在これらの患者では標準治療となっており、手術を拒否した場合でも同様に標準治療となっている(36)。
・ESMOやNCCNのガイドラインでも、通常分割照射と比較した場合の体幹部定位放射線治療(SBRT)の優越性を支持している(373839)。
・体幹部定位放射線治療(SBRT)の適応の決定に関しては、tumor boardにより手術可能性評価を含めた検討がなされるべきである(40)。
・病理学的な確認が推奨されるものの、必須ではない(41)。
・生検の確認が行われなかった孤立性肺結節の治療を行った場合の悪性の可能性は85%と報告されている(42)。
・年齢や合併症スコア(Charlson comorbidity score)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(Gold classification)、治療前の呼吸機能による体幹部定位放射線治療(SBRT)の絶対禁忌は存在しない。
・しかしながら、ECOG PS 3以上で、期待生命予後が1年以上の場合が妥当であろう(41)。

末梢性肺腫瘍に対する体幹部定位放射線治療(SBRT)の線量分割
・最適な体幹部定位放射線治療(SBRT)の線量分割レジメンは確立されていない。
・高い局所制御率を得るためには、生物学的実効線量(BED10)>100 Gyが必要と報告されており、BED10 >100 Gyで局所制御割合は92%、BED10 <100 Gyで57%であったと報告されている(4344)。
・しかしながら、メタアナリシスの結果では、中等度の生物学的実効線量(BED106-146 Gy)と比較して、あまりに高い生物学的実効線量(BED >146 Gy)では全生存が悪化する可能性が示唆されている(45)。
・がんの組織による影響もあり、扁平上皮がんではBED10 >122 Gyの線量増加により全生存を改善できる可能性がある(4647)。
・RTOG 0236は第2相試験で、末梢性肺腫瘍(<5 cm)に対し、54 Gy/3回の照射を行い、3年局所制御割合は98%の結果であった(48)。
・RTOG 0915はランダム化第2相試験で、末梢性非小細胞肺がんに対する34 Gy/1回と48 Gy/4回が比較され、局所制御は同等で、安全性プロファイルも良好であった(4950)。
・その他の末梢性早期非小細胞肺がんに対する第2相ランダム化試験では、30 Gy/1回と60 Gy/3回の局所制御や全生存、毒性は同等の結果であった(51)。
・生活の質(QOL)パラメータは30 Gy/1回で良好な結果であった。
・ESTRO ACROP consensusでは、腫瘍の局在により異なる線量分割を推奨している。
・末梢性病変に対しては45 Gy/3回、末梢性病変で胸壁に広く接している場合には48 Gy/4回(PTV D95%-99%に処方し、最大線量を125%から150%に保つ)を推奨している(41)。
・末梢性のI期非小細胞肺がんで、重篤な併存症がなく、長期生存が期待できる患者では、最大耐用線量の54 Gy/3回を考慮する(41
・体幹部定位放射線治療(SBRT)が適応可能と考えられる腫瘍径は中央値で5 cm(5-8 cm)(41)。
・最近の後方視的研究では、サイズの大きな腫瘍では局所および遠隔再発のリスクは高いものの、高線量の照射により良好な腫瘍制御が得られており、アジュバント化学療法によるベネフィットの可能性が示唆されている(5253545556)。

中枢性腫瘍に対する体幹部定位放射線治療
・中枢性肺腫瘍(近位気管支樹または縦隔構造から2 cm以内のものとされることが多い)は、体幹部定位放射線治療(SBRT)が行えない("no fly zone")領域と考えられている。
・60-66 Gy/3回の照射が行われた第2相試験において、近位気管支樹(PBT)から2 cm以内の腫瘍では強い毒性が認められた(57)。
・2年時点での重篤な毒性回避割合は、末梢性腫瘍では83%、中枢性腫瘍でゃ54%であった。
・中枢性の腫瘍ではグレード3以上の毒性リスクの上昇が認められ、末梢性と比較すると11倍リスクが高かった。
・システマティックレビューによると、晩期効果(BED3)を210 Gy以下に抑え、分割回数を増やしたレジメン(例えば60 Gy/8回)であれば、治療関連死のリスクは1.0%程度と低いことが示唆された(58)。
・このデータにより中枢性腫瘍においては、1回線量を減らし、局所制御を得るために適切な生物学的実効線量(BED10)を担保する方法による体幹部定位放射線治療(SBRT)が考えられている。
・1回線量を抑えた体幹部定位放射線治療(SBRT)の後方視的研究(40 Gy/4回、50-55 Gy/4-5回、70 Gy/10回、60 Gy/8回)が複数報告されており、2年局所制御割合は76-95%、2年全生存割合は50-71%の成績が報告されている(5960616263646566)。
・RTOG 0813は第1/2相試験で、50 Gy/5回から60 Gy/5回への線量増加の安全性の評価が行われた(67)。
・線量制限毒性発生割合7%の最大耐用線量は、1回線量 12 Gyであった。
・グレード3以上の毒性が18%、グレード5の毒性が6%に認められた(1回線量 11.5 Gy および 12 Gy)。
・その他の第1/2相前向き研究(第2相試験の線量分割 55 Gy/5回)では、グレード3以上の晩期毒性発生割合は43%、1例(4%の患者)は致死的出血を来した。
・2年局所制御割合は85%、2年全生存割合は43%であった(68)。
・中枢性腫瘍と末梢性肺腫瘍の比較において、局所制御や生存成績に明らかな差は認められなかった。
・EORTC Lung-Tech phase II trialでは、中枢性非小細胞肺がんに対する体幹部定位放射線治療(SBRT)(60 Gy/8回)の検討がなされたが、毒性懸念のために症例集積は早期中止となった(69)。
・これまでのデータからは、ASTRO Evidence-Based Guidelineでは、中枢性病変に対する3分割による体幹部定位放射線治療(SBRT)は避け、4-5分割(あるいはそれ以上)の分割を考慮すべきとされている(70)。
・強度変調回転照射(VMAT)などの強度変調技術を用いて、危険臓器の最大線量を低く(100%-110%)し、肺への照射線量(V5など)も抑えた照射が強く推奨される(60)。
・体幹部定位放射線治療(SBRT)では、許容不能な毒性を来すようであれば、6-15分割による寡分割照射や通常分割照射による治療を行うべきである(71)。
・多くの施設では、中枢性腫瘍に対し5分割や8分割の体幹部定位放射線治療により、良好な腫瘍制御と有望な生存成績が報告されている。
・超中枢性腫瘍は中枢性腫瘍の一部であるが、中枢気道から1 cm以内のもの、あるいは肉眼的腫瘍体積(GTV)/計画標的体積(PTV)が近位気管支樹(PBT)や他の縦隔構造(食道、大血管など)に直接接するものと定義されることが多い。
・報告されている4つの後方視的研究のうち、3つの報告で超中枢性腫瘍に対する5分割照射に伴うグレード3以上の高い毒性発生割合(22-38%)が報告されている(64727374)。
・末梢性肺腫瘍と超中枢性肺腫瘍の比較において、体幹部定位放射線治療(SBRT)後の局所制御や生存成績に明らかな差は認められていない。
・近年、2つのシステマティックが報告され、慎重に治療計画を行えば、超中枢性腫瘍に対する体幹部定位放射線治療(SBRT)も比較的安全(グレード5毒性発生割合は0%-22%、主な死因は出血)と報告された。
・しかしながら近位気管支樹(PBT)に高線量の照射が行われた場合、気管支に沿った病変の進展がある場合、内視鏡的治療や体幹部定位放射線治療(SBRT)前後にベバシズマブの投与が行われた患者、抗凝固療法の治療歴のある患者では、重篤な毒性発生リスクが高い可能性が示唆されている(7576)。
・プランニング研究の結果では、中枢性腫瘍に対する体幹部定位放射線治療(SBRT)では、60 Gy/8回の線量分割レジメンで、計画標的体積(PTV)の線量カバー、危険臓器の保護、ホットスポットを回避することにより、最適な治療成績が得られる可能性が示唆されている(77)。
・超中枢性肺腫瘍に対する体幹部定位放射線治療(SBRT)の最初の前向きデータはHILUS試験(56 Gy/8回を65-70% isodose lineへ処方)から得られた(78)。
・体幹部定位放射線治療(SBRT)に関連したグレード3-5毒性が28%の患者に認められた。
・致死性の副作用が9%(6/74例)に認められ、5例は出血、1例は肺臓炎に伴うものであった。
・現在進行中の第1相試験(SUNSET study)の目的は、2年以内のグレード3以上の毒性発生率30%以下とした、最大耐用線量の決定である(60 Gy/8回から試験は開始されている)(79)。
・超中枢性腫瘍に対する体幹部定位放射線治療(SBRT)の適切な線量、体積、正常組織の耐容性を確立するため、よくデザインされた前向き研究が必要である。

手術が可能な患者に対する体幹部定位放射線治療(SBRT)
・手術が可能な早期非小細胞肺がんに対する体幹部定位放射線治療(SBRT)の役割に関しては依然として議論が続いている。
・従来のデータを用いて、肺葉切除術と体幹部定位放射線治療の比較しても、治療対象患者の背景が異なり、解析が行われたエンドポイントが異なるためにうまくいかない。
・後方視的な比較では、SEER Medicareを用いて、傾向スコアマッチングを用いて比較した場合、体幹部定位放射線治療(SBRT)と肺葉切除術後の生存成績は同等の結果であった(3年生存率 60%程度)(8081)。
・National Cancer Databaseを用いて、傾向スコアマッチングを用いて比較解析された研究では異なる結果がでており、体幹部定位放射線治療(SBRT)と比較して、肺葉切除術後の5年全生存割合が良好であった(59% vs. 29%)(82)。
・これまでに、手術可能な早期非小細胞肺がんに対する体幹部定位放射線治療(SBRT)の多施設共同の前向き研究が3つ報告されている。
・JCOG 0403試験(48 Gy/4回、アイソセンター処方)の手術可能群では、3年局所制御割合 85%、3年全生存割合 76%の成績が報告されている(83)。
・放射線治療の安全性プロファイルは良好で、グレード4-5毒性の発生は認められなかった。
・RTOG 0618は第2相試験では、手術可能な末梢性の早期非小細胞肺がんに対し60 Gy/3回の照射が行われ、治療の忍容性が確認され、4年局所制御割合は88%、4年全生存割合は56%であった(84)。
・2つのランダム化試験(ROSEL および STARS、いずれも症例集積不良にて早期中止)では体幹部定位放射線治療(SBRT)と外科的切除が比較され、これらのプール解析では、病勢制御は体幹部定位放射線治療(SBRT)と外科的切除で同等であったが、生存成績は体幹部定位放射線治療(SBRT)で良好で(3年全生存割合:体幹部定位放射線治療 95%、肺葉切除 79%)、手術に関連した死亡が生存成績へ影響した可能性がある(35)。
・体幹部定位放射線治療えは10%の患者にグレード3の治療関連有害イベントが認められ、手術群ではグレード3-4毒性が44%に認められた。
・しかしながら、症例数が少なく(58例)、データの解釈が困難で批判的なコメントも多く寄せられている。
・初期の頃の体幹部定位放射線治療(SBRT)と手術の比較に焦点をあてたメタアナリシスでは、いずれの治療でも生存成績は同等というものや肺葉切除により生存成績のベネフィットがあるというものもあり異なる結果が報告されている(3485)。
・その後メタアナリシスでは、手術後の全生存が良好ではあるが、疾患特異的生存は両治療で同等であることが示された(86)。
・最近の傾向スコアマッチングを用いた観察研究のメタアナリシスでは、体幹部定位放射線治療(SBRT)と比較して、手術後の全生存、疾患特異的生存、局所領域制御が良好であるが、周術期の死亡リスクは高いことが示された(87)。
・これらの治療のジレンマを最終的に解決するためには、現在中国で進行中の前向きランダム化試験(POSTLIV試験)や米国のVALOR試験結果を待つ必要がある。
・英国のSABRTOOTH試験では、症例集積を終了したが、この議論において重要な結果であろう(SABRTOOTHでは患者により希望する治療が異なり、ランダム化は不能であった)。

体幹部定位放射線治療(SBRT) vs. 通常分割照射
・ランダム化第2相試験(SPACE trial)では、医学的手術不能早期非小細胞肺がんに対する66 Gy/3回(アイソセンター処方)と70 Gy/35回の比較が行われ、局所制御(LC)、無増悪生存(PFS)、全生存(OS)に明らかな差を認めなかった(88)。
・この試験では、解析における統計学的パワーが不足していることと同様に、全身状態不良な患者が組み入れられていたこと、病理学的な診断が得られていない患者が含まれていたこと、多くの患者でPET/CTを用いたステージングが行われていなかったことにより体幹部定位放射線治療(SBRT)のベネフィとがマスクされてしまった可能性がある。
・しかしながら、体幹部定位放射線治療(SBRT)群で病勢制御が良好な傾向があり、生活の質(QOL)のパラメータや安全性プロファイルは体幹部定位放射線治療(SBRT)で良好であった。
・TROG 09.02 CHISEL trialでは、医学的手術不能末梢性早期非小細胞肺がんを対象に、体幹部定位放射線治療(54 Gy/3回 または 48 Gy/4回)と通常分割照射(66 Gy/33回 または 50 Gy/20回)の比較が行われた。
・局所制御(LC)は体幹部定位放射線治療群(SBRT)で良好で、毒性の増加も認められなかった(89)。
・同試験では、体幹部定位放射線治療(SBRT)による全生存のベネフィットも認められた。
・現在 Canadian LUSTRE trialが進行中で、体幹部定位放射線治療(SBRT)(末梢性 48 Gy/4回、中枢性 60 Gy/8回)と寡分割照射(60 Gy/15回、BR.25レジメン)の比較が行われている。
・5つの後方視的研究や1つのメタアナリシスにより、通常分割照射と比較した、体幹部定位放射線治療(SBRT)による全生存(OS)の改善効果が報告されている(809091929394)。
・さらに、これらのうち2つの研究では、体幹部定位放射線治療(SBRT)後の局所制御(LC)が良好であった(9192)。

まとめと今後の展望
・早期非小細胞肺がんに対する寡分割照射は、医学的に手術不能な患者の治療選択肢であり、手術可能な患者における研究も現在増加してきている。
・通常分割照射と比較して、寡分割照射ではがんの制御を改善すると同時に、患者の利便性や忍容性、コンプライアンスの改善することが可能である。
・医学的に手術不能な、末梢性の早期非小細胞肺がんでは体幹部定位放射線治療(SBRT)が治療選択肢として受け入れられている。
・手術の高リスク患者や非侵襲的な治療を希望する患者では、手術の代わりに体幹部定位放射線治療(SBRT)の提案がなされるべきである。
・危険臓器(OARs)の線量体積制約(dose-volume constrains)と同様、末梢性および中枢性腫瘍に対する最適な線量分割レジメンは依然としてのトピックである。
・寡分割照射と免疫療法との併用に関する関心が高まっており、PACIFIC 4 trialでは早期非小細胞肺がんに対する体幹部定位放射線治療(SBRT)後のデュルバルマブ(durvalumab)の評価が行われている。
・粒子線治療を用いることが可能となってきており、特にX線による体幹部定位放射線治療(SBRT)では制約を満たすことが困難な(サイズの大きい病変、中枢性肺腫瘍)早期非小細胞肺がんを対象として臨床試験が行われている。
・放射線治療の技術が改善し、より良い寡分割照射を可能となってきていおり、寡分割照射の患者選択や治療の最適化のための臨床試験が行われている。

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