見出し画像

ニューヨーク州司法試験の受験記⑦ 【リモート受験の注意点】

はじめに

私は、2021年7月にリモート(オンライン)で実施されたニューヨーク州司法試験(以下「NY Bar」)を、日本の自宅から受験するという珍しい経験をしました。

2021 年7月のNY Barに際してニューヨーク州司法試験委員会(BOLE)が公表した公式のFAQ(以下「FAQ」)はこちらにあります。この記事は、FAQの中からリモート受験特有の重要な注意点を抽出し、筆者の感想を加えたものです。

2021年12月現在、来年2月のNY BarはIn-personで実施されることがアナウンスされていますので、この記事は将来の受験者の皆様には役に立たないかもしれません。もっとも、状況次第ではNY Barが再びリモートで実施される可能性もあることから、記録として残しておきます。

この記事はリモート受験特有の注意点にフォーカスしています。私が採ったNY Barの勉強方法についてはこちらの記事をご参照ください。

①試験時間の区切りが異なる

  • 2021年7月のNY Barは以下のタイムスケジュールで実施されました(Time Zoneは東部時間)。

  • 上記から分かるとおり、In-personであれば180分x4であった試験時間の区切りが、90分x8という区切りに変更されています。これは後述する録画ファイルのファイルサイズに配慮したためと思われます。

  • リモート受験では、MPTやMEEが分割されて実施されるため科目間の時間配分ミスのリスクが減ります。これはリモート受験のメリットと言えるかもしれません。MBEの場合は時間配分ミスはあまり考えられませんが、50問ごとに30分休憩を挟むので集中力が維持しやすいかもしれませんね。

  • 他方、In-personで受験する方は、時間配分に慣れるために、演習の際にMPT2問を3時間で解く練習などをしておいた方が良いかもしれません。

②時差に注意

  • リモート受験の場合、理論上は世界中のどこからでも受けることができます。自宅から受験することもできますので、渡航費用や宿泊費用がかからない点は大きなメリットです。しかし、NY Barは一律に東部時間(Eastern Time)で実施されますので、異なるTime Zoneから受験する場合は、時差に注意する必要があります。

  • 私は日本から受験しましたので、試験時間は日本時間の22:00~翌朝6:30と完全な昼夜逆転での受験を強いられました。なお、2月のBarの場合はwinter timeですので、23:00~7:30とさらに過酷な時間帯になります。時差の計算を間違えると大変なことになるので100回くらい確認するようにしましょう。

  • 時差の調整の方法は人それぞれだと思いますが、私は日本時間の7月26日の夜に徹夜をして、27日朝に就寝、同日夕刻に起床して22時からの試験に臨むというかなり無理のある調整をしました。このような方法を採ったのは、私は自宅では勉強ができない体質であるためです。つまり、勉強のためには図書館やカフェなどが開いている日中に外出する必要があり、試験直前に昼夜逆転生活になってしまうと直前期に外出できなくなる(=勉強できなくなる)という由々しき問題があったため、やむなく無理な調整をしました。

  • しかし、やはり体内時計の調整は一日でできるものではなく、試験当日の午前3時~6時頃の時間帯は強烈な眠気に襲われました。日本から受験する場合は、可能であれば1~2週間前から時差の調整を行うことをおすすめします。

③試験中は常に自らを録音録画

  • リモート受験では自宅からでも試験を受けられますが、NY Barは資料の参照が禁止されている(Closed Book)の試験です。そのため、カンニングを防止するという観点から、試験時間中は試験を受ける部屋に単独でいて、常にPCのカメラの正面に座り、自らの動静を録音録画し、90分の試験時間終了後に毎回録音録画ファイルをアップロードする必要があります。録音録画とアップロード自体は、後記の専用ソフトがほぼ自動的に行ってくれます。

  • なお、録画ファイル内に第三者が映り込んだ場合、受験者の視線が画面の中心ではない場所に遷移した場合(例:PCの後方の何かを眺めている)、受験者が試験時間中に中座した場合、不審な音声が入った場合などにはカンニングを疑われる可能性がありますので、そのような事態はできる限り避ける必要があります。

  • 録画ファイルのアップロードには期限があり、2021 July NY Barの場合の最終アップロード期限は、試験2日目の23:59でした。期限内に録画をアップロードできなかった場合、当該セクションのスコアは0になります。

  • しかし、90分の動画というのは中々のファイルサイズになります。したがって、安心して動画をアップロードできるように高速かつ安定したインターネット回線を確保しておく必要(アップロード速度2.5 Mbps以上)があります。

  • インターネット回線や壁の厚みに不安があったため、私はホテルではなく自宅で受験する選択をしました。なお、試験時間中に固定電話が鳴るのを防ぐために電話線を引き抜きました

  • 家族と同居しており第三者が映り込むリスクがあるという理由などから、ホテルで受験する方もいました。ホテル受験の場合は、事前に宿泊して回線速度や壁の厚みや客層を把握しておくか、せめて回線速度を明記しているホテルを選ぶのが安全かと思います。

④部屋に資料や電子機器を置けない

  • 前記のとおり、NY Barは資料参照禁止であるため、リモート受験をする部屋には勉強資料や受験に使用するPC以外の電子機器を置くことが禁止されています。正確な表現は以下のとおりです。

• You may not have a phone or other electronic device on your person or anywhere in the room in which you are taking the test.
• You may not have study notes, bar review materials or other legal reference books and/or materials in your testing space.

BOLEのFAQのQ10より引用
  • 上記を読んだ方はこのような疑問を持つのではないでしょうか。ワンルームに住んでいる場合、この条件を満たすのは難しくないか?試験と関係ない本が入っている本棚が部屋にある場合はどうなるのか?結局ホテルに泊まるしかないのでは…?

  • 結論から言えば大丈夫です。BOLEにはPCのカメラに映り込んでいる範囲しか見えませんので、その範囲に書籍や電子機器が映り込んでいなければ問題ありません。私は、背後の壁しか映らない場所にPCを置いた上で、大量の家具が置かれている自宅のリビングで受験しました。BOLEからは何も言われませんでした。

⑤高額な専用ソフトを買わされる

  • 2021 July Barでは、ExamSoftという業者のExamplifyという受験専用ソフトを$130で購入させられました。これは受験料である$750とは別途かかる費用です。In-personでの受験の場合もPCを使用する場合はソフトの購入が必要になるかと思いますが、リモート受験用のソフトには試験中に顔認識する機能(ExamID)や録音録画する機能(ExamMonitor)が実装されているため、より高額なのではないかと推察します(比較できていませんが)。

  • ちなみにこれはNew York Law Exam(NYLE)の受験の際に購入させられるソフト(約$30)とは別のものです。

⑥専用ソフトのシステム要件が厳しい

  • Examplifyを動作させるためには、結構細かいMinimum System Requirementsを満たす必要があることに注意が必要です。

  • Windowsの場合、Windows 10のバージョン20H2, 21H1, 21H2、又はWindows 11のバージョン21H2と比較的新しいバージョンであることが必要です。

  • 日本語のPCを使用する場合は、English (United States) Language Packもインストールしておく必要があります。

  • さらにリモート受験に必要なExamID又はExamMonitorの機能を動作させるためには、以下の要件を満たす必要があります。

• Examplify version 2.8.4 or greater
• Hard drive: 4GB or higher available space
• RAM: 8GB or higher recommended; 4GB required
• Webcam: Integrated camera or external USB camera supported by your operating system. Virtual cameras are not supported.
• Microphone (no headphones, no virtual mics)
• Internet: 2.5 Mbps upload speed

ExamSoftのHP参照
  • これらのシステム要件は、6月中旬のMock Exam(下記参照)までに満たしておく必要があります。

  • 古いPCだと上記の要件を満たせないと思いますので、新たにPCの購入が必要となります。繰り返しになりますが、6月中旬の動作確認の前までに購入しておく必要があります。

⑦6月中旬のMock Examの受験が必須

  • リモート受験は、Examplifyの動作確認のための模擬テスト(Mock Exam)を6月中旬に受験することが必須となっています。

  • 2021年7月のNY Barにおいては、6月15日~25日の間にExamplifyをインストールした上で、2つのmandatory mock examを受験し、解答をアップロードすることが必須でした(問題文のダウンロード期限は6月22日)。これを行わないと受験を辞退したとみなされ受験料も返金されないため、絶対に守る必要があります(FAQのQ7参照)。

  • Mock Examは、本番と全く同じ機器を使用して受験することが要求されています(FAQのQ8参照)。本番でのトラブル防止のためにもそうした方がよいでしょう。したがって、6月中旬までに上記のシステム要件を満たす機器を揃えておく必要があります。

  • Mandatory mock examの2問は、MBEの模擬テスト1問(確か20問くらい)と、MPT・MEEが1題ずつ入った模擬テストが1問であった記憶です。制限時間は確かいずれも90分でした。採点はされませんので、あまり丁寧に受ける意味はなく、Examplifyが動作することと、その使い方が分かれば十分だと思います。そもそもMPTはそれだけで90分かかる試験ですので、90分でMPTとMEEを完全に解くことはできません。ただし、90分の録画ファイルをアップロードする作業を1度は試しておいた方が良いので(PCの空き容量やアップロード速度のテスト)、いずれか1題は途中で切り上げずに、最後まで受けきることをお勧めします。

  • 6月中旬のMock Examは、mandatoryの2題の他に、optionalで追加で1題受けることができました。この1題の内容は、mandatoryの2題のうちのMEE・MPTが1題ずつ入った模擬テストと全く同じです。mandatoryでは時間の関係でMPTの練習しかできなかった場合などに、MEEの練習をするためにoptionalを受けてもよいかと思います。

  • なお、せっかく6月中旬のMock ExamでExamplifyの使い方を覚えても、7月下旬の本番の直前には綺麗さっぱり忘れています。このことを見越してBOLEは7月下旬の本番直前に、非常に短時間で終わるoptionalのmock examを再度提供してくれました。試験本番でソフトの使い方がわからずテンパるという事態を避けるため、このmock examは受けた方が良いと思います。

⑧デュアルモニターを使用することはできない

  • リモート受験ではデュアルモニターの使用が禁止されています(FAQのQ8参照)。これは、カメラが付いているモニター①を使用しているときにモニター②を見たとして、モニター②を見ているのかカンニングペーパーを見ているのかが試験官には確認できないことが理由と思われます。

  • 他方、ノートPCに接続した外部モニターを単独で使用することは許容されています。すなわち、ディスプレイ設定で「ディスプレイを複製」した上で、外部モニターのみを使用して受験することは可能です。外部モニターを使用する場合は、外部モニターの上辺中央にマイク付きのウェブカメラを装着する必要があります。また、6月中旬のMock Examまでにこれらの機器を揃えておく必要があります。

  • 外部モニターを使用するメリットとして、より大きな画面で受験できる点があります。特にMPTとMEEでは、画面を問題文と答案に二分割して表示しながら受験する方が多いと思います。その場合、10~11インチのノートPCのディスプレイだと文字がかなり小さくなってしまうという問題があります。これを避けたい場合は、大きな外部モニターの使用をお勧めします。なお、私は11インチのノートPCで受けましたので、小さめのノートPCでも受験は不可能というわけではないです。

⑨試験1週間前に問題文をダウンロードする必要

  • リモート受験の場合は、試験の問題文を試験約1週間の期限までにあらかじめダウンロードしておく必要があります。2021年7月のNY Barのダウンロード期限は7月22日でした。期限までにダウンロードしないと当然ながら受験できませんので、絶対に忘れないようにしましょう。

  • 問題文を開くためのパスワードは試験時間の15分前までにインターネット上に公開されます。パスワードが公開され次第、試験を開始することが可能です。試験を始め次第、90分のカウントダウンが始まります。

⑩MPT以外でペンとメモ用紙の使用は禁止

  • カンニング防止のためだと思いますが、オンライン受験の場合は、MPTを除いてペンとメモ用紙の使用が禁止されています(FAQのQ16参照)。なお、Examplifyのメモ機能は使用することができます。

  • すなわち、MEEでは紙とペンを一切使用することができません。したがって、MEEで答案構成をする場合は、Examplifyのメモ機能を使用するか、解答文書上で答案構成をする必要があります。演習の際は注意が必要です。

⑪英語配列のキーボードに慣れておくべき

  • Examplifyの起動中は、PC上の言語は英語しか使用できなくなるので、英語配列のキーボードに慣れておくべきです(アポストロフィと括弧の位置が異なる。)

  • しかし、Examplifyのバグなのか、私は本番中も日本語配列のキーボードで入力することが可能でした。しかし、後記のExamplifyがフリーズして再起動した後は、なぜか英語配列しか使えなくなっていました。ここで英語配列の入力を練習していたことが役に立ちました。したがって、やはり英語配列に慣れておくべきと思います。

⑫試験中にソフトがフリーズすることがある

  • 本来あってはならないことですが、試験中にExamplifyがフリーズする事態はかなり頻繁に起きるようです。私も本番中に一度経験しました。

  • Examplifyがフリーズした場合は、とにかく落ち着くことが重要です。決して全てが終わったと思ってPCを地面に叩きつけたり窓から放り投げないようにしてください。挽回は可能です。BOLEからの指示(FAQのQ14参照)にあるとおり、まずは電源ボタンを長押ししてPCを強制終了します。その後、数秒待ってから電源ボタンを押してPCを再度起動します。PCが再起動すると、自動的にExamplifyも起動して中断した箇所から試験が再開できるはずです。私はこの方法で試験を続行できました。

  • 上記の方法でもうまくいかない場合は、今回は運がなかったと思って諦めましょう。BOLEから指示されたテクニカルサポートの電話番号に電話をかけます。あらかじめ携帯に番号を登録しておきましょう。上記のとおり試験を受ける部屋には携帯を置いてはならず、他方で携帯を取りに行くために中座するとカンニングを疑われる可能性があるので、「今からテクニカルサポートに電話するので携帯を取りに行きます。」とカメラに向かって宣言する必要があります(その後もBOLEに書面で報告するなど面倒な手順があります。詳しくはFAQのQ14参照)。

⑬試験終了後にナイアガラの滝に行けない

  • Buffaloで受験していた例年の受験生は、試験終了後に車で約30分の距離にあるナイアガラの滝まで足を延ばして、試験の疲れを世界三大瀑布に流すことが可能でしたが、リモート受験ではできません。

  • 周囲の受験生と達成感を分かち合うこともできません。窓から差し込む朝日だけが救いでした。

  • これは完全な蛇足ですが、Buffaloはかの有名な"Buffalo buffalo Buffalo buffalo buffalo buffalo Buffalo buffalo."という構文に出てくる地名です。

おわりに

この記事が少しでも参考になりましたら幸いです。

本記事が参考になった方は「♡マーク」を押していただけると嬉しいです!

よかったらTwitterアカウントもフォローしてください。
とある弁護士 (@toaru_bengoshi) / Twitter

#nybar #NY州司法試験 #NY司法試験 #ニューヨーク州弁護士 #ニューヨーク州司法試験 #米国司法試験



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?