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育児が辛い本当の理由。線的・円環的時間の中で。

私は焦っていた。会社を辞めて入学中した大学在宅中に出産したら、双子のひとりに先天性の心疾患が見つかり、やむなく2年間も休学することになったのだ。

それに、育児中心の毎日は苦しかった。1歳になりパワーアップした双子に加えて、やんちゃな長男の相手をしなければならない。夜になると体力気力は残っておらず、子供と一緒に寝落ちする日々。自分のことなんて、ほとんど出来ない。

私は一体、何をやっているんだろう・・・

子供たちはすぐに大きくなることはわかっている。長男だって、ついこの間まで赤ちゃんだったのに、あっという間に5歳になってしまったではないか。イヤイヤ期前の1歳の双子なんて、まさに可愛い盛り。今のこの時間が、本当に貴重で大切なものだということは頭では理解している。
でも、とにかく辛い!!!逃げ出したい!!!

そんな中に読んだ『居るのはつらいよ』。私は、この本を読んで、育児が辛い理由を明確に理解できたのである。

私たちの人生には、線的時間と円環的時間が存在する。線的時間は「変化」や「成長」を私たちに与えてくれる。一方の円環的時間とは日常の「平衡状態」にある時間だ。

僕らは二つの時間を生きている。一つは線的時間で、それは僕らに物語をもたらす。もう一つは円環的時間で、それは僕らに日常をもたらす。
(東畑開人『居るのはつらいよ』より)

私は「成長」という言葉が好きだ。引きこもり生活(超円環的時間)の後に入った第一志望の大学の入学式で私は決意した。

「今日から生まれ変わろう」

それからは、がむしゃらに頑張ってきたつもりだ。でも、いくら頑張っても私の中の線的思考が囁く。
「まだまだ全然だめだ。もっと成長して変わらなければ!」

育児の対象となる子供は非常に線的な存在だ。昨日出来なかったことが、今日は出来るようになっている。日々感動の連続だ。

一方で、育児自体はとても円環的なものだ。育児を担う者は、大いなる円環的時間の中にどっぷり飲み込まれることになる。
ごはんをあげてオムツを替えて、外で遊ばせお風呂に入れて寝かしつける。これを毎日繰り返す。「毎日はぐるぐると円を描いて」繰り返される。

暮らしに占める、圧倒的な円環的日常。線的な要素、自己成長はそこにはない。私が育児は辛いと感じる理由はそこにあったのだ。

もしかしたら、いわゆる教育ママは、育児に線的なものを求めすぎた結果なのかもしれない。仕事や勉強などと比べて、成果が見えにくい育児は、線的世界を好む人々にとっては特に辛い。

そうして育児中心の生活を送り、幸せながらもモヤモヤとしていた私は、何か生活に変化が欲しくてもぐら会に参加した。

もぐら会の主催者でエッセイストの紫原明子さんは、もぐら会について「円環的と線的、両方の場所」であると述べている。もぐら会はまさにそういう場所だ。私のように普段は円環的な生活を送る人にとっては、線的な要素を強く受け取る。現にもぐら会に参加したことによって、私はこうして文章を書くようになった。一方で、普段バリバリと仕事をしている人にとっては完全に円環的な場所となる。

もぐら会を理解する上で、「円環的」そして「線的」という概念は欠かせない。

そして、昨日のもぐら会では奇跡が起こった。なんと何人もの方が「円環的時間」の大切さについて触れられたのだ。

大学4年間のぐだぐだしていた時間も、今となっては意味があるものだと思える。(Rさん)
休職してからの時間はかなり円環的だった。今までの自分だったら無駄と思っていたかもしれない。でも今は、自分の人生の中で無駄とは思えない。なぜなら新しい自分に出会えたからだ。(Mさん)
本当の自己は直線的なところではなく、ぼーっとしている円環的な時間に見つかる。三年寝太郎というように、成長の前には円環的な時間がある。(Tさん)

これ、凄くないですか。円環的な時間って、資本主義社会の中では軽視されがちだと思うんですよ。少なくとも私はあまりその重要性を理解していなかった一人なんですけど、もぐら会のメンバーは何人もの方がその重要性に気付いているんです。と、文章が唐突に話し言葉になってしまうくらい私は驚いたし、尊敬する方々が言うからには本当にそうなんだろうなと思ったのである。現に私ももぐら会メンバーと話していて、あの大学4年間に部室やカフェや飲み屋でぐだぐだしていた時間が貴重なものだったと気付いた。(その分勉強できなかったのを取り戻そうと、2回目の大学では必死に勉強している訳だが)

皆さんのこれらの言葉を、私は今の自分への応援歌のように受け取った。そして、そうか私の今の円環的な時間は、長い人生の中ではきっと意味がある時間なんだなと思えた。そうすると、何だか今の繰り返しの日常がかけがえのない愛おしいものに感じてきたのである。

#もぐら会 #もぐらのこぼれ話