言わないで。

言葉は悪だ。
わざわざ「親友」なんて言われなくても、同じことを思っていたのに。
わざわざ「楽しい」なんて言われなくても、同じことを思っていたのに。
わざわざ「愛してる」なんて言われなくても、同じことを思っていたのに。
「親友だもんね」なんて口にするから。
「楽しいね」なんて口にするから。
「愛してるよ」なんて口にするから。
同じ空間で、黙り合っている心地良さ。
同じ空間で、各々の時間を過ごす心地良さ。
同じ空間に、貴方がいるだけの心地良さ。
私と貴方は、それを知っていたはずだった。
言葉で確かめて、報われた気にならないで。
言葉で触れて、離れていかないで。
言葉で隔てて、いなくならないで。
「親友」と言えば、親友は消える。
「楽しい」と言えば、楽しいは消える。
「愛してる」と言えば、愛してるは消える。
この関係を「親友」と呼ぶのだろうか。
この状況を「楽しい」と呼ぶのだろうか。
この感情を「愛してる」と呼ぶのだろうか。
まだ、二人の間に言葉が無かった時、そこにはすべてが有ったはずなのに。
二人を繋げていたすべてが、「言葉」によって切り裂かれていく。
「言葉」でお互いを切り裂いて、傷つけ合って。
それでも、癒し合って。
「言葉」の及ばない秘密の場所で、私たちは。

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