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【掌編・短編小説】遠影灯花

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単発のオリジナル掌編・短編小説をまとめました。
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記事一覧

【短編小説】三百光年先の、その昨日の約束

二十歳。 十六年に亘って施されてきた義務教育がやっと終わった。卒業証書を受け取ると、市民…

遠影灯花
2週間前
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【短編小説】Empathy

三人の倅たちが急に優しくなった。 それで、ふとおれは思わされた。この男はすっかりジジイに…

遠影灯花
2か月前
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【短編小説】When I Was A Fish

前世の記憶か、はたまた来世の話なのかは判然としないのだが、今よりもずっとずっと遠くを流れ…

遠影灯花
3か月前
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【掌編小説】Twilight Legacy

初春の夕暮れ時、島にスターがやって来た。 正確には、帰ってきた、と言うべきか。西側にある…

遠影灯花
7か月前
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【短編小説】terrarium

三十代中盤にもなって、小学生時代から付き合いのある旧友と小学生時代の遊び、すなわち湾内の…

遠影灯花
7か月前
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【掌編小説】変幻自在

ギィ……ガガッ……。ギィ……ガガッガッ……。ギィ……ガッ……アアア――― 青空が近くなっ…

遠影灯花
7か月前
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【掌編小説】鍋底に宇宙

鍋は良い。 身体が温まるし、手間もかからないし、後片付けも楽だ。ああ、やっぱ寒いとこでは鍋に限る。 毎晩のように鍋を食べている。加熱調理のみの一人用鍋なんて物がスーパーの総菜コーナーに並んじまっているもんだから、俺の中に飼っている料理人は随分と暇を持て余すようになっちまった。それに、昆布出汁、魚介風味、キムチみそ仕立て、スープの“ヴァ”リエーションが豊富だから、一週間その一人用鍋シリーズだけで晩飯を回せちまう。こいつが余計に料理の手間暇という内面文化的な情緒の衰退を加速させち

【掌編小説】むすんでほどいて

(↑ のお話からどうぞ) 十二年前の七月二十四日は土曜日で、夕刻の町はゲリラ雷雨に見舞わ…

遠影灯花
1年前
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【掌編小説】解語之花

(↑ のお話からどうぞ) 仄暗い静謐の中にふわりと香り立った甘美な調べは、まるで、春の木…

遠影灯花
1年前
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【掌編小説】氷解

(↑ のお話からどうぞ) 最近の子供は、不気味なほど大人びている。 遊泳禁止、バス釣り禁止…

遠影灯花
1年前
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【掌編小説】魔法は解れて

その情動を「恋」と呼ぶのだと知る、それよりもずっと以前から、わたしは彼に恋をしていたのだ…

遠影灯花
1年前
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【掌編小説】Dancing Reaper

2023年10月31日のシブヤタウンにおいてのみ、殺人を許可する。 10月6日の正午にヒノマル王国…

遠影灯花
1年前
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【掌編小説】Folktale

するすると草原を靡かせる風は仄かに湿気を帯びており、数日も待たぬうちに痺れるほど寒い冬が…

遠影灯花
1年前
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【掌編小説】Pathfinder

流れの激しい川を下り、深い森を抜けて海原へ漕ぎ出たところまでは順調だった。 青々とした梢の枝葉に覆われていた頭上の視界が一気に開けると、空模様は生憎の嵐。墨色の荒波がひと際高くうねり、灯台が聳える岬に猛然と水飛沫が舞い上がる。灯台の尖塔めがけて雷光が瞬き、たちまち轟いた低い鳴動は高いビルが下の階から崩落するかのようであった。空と海が反転したような錯覚に振り回され、冒険心に侵されていた私の思考は、そこでようやく、航海を諦めるという極めて合理的な決断に至った。 岩陰に穿たれた洞窟