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「とある7人のキャリア」 短編小説集

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7人の人物を通して描く、7つのキャリア開発の物語。全9万字程度のボリュームを複数回に分けて投稿します。ミステリー、ヒューマンドラマ、純愛、経済、異世界転生といったジャンルで作り分…
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#あのキレイな海を取り戻したら

短編小説|あのキレイな海を取り戻したら #1

私の街にはキレイな海辺があった。 全長は1kmほどで割と大きい。けど、海水浴場ではないから知名度は低い。 だからこそ、地元の人たちが誇れる憩いのスポット。 何歳の頃かわからないぐらい小さい時から、両親の手を握りながらこの海辺に何度も訪れた。 貝殻を拾ったり、波しぶきから逃げ回ったり、お尻を濡らして怒られたり。 この海は、私の思い出をいっぱい作ってくれた。 それから20年は経っただろうか。 付近を走る国道は倍以上に拡幅され、産業道路になった。信号もないことからハイウェイ化し、

短編小説|あのキレイな海を取り戻したら #2

2.お金の集め方 渡辺課長に対して宣戦布告してしまった。これが俗にいう、若気の至りってやつなのかな。反抗的態度を示すと仕事がやりづらくなると思われがちだけど、意外にも自分を焚きつける原動力になった。単純に吹っ切れているだけかもしれないけど。 通常通りの仕事をこなしつつ、佐治さんが代表を務める海辺の清掃ボランティア(正式名称は、あのキレイな海を守る会って言う)の取材を並行している。高齢者なのでLineやメールではなく、全て電話。ただし、反抗って認識があるせいか、どこか後ろめた

短編小説|あのキレイな海を取り戻したら #3

3.たらい回し 「浅海さんの熱心な姿勢には感服したよ。10月号の広報誌に、3/4面で原稿出そうか」 「あ、ありがとうございます、渡辺課長!」 「でもね、ちょっとその代わり条件がある」 「え!?な、なんですか・・・?」 「猫飼いた~い」 ・・・ぬはっ!! なんという夢だろうか。気持ちが悪い。 まだ薄暗い気がしたのでスマホで時間を見ると、朝の4時19分。これは確実に2度寝していい時間。くるりと体を戻し、改めて寝に入る ・・・が、さっぱり寝れる気がしない。強烈な渡辺課長の夢の

短編小説|あのキレイな海を取り戻したら #4

4.上手な諦め方 「で、結局どうなったの?」 鷹見さんが不意に質問をしてくる。もちろん、海を守る会の原稿の話。 「・・・できていません」 「あら、それは残念ね。渡辺課長から突き返されたまま?」 「そうです」 明らかにぶっきらぼうな様子で私が答えているから、流石の鷹見さんも引いているご様子。 「そっかぁ、あの課長も気まぐれだからね。佐治さんにはなんて言ったの?」 「広報誌には載せれません、って、ちゃんとお詫びしました」 「あらぁ・・」 どんよりとした空気が流れる。で