Lost Corner

- amehurianpo  -

　私は何度も角を曲がってきた。
　喪失してきた。

　中2の息子が米津玄師の「ピースサイン」をダウンロードして欲しいとせがんだ。放映中のアニメ「僕らのヒーローアカデミア」の主題歌だった。

　正直。私の好みじゃないなあと。息子の小遣いのツケでダウンロード。

　なんとなく米津玄師の楽曲を聴いて「サンタマリア」に辿り着いた。彼のメジャーデビュー曲だ。MVも視聴。イラストは彼自身によるもの。あらま。驚いた。こんなにお若いのに、、、。

　ハチの楽曲も含め全曲をダウンロードして聴いた。まだサブスクが一般的じゃない頃の話。「ピースサイン」で小遣いをせびられた息子は返せ〜と嘆いた。もちろんこの後お釣りが来るくらい息子に分け与えた。

　米津玄師は謎めいた言葉を多用する。言葉にドキッとして、意味を考える。それが実に楽しい。深読みしたってえいいじゃあないかあ。受け取り手の解釈は自由だ。

　「ねえ、神様。私を殺して。明日になる前に。」

　私は毎晩聴いて、葬られ、そして朝を迎えた。そんな時期もあった。

　離婚。私は経済的な理由で親権者になれなかった。息子は元夫と共に出て行った。

　母であることを喪失した。

　再婚して遠方に越した私を息子が誘ってきた。一緒に米津玄師のライブに行こうと。運良く当選。結果、「地球儀」のお披露目ライブに参加できた。それだけじゃない。ライブ中「かいじゅうのマーチ」で傍の息子が号泣。息子にはこの楽曲の歌詞がどう響いたか。少なくとも私は、母と子の歌だと思っているけど。

　私の曲がり角に米津玄師。

　そういう体感でアルバム「Lost Corner」を聴く。既発表曲以外の楽曲を聴くと、なるほどと思う。ドキッとする謎々ワードが少ないからだ。「地球儀」曰く。角を曲がったんだろう。

　私は、米津玄師が言う「多くの人に届く音楽を創作したい」という気概を応援している。分かる人にだけが分かればいいよねえ、ではなく。国やジャンルや世代を越えて。たとえ往年のファンがいくばくか離れても。

　「Lost Corner」は遺失物コーナーの意味。大丈夫。忘れものならここにある。