アコギの材を語る

過去に使用したアコギを1本ずつ紹介しているが、どうしても淡々と、淡泊に情報を記載してしまっている気がして、ここで閑話休題。もちろん話題の内容はアコギに関連したことであるが。
このテーマは、アコギ弾きならどこかの時点で考える論点だと思う。トップ材は何が好きで、バック材は何が良いか。2022年8月現在、私自身が保有しているアコギは2本あり、それぞれの持つ個性は互いにまったく似ていない。材の組み合わせは、1本はイングルマンスプルース単板ーココボロ単板、もう1本はスプルース単板ーマホガニー単板である。この2本のギターに今は非常に満足しており、特にココボロを使用したギターは、未だかつて味わったことのない芳醇な重低音を聞かせてくれている。もう一方がふて腐れてはいけないので言及すると、マホガニーのギターも、これぞマホだ!という、インドローズ系に比べればどこかチープで、ブルージーなテイストをだしてくれている名器と感じている。
トップ材、これはスプルースがポピュラー、というか基本仕様はスプルース、中でもシトカスプルースというのが世のアコギの趨勢である。亜種としてイングルマンスプルース、アディロンダックスプルース、ジャーマンスプルースがあり、マニアックなところではスロバキア初のメーカーDOWINAのギターは、ドロミテスプルースなるものを使用している。国内でもアストリアスというメーカーはアラスカスプルースというものを使用したギターをレギュラーラインで提供しているが、シトカとどのような違いがあるのかは知らない。スプルース以外では、シダー(杉)があり、これもレスポンスがよく鳴りやすいとの評判はよく耳にする。材の柔らかさという点では、イングルマンスプルースはこのシダーに近い性質らしく、ソロギター向きな、柔らかく広がりの音の出方である。シトカスプルースにしても、並のものから上等のものまでグレードがあるようで、シトカだからダメだとか良いとか、それはなんとも言えないようである。ただ、アディロンダックやジャーマンには並のシトカにはない特性があるようで、今まで保有した中では、アディロンダックスプルースのギターは豪快にかつ爽やかに、音も少し太く鳴る、という好印象を持っている。ある書籍にて、日本のアコギ手工製作家(ルシアー)が、ソロギターに向いているのはアディロンダックではなくジャーマン、と言っており、いつかはジャーマンスプルースに上等なインディアンローズウッドを使ったルシアーもののギターを持ってみたいな、という夢を持っている。

サイド・バック材である。これは王様としてブラジリアンローズウッド、つまりハカランダが君臨している。ハカランダで製作をオーダーするなら、それだけでプラス30万円くらいは覚悟しなければならない。ただの自己満足で、現在持っているココボロ材の使用オプションに要するアップチャージを調べたが、こちらは8万円~15万円程度で、ハカランダには全く及ばないが、マダガスカルローズウッドとは良い勝負をしていた。ローズウッド系でいえば、ほかにホンジュラスローズウッド、カンボジアンローズウッドがあり、系列が同じか怪しい知識だが、ハカランダ以上の重低音を出すとされるアフリカンブラックウッドも比重が大きい点で、ローズ系の材であろう。サイドバック材の王道は、ローズウッドとマホガニーに分かれる。マホガニーについては、ローズウッドに比べれば少し音の線が細いかなと感じることが多いものの、軽快な、これぞアコギ!という要素や、ブルースに合うようなパーカッシブな響きではマホガニーに軍配が上がると思う。

そのほか、私が保有してきた希少なサイドバック材として、ハワイアンコア、そしてトチがある。ハワイアンコアのギターは、非常に軽快で明るい温色であった。一方トチは、独特な艶のある、倍音はローズウッドほどではないが、ローズ系にはない柔らかさと色気を持った音を奏でる材であった。

ちょっとまとまりに欠けるが、材の違いに興味の重心を置いてしまうことは、プレイヤーとしてのアコギ愛好家にとっては必ずしも幸福なことではないと思っている。なので、材について語るのはこれくらいにしておきたい。なぜなら、生涯で手にすることができるアコギの数は限られているからである。ソロギターを愛する私としては、ハカランダや、聖杯とも呼ばれるアフリカンブラックウッドを使用したギターには大変興味があり、いつ足下をすくわれてもおかしくはないかもしれない。しかし、ココボロやインディアンローズウッドでも決して負けてはいない。というより、それらをいかに愛することができるか、それはプレイすることによってのみ培っていくことができるその個体への愛情のような気がしている。マホガニーも、今使っているギターはよくあるアフリカンマホガニーである。ホンジュラスマホガニーや、幻の、と形容されるキューバンマホガニーとは違うのかもしれない。しかし、コイツだって負けてないぜ、アフリカンマホガニーだっていい音出すんだぜ、ということをプレイを通してアピールしていきたいと思うのである。


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