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進化の先に

 人は文化による進化を十分に許容出来るような余裕を持った生物学的な進化をした生物だ。そのおかげで人類は、時間の掛かる生物学的な進化を待たずに文化的な進化を遂げた。

 文化的な進化を可能にさせたのは、紛れもなく発達した脳だ。記憶と学習、そして推測という機能を司る脳は、行動様式の変化を自在にし、環境への適応力を高めた。それは一つの個体にとどまらず、言語を通じた意思疎通によって文化の成立を後押しした。

 脳が高い機能を発揮するのは、情報を抽象化する仕組みをその構造に内包しているからだ。他の生物がリアルタイムな情報(刺激)を逐一処理する神経系を持つのに対し、人間の脳はリアルタイムな処理系と並列して抽象化処理系を持つ。ポイントを押さえるといったようなことが出来るのだ。さらに、記録された多くの情報を用いて抽象化概念の中で処理することで、高精度な予測を可能とした。

 脳が持つこうした機能性は人類が生まれてから生物学的には大きな進化をしていない。少なくとも構造的には大きく変わらない。それでいて、処理の過程や方式を自在に変えることで様々な環境変化に適応出来るようになった。
 裸なら温暖な環境でしか生きられない人類が、様々なツールを手にすることで、またそれらを適宜工夫することによって、生存可能な領域を広げた。ある意味で、それまでの生物が形質ベースの進化をしてきたところ、人は別の形の進化をするようになったとも言える。

 そして今、脳を外部に拡張するかのような試みを始めている。人工知能のことだ。センサーを神経系に接続するための実装研究も進んでいる。つまり人は技術によって脳を進化させようとしている。
 人類が行ってきた、そして行おうとしている文化的技術的進化は、自然界の他の生物と違うという点において、自然に反している。人が生きるためであれば、他の生物種の生命をもてあそび、容赦なく奪うことを是とした勝手な解釈で地球を食い潰している。
 きっと人は地球温暖化問題を乗り越える術を見つけるのだろう。あらゆる技術を駆使して人工食料と人工空気と人工水を作り出して生き延びるのだろう。しかし、その時地球上に人間以外の生物がいなくなるのだとしたら、私は願い下げだ。

 自然の豊かさを実感する機会が減っている。
 なんとなく夕陽を眺めている時に、不意に目の前の自然に心を奪われて感動に立ち尽くす。そんな経験をしたことがあるだろうか。波音に耳を澄ませているうちに宇宙と一体化したような感覚に襲われる。頬に感じる風で季節を感じる。またたく星の間に流れる一閃の輝きに感動する。そうした体験がどんどん身近では無くなっている。
 人間が機械化された未来なんて、私は嫌だ。

おわり
 

 


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