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長岡研究室の活動ビジョン

活動テーマは「創造的なコラボレーションのデザイン」

 法政大学経営学部・長岡研究室は「創造的なコラボレーションのデザイン」というテーマで活動しています。経営学部のゼミは、消費者行動論、管理会計論、組織行動論のように学問分野に対応させたテーマを掲げていることが多い中、「経営学部っぽくないなあ」と思うかもしれません。その通りです。長岡研究室が目指しているのは、“未来の常識”を先取りした新しい社会の姿を探っていくこと。そして、現代社会の様々な分野で「創造的なコラボレーション」をデザインしていく人材を育成することです。
 つまり、「創造的なコラボレーションのデザイン」という、経営学部っぽくない活動テーマには、

一人ひとりのメンバー(学生)が、
「経営」の分野にとらわれず、
本気で創造性を発揮していく「学び場」を作りたい

という意味が込められています。教科書の中に書かれている「既存の知識を習得する」という学習スタイルではなく、未来の社会を想像しながら、今はまだ存在しない新たな価値を探し求めて、街を歩き、人に会い、対話を交わす。そして、失敗を恐れず試行錯誤を繰り返しながら、現代社会の様々な場面(ビジネス、まちづくり、社会活動、教育など)で、創造的な問題解決(= デザイン)に取り組んでいく。これが長岡研究室の掲げる学習スタイルです。


ソーシャル・デザインへの関心

 長岡研究室の関心は“未来”にあります。古い価値観や慣習にとらわれることなく、一人ひとりが自由闊達に個性を発揮できる未来の社会のあり方を探り、描いていく、未来志向の活動に取り組んでいます。特に強い関心を持って取り組んでいるフィールドワークの対象は、

• 経済性を絶対視せず、本当の「豊かさ」を尊重するライフスタイル
• 所属や肩書きに頼らない、個人として自立したワークスタイル
• やらされる勉強ではなく、新しいことを主体的に学び続けるラーニングスタイル

を実行している先駆者たち。時代を先取りしている先駆者たちに会いに行って、話を聞いたり、活動の手伝いをしながら、最先端のイマジネーションとリアリティを全身で体感してみることです。そして、文献にもウェブにもまだ載っていない、先駆者の頭の中だけに存在する「最先端」の刺激を浴び続けながら、新しいライフスタイル、ワークスタイル、ラーニングスタイルを構想していくことに、長岡研究室の関心は向かっています。
 このような活動は「ソーシャル・デザイン」と呼ばれていますが、その特徴は、

「経済合理性だけで、良し悪しを判断しない」

ことにあります。資本主義社会に生きる私たちは、金銭的な豊かさが大切であることを日々実感しますが、過度な経済性追求が必ずしも幸福をもたらす訳ではないことも知っています。では、経済的な豊かさを過度に重視することなく、一人ひとりが自分にとっての「豊かさ」を追求し、多様な価値観をどのように実現していくか。「ソーシャル・デザイン」という活動の根底には、常にこの問いがあります。言い換えると、この問題への創造的な解決案を“デザイン”する人材が、ソーシャル・デザイナーです。
 特に、長岡研究室は以下の4分野に関わるソーシャル・デザインへの貢献を目指しています。

• 一人ひとりのスタイルで暮らしを楽しむ
【KeyWords】
 循環型経済
 シェアリング
 フードロス
 アップサイクル
 二拠点生活
 心と体の健康
 スポーツと暮らし

• 多様性な価値観が溢れた社会を実現する
【KeyWords】 
 ダイバーシティ&インクルージョン
 パラレルキャリア
 エシカルファッション
 フェアトレード
 ソーシャルビジネス

• 自由闊達な空間・場・地域をつくる
【KeyWords】 
 コミュニティ
 サードプレイス
 スマート・ワークプレイス
 まちづくり
 居場所づくり
 カフェ空間

• 「学び」の新たな意味とスタイルを探索する
【KeyWords】 
 越境活動
 アンラーニング
 対話
 ワークショップ
 フィールドワーク
 脱・人材育成 


デザインとクリエイティブの違い

 誤解を恐れず端的に言ってしまえば、長岡研究室の活動領域は

マネジメント領域ではなく、
デザイン領域に位置づけられる

ということになります。経営学部生からは「えっ、美術系の学部じゃないのに」という声が聞こえてきそうですが、「クリエイティブ領域」と「デザイン領域」の違いに留意してください。
 創造的な活動には、「クリエイティブ」「デザイン」「マネジメント」という3つの機能が必要になります。クリエイティブ領域の機能とは、アイディアをカタチにすること、つまり、具体的な制作物を作り出す(創り出す)ことです。アーティスト、作家、音楽家、装飾デザイナーなど、いわゆる「クリエーター」と呼ばれる人たちがこの機能を担いますが、芸術系の分野だけでなく、エンジニア、科学者、建築家といった高度な専門知識を活用して「アイディアをカタチにする」ことを担う人々も含まれます。
 それに対して、デザイン領域の機能は、創造的活動の意味・意義・位置付けを考え、ビジョンを構想し、企画を練り上げていくことです。これらを担当する人は、プロデューサー、ディレクター、エディターと呼ばれています。つまり、クリエイティブとデザインの違いはこのように表現できます。

クリエイティブ = 作り(創り)出す
デザイン = 設計(構想・企画)する

 さらに、「クリエイティブ」「デザイン」という創造的機能に加え、与えられた資源をやり繰りしながら、事務管理的な側面を担う「マネジメント」が上手く機能することで、「創造的なコラボレーション」が実現します。
 従来、経営学は「マネジメント領域」に貢献する人材を育成してきましたが、長岡研究室は活動ドメインを「デザイン領域」に位置づけています。そして、現代社会の様々な場面(ソーシャル・デザイン、ビジネス、まちづくり、教育など)で活躍する“デザイナー”を目指す学生の「学び場」をデザインし、カタチにしていくこと自体が、長岡研究室の活動を構成しているのです。

図1


デザイン領域で活躍するために 

創造的な活動のビジョンを構想し、企画を練り上げていく“デザイン”は繊細で、多面性をもつ知的営みです。世に溢れる「○○発想術」のようなハウツーを勉強しても、構想・企画の実力(= デザインの実力)は向上しません。構想力・企画力を磨いていくには、複雑に絡み合った知的プロセスを高いレベルで実践していくことが求められます。長岡研究室では、ワークショップ、フィールドワーク、プレゼンテーションに関わる思考と表現を学んでいきます。

• ワークショップを企画し、人々を巻き込みながら創造的な雰囲気の場を作りだす力
• フィールドワークを行い、新たな事象を発見し、人との関係性を構築する力
• 多彩なメディアを駆使しながら、表現力豊かなプレゼンテーションを実演する力

 長岡研究室では、ワークショップの企画・運営を数多く経験します。それは「授業中に行う課題」ではなく、企業やNPOとコラボしながら実践する本気のプロジェクトです。その一環として、社会人と学生が集い、多彩なゲストの話を聞きながら、自由でリラックスした雰囲気での対話を楽しむ「カフェゼミ」というオープン・ゼミを展開しています。

 また、長岡研究室の学生はフィールドワークを通して、未来を先取りしている同年代の先駆者に出会います。彼女/彼らは、何となく授業に出席し、バイトに長時間を費やす生活ではなく、社会と真剣に向き合い、開かれた世界のネットワークの中で躍動している人たちです。学生のうちに起業する人もいるし、企業に属しながらNPOで活動する人もいます。フリーランスとして社会貢献に取り組む人もいます。世間のアタリマエとは異なる道を歩んでいる人たちに出会い、言葉を交わし、一緒に活動することを通じて、新たなライフスタイル、ワークスタイル、ラーニングスタイルを発見していくのです。長岡研究室ではこのようなフィールドワークを“越境活動”と呼び、積極的に取り組んでいます。

 現代社会の様々な場面で活躍する“デザイナー”は、ワークショップとフィールドワークの実践者であると同時に、人を惹きつけるプレゼンテーションの実演者という顔を持っています。長岡研究室メンバーは、創造的な思考と表現に関する文献を読み込み、数多くの実践を経験することで、魅力的なプレゼンテーションを実演する力を醸成していきます。


“Name the World”を目指して

 新しいことを始めるときに必要なことは何か。教育思想家のパウロ・フレイレは「世界を命名すること(Name the World)」の重要性を真っ先にあげています。

「対話とは、世界を命名するための、世界によって媒介される人間と人間との出会いである。」 (パウロ・フレイレ 『被抑圧者の教育学』 p97. より)

 呼び方も決まっていない「新しい世界」を歩んでいこうとするとき、命名されていない状態の不安定さ、曖昧さに耐えかね、慣れ親しんだラベルを張りたくなります。でも、古いラベルが張り付けられたその瞬間に「新しさ」は消え去ります。「新しい世界」を歩む人々が集い、不安定さ、曖昧さを受け容れながら「新しい世界」を命名するために言葉を交わす。そのプロセスが対話であり、本当の意味で「新しい世界」を切り開いてくことだという主張を、フレイレの言葉から読み取ることができます。
 経営学部にありながら「創造的なコラボレーションのデザイン」というテーマを掲げる長岡研究室の活動には、わかりにくさ、不安定さ、曖昧さが常につきまといます。「それって経営学と関係あるの?」と毎日のように聞かれます。そのたびに、長い時間をかけて、丁寧に、そして、決して「古いラベル」を使うことなく話し続けます。面倒臭いとは思いません。それが“Name the World”ということであり、新しいことを始めるときに必要なことですから。

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