hims & hers(HIMS)を調べてみた
こんにちは、たぬきです。1月20日に、Oaktree Acquisition Corp.(OAC)と合併してSPAC上場したhims & hers(HIMS)を調べてみました。備忘録として残しておきます。
hims & hersは、医薬品販売をはじめ、メンタルヘルスやプライマリ・ケアに関する遠隔診療をD2Cで提供している企業です。脱毛やEDなど男性特有の悩みに対応するhims、ピルや美容など女性を対象とするhersのブランドを展開しています。セクシャルヘルスや脱毛に関する悩みはなかなか人に相談しにくいものですが、オンラインで専門医に相談し、必要な治療薬を購入したりカウンセリングを受けることができます。
同様のサービスを展開する競合には、Conversion Labs(CVLB)が挙げられます。ラクチンさんがブログで分析をされているのでおすすめです。
1. 企業概要
hims & hersは2017年にAndrew Dudumによって創業されました。2016年にAndrewが実妹から乾燥肌と吹き出物について指摘を受け、高額なフランス製の製品を買ったことが起業のきっかけ。まだ32歳の若いCEOです。
創業前は、AndrewはAtomic Labsというベンチャーキャピタルの設立に携わっており、現在もパートナーを努めています。Atomic Labsはhims & hersの株を6%保有しています。
ボードメンバーにはGoogleやNetflix出身者もおり、メンタルヘルスに関するSVPにはTeladoc Behavioral HealthのGeneral manager兼Presidentを努めたJulian Cohenがいます。
2. 事業内容
プライマリ・ケアの遠隔診療、脱毛、セクシャルヘルスケア、メンタルヘルスケアなどのサービスを展開しています。
2-1. プライマリ・ケア
風邪やアレルギーなど一般的な疾病に関するプライマリ・ケアを遠隔診療で提供しています。39ドルで受診することができ、発行された処方箋をもとに自宅近くの薬局にて医薬品をすぐ受け取ることができます。すべての州で利用可能で、現在は以下の症状に関する診療に対応しています。
Cold & Flu(風邪)、Allergies(アレルギー)、Infections(感染症)、Skin(皮膚疾患)、Fungal Infections(真菌感染症)、Tension Headaches(緊張性頭痛)、Medication Refills(喘息・片頭痛の薬処方)、Acid Reflux(胸焼け)*、Stomach(胃腸炎)*
*は近く対応される予定の症状
2-2. ヘア・ケア
himsでは脱毛に関する悩みを、ライセンスを保有する専門家から無料カウンセリングを受け取ることができます。また、カウンセリングに基づき、治療や予防に必要なシャンプーや、FDAからの承認を受けた医薬品をオンラインで購入することができます。単発購入だけではなく、月額22ドルからサブスクでも利用できます。90日間の返品保証付きです。
hersでは脱毛や髪質の悩みにアプローチするシャンプーや医薬品を取り扱っています。
2-3. セクシャルヘルスケア
himsでは専門家からEDに関する無料カウンセリングを受け、必要な医薬品を購入することができます。すべての製品はFDAの承認を受けており、ED治療薬だけではなく、バイアグラや早漏治療薬なども取り扱っています。
hersでは専門家から無料カウンセリングを受け、経口避妊薬を購入することができます。ヘルペスウイルス感染症治療薬なども取り扱っています。
2-4. スキンケア
himsとhersともにアンチエイジングやにきび治療などの医療製品を取り扱っています。
2-5. メンタルヘルス
Teladocの決算発表でも述べられていましたが、コロナの影響も受け、メンタルヘルスのニーズは高まっており、遠隔診療サービスは需要が拡大している分野です。hims & hersでは、4つのサービスにより睡眠障害や不安障害、鬱などの遠隔診療に対応しています。
①Psychiatry Evaluation and Medication:精神科医による診断から治療薬の処方、フォローアップを受け取ることができます。
②Anonymous Support Groups:オンラインで匿名でグループセラピーに参加できます。各回1時間以内で、価格は15ドルですが、現在は無料で参加することができるようです。
③Resources and Content:精神科医によるコンテンツを無料で視聴することができます。Youtubeチャンネルで視聴できます。
④Individual Therapy:現在、準備中ですが、精神科医との1対1のセラピーを受診できるようになる予定です。
2-6. コロナテスト
コロナのテストキットを$150で購入することができます。コロナに関する悩みはメンタルヘルスのサービスで相談することができます。
2-7. サプリメント
コラーゲンやビタミンなどのサプリメントを販売しています。
3. 市場
3-1. TAM
不安障害・うつ病は140億ドル、スキンケアは440億ドルと、hims & hersがアプローチする市場はいずれも大きいです。様々な製品やサービスが日々生み出される分野であるため、Winner takes allの市場ではないでしょう。その中でも脱毛やEDなどよりニッチな市場を狙っています。
年齢別の市場を観てみると、18〜40歳が3,500億ドル、40〜60際が4,000億ドル、60歳以上が5,000億ドルと見積もっています。現在は18〜40歳を主なターゲットとしていますが、顧客の成長に合わせ新しい製品やサービスを展開していくことを目指していると思われます。
3-2. 競合
競合として、遠隔診療サービスのTeladocやLivongo、amwell、onemedical、医薬品販売のGoodRxなどを挙げています。その中でもB2Cと遠隔診療に特化していく戦略をとっています。なぜか直接競合になると思われるConversion Labsは図に含まれていません。
一方で、Conversion Labsのマトリックスにはhims & hersは含まれています。High CostがLow Valueなのかというツッコミは置いておき、hims & hersと比較して、Conversion Labsがより低い価格帯を目指していることが分かります。
実際にそれぞれの商品価格を比較してみると、ヘアケアではConversion Labsの方が高価格の商品を取り扱っているようですが、ED治療では他のブランドと比較して低価格帯になっています。この比較表に含まれるromanやUpScriptも同様のサービスを展開しているようです(どちらも未上場)。
また、上記のマトリックスやラクチンさんの記事を見るに、hims & hersはよりD2Cの遠隔診療サービス分野に、Conversion Labsは子どもと赤ちゃん、ペットなどよりニッチな分野に展開することで差別化を図っているように思われます。
4. 業績
4-1. 売上
2017年11月にサービスをローンチしてから、わずか1週間で100万ドルを売り上げ、翌年の売上は2,700万ドルまで達しています。そこから年成長率+128%で成長し、2020年の売上は1.38億ドルとなる見込みです。粗利も2018年の8ドルから98ドルまで増加しており、年成長率254%と伸びています。2020年Q2の時点でグロスマージンは71%です。
四半期ごとの成長も順調であり、2020年Q2の時点で、オンライン販売数は57万件、平均注文価格も年成長率59%で成長しており59ドルに達成しています。
売上構成をみてみると、57%がセクシャルヘルスケア、35%が皮膚疾患や脱毛、7%がそれ以外となっています。サブスクによる売上は全体の91%を占めていますので、EDや脱毛治療である程度の期間を利用する顧客が多いようです。
4-2. 成長見込み
2021年・2022年の売上成長率は30%、2021年に1.79億ドル、2022年に2.33億ドルの見込みです。正直なところ、これまでの成長率や大きなTAMを考えると期待外れの数字です。この見込みを上回っていけるかCEOの手腕が問われそうです。
4-3. Conversion Labsとの比較
一方、Conversion Labsの売上成長を観てみると、2018〜2020年は年成長率114%で、2020年には3,800万ドルに達する見込みです。hims & hersと比較して約4分の1程度です。2021年には6,070万ドルを見込んでおり、成長率は約60%となり、hims & hersの倍になります。
最近hims & hersはARKの買い付けがあり急騰したため、時価総額は46.4億ドルと、Conversion Labsの5.6億ドルと比較して約8倍になっています。PSR(LTM)はhims & hersが35.2倍、Conversion Labsが19.7倍です。2021年の売上でマルチプルをみてみると、hims & hersが25.9倍、Conversion Labsが9.2倍で、Conversion Labsの方がだいぶ割安に思われます。
5. 最後に
もともとhims & hersが気になっていたのですが、マネックス証券で買えないことから、Conversion Labsを保有しています(本日2月9日からマネックス証券でも取り扱いが開始されます)。
hims & hersは業界のリーダーであることやブランディングの上手さに惹かれるのですが、やはり2021年以降の低い売上成長率が気なります。成長鈍化の理由が分からないのですが、バリエーションもそれなりに高いので、いま焦って買う必要もないという考えです。
Conversion Labsも同様に売上成長率をどれだけ維持できるかが気になるところですが、もしConversion Labsがhims & hersと同程度のマルチプルで取引されるとすると、2021年の売上成長率を考慮すれば、ここから2〜3倍になる可能性はあるかもしれません。面白い分野であると思いますし、Conversion Labsはしばらく保有してみます。
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