わりとていねいな「ギンコ・ビローバ」考察

1.前置き
2.思い出アピール「ゲン・フゲン」とコミュの小タイトルについて
3.trueコミュ「銀」を現代文的に読み解く
4.長い長い蛇足

1. 前置き
以降で述べることは「ギンコ・ビローバ」の個人的な考察です。多くのネタバレを含みます。また、客観的な根拠を示そうと努力していますが、あくまで主観的なものです。決して「正解」を断言するようなものではないことを理解したうえでお読みください。かなりの文量になってしまったため、太字だけ読めばだいたい分かるようにしました。二十括弧⦅⦆内は考察に直接関係のない余談ですので読み飛ばしていただいて構いません。
(以下ではプロデューサーのことをPと表します。)

2. 思い出アピール「ゲン・フゲン」とコミュの小タイトルについて
結論から述べると、「ゲン・フゲン」は「言、不言」を指していると思われます。
「ギンコ・ビローバ」の各コミュ小タイトル「囀」、「信」、「噤」、「偽」、「銀」と合わせて、コミュの内容をきれいな対称性を持って表すことが根拠です。「言」、「囀」、「信」、「噤」、「偽」、「銀」はPの言動を、それらに否定語「不」をつけた「不言」、「不囀」、「不信」、「不噤」、「不偽」、「不銀」は円香の言動を表しています。

a. 「囀」、「不囀」
「囀る」と書いて「さえずる」と読みます。小鳥が鳴き続けること、転じて(比較的)やかましくしゃべり続けることを意味します。冒頭ではP推し垂涎の歌唱シーンがありましたね。選択肢次第ではPに差し入れのことを思い出させるために円香も一瞬「ちゃうちゃう」と口ずさみますが、別選択肢における円香の発言「歌いたいときに歌っていいのは小鳥だけ」からもわかる通り、円香が楽しくさえずっているわけではない、普段からさえずることはしないことが分かります。

b. 「信」、「不信」
円香の元同級生と電車内で遭遇し、噂話をしているのを聞いてしまうコミュです。選択肢「…そうだな」を選ぶとPは到着まで仮眠をとると言います。同級生らが去った後で、円香がPに元同級生らの話の一部が嘘だとつぶやくと、Pは「俺は円香の言葉を信じるよ」と返します。言葉通りであればPは寝ていたはずですが、「寝ている」というPの言葉が、円香への配慮(円香風に言えば『余計な気遣い』)であることに円香は気づいており、Pの「寝ている」を信じていませんでした。

c. 「噤」、「不噤」
「噤む」で「つぐむ」と読みます。黙るという意味です。偶然遭遇した映画関係者に対し映画の感想を饒舌に語る円香と、それを見て押し黙るPが描かれています。(円香の連続セリフにわざわざPのセリフ「…」が挿入されていることから、Pが黙っていることを強調して描写していることが分かります。)
⦅選択肢「予定より長引いて悪かった」を選ぶと、円香がアイドルとしてのプロ意識を身に着け始めていることを、他二つの選択肢を選ぶと「良いもの、大切なものほど話したくない、内に秘めていたい」という円香の感性の中核を知ることができます。非常によくできたコミュだと思います。⦆

d. 「偽」、「不偽」
同じオーディションに挑戦するアイドルの一人を円香が励ましているのを目撃するコミュです。一見「願いは叶う」と励ましの言葉をかけた円香が「偽」っているように見えますが、Pに対しては「無理だと思いますよ」と本心を偽らずに伝えます。
また、選択肢「円香は優しいよ」を選ぶと、円香が言葉に誠実であろうとしていること、励ますために理想論を口にはしたが、あえて嘘をつこうとはしていなかったことが示されます。「言いたいんでしょ、願いは叶うこともあるって」と円香が述べる通り、この種の夢は叶う、理想は現実になるという言葉はPが常々繰り返している言葉であり、担当アイドルを(時には自分さえも)偽っているのはPの方です。
⦅彼は芸能界をある程度経験している社会人であり、すべての願いが叶うわけではないこと、現実は理想とは違うことを当然分かっています。アイドルになりたい女の子は星の数ほどいますし、彼は選抜オーディションで数多の女の子を不合格として送り返したはずです。(事実、小糸の共通コミュ「ガラスの嘘」にて小糸との面接当初、小糸が幼馴染の話をする前まで、小糸にアイドルは難しいだろうと考えていたと述べています。)素質がなければ、成功することは難しい(≒不可能である)。その事実を選抜されたアイドルの「プロデューサー」が認めないのは明らかな偽りです。⦆

e. 「銀」、「不銀」
黄葉したイチョウの葉が舞う道を歩く円香の美しさと、衝撃的な独白が印象に残るtrueコミュです。「銀」が「銀杏」(イチョウ)にもかかっていることは明らかです。
それとは別に、a~dにおいてコミュタイトルがPを、その否定語が円香を表しているので、ここでも同様に「銀」がPを、「不銀」が円香を示している可能性を検討します。まず「不銀」とはなにか?銀には対義語も、「不銀」という名前の金属も存在しないので、「銀」と慣用的に比される物、金と考えるのが自然です。(金賞、銀賞のように、最も価値のあるもの、その次に価値があるものという意味で「金」、「銀」は広く用いられています。)そして金、銀を共に含む(おそらく)唯一のことわざに次のようなものがあります。『雄弁は銀、沈黙は金。』銀はPを、金は円香を示すので、「銀、不銀」は「雄弁、沈黙」を意味することになり。これは思い出アピール名「言、不言」を言い換えて繰り返していることになります。何を「言う」のか「言わない」のかは様々な解釈の余地がありますが、一貫性を持ってコミュの命名を説明できることから、以上の解釈には一定の客観性があると考えています。

人によっては自明だと思われることを長々と説明してきましたが、以上の考察から以上の考察から重要なことが分かります。(少なくともこのカード中のコミュにおいて)Pと円香が対照的な存在として、対比しながら描かれているということです。
⦅そのためこのカードにはPに関する重要描写も多く、円香推しだけでなくP推しにも必須のカードになっています。限定カードだけど(一つ前が恒常ガチャだし)まあヨシ!の精神ですね⦆

3.trueコミュ「銀」を現代文的に読み解く

「あなたは」
「愚直で」
「スーツも」
「折り目正しく」
「美しい」
「ああ」
「ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまえばいいのに」

衝撃的な独白でした。多くの人がその意味する所を掴みかね、困惑しているようです。何が「引き裂かれてしまえば」いいのか明示されてないので、無限に解釈の余地があるのですが、ここでは現代文的なアプローチでその対象(のうちの一つ)を考えてみます。

独白の最後の文に注目してください。「ぐちゃぐちゃに」という副詞を消した場合でも、「引き裂かれてしまえばいいのに」という文になり、文章として成立します。この独白は目的語を省略するほど意図的に短く作られているので、「ぐちゃぐちゃに」が単なる修飾、ニュアンスの説明のためだけに残されたとは考えにくいです。そこで、文中で「ぐちゃぐちゃに」対応している、係っている語句を探すと、「スーツ」を修飾している「折り目正しく」という最適な語が見つかります。「折り目正しい」と「ぐちゃぐちゃ」は反対の意味を持つので、この「ぐちゃぐちゃに」という副詞は、「引き裂かれる」の対象が「折り目正しい」「スーツ」であることを示唆しています。

引き裂かれる対象が「スーツ」であることが分かったところでまだ問題があります。このままだと円香がPを裸に剥きたいだけの変態になってしまうということです。それはそれでありかもしれませんが、ここでは真面目に「スーツ」がただの衣服以外の特別な意味を持つとしてその言葉の真意を検討します。

Trueコミュ中の独白前のPと円香のやり取りから重要と思われる部分を抜粋します。

円香「完璧な自己プロデュース……一流ですね、ミスター・プロデューサー」
P「はは、その評価は少しだけ嬉しいけど……かいかぶりすぎじゃないかな」
P「身の丈に合わないところまで精一杯……『プロデューサー』でありたいって努めているだけだよ
P「立派な肩書をもらっても……形だけだから、結局、何をするかでしか語れないんだ」
P「だから、俺は頑張るしかないんだよ」
P「スーツを脱いだら、そんなにできた人間じゃないからさ

もうほとんど答えを言っていますね。「スーツ」はPが壮絶な努力によって自己プロデュースしている『プロデューサー』というペルソナの象徴なんです。
つまり円香の「ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまえばいいのに」には、
「(Pの)取り繕われた外面が剥がれ、(醜い)本性が露わになればいいのに。」というような意味が含まれることが分かります。

4. 蛇足
以降は蛇足です。客観的根拠に乏しく、個人的な感想なども多く含みます。以上の考察が割と気に入った、暇な人だけ話半分にお読みください。円香がPラブ勢であってほしいと考える人もぜひご一読ください。

a. そもそも「ギンコ・ビローバ」とは?ゲーテの詩「銀杏の葉」から示唆されること
この話はもともと本編に入れるつもりでしたが、ほとんどのPカードのタイトルが割とテキトーに、そんなに深い意味持たずにつけられていることに気が付いて泣く泣く蛇足の方に入れました。「作者の人そんなに深く考えてないと思うよ」ってやつですね。

そもそもカード名の「ギンコ・ビローバ」とは何か?「Ginkgo biloba」、イチョウの学名のカタカナ読みだと思われます。Trueの演出ではイチョウ並木が描かれていますから、コミュの内容をちゃんと表しています。しかし、イチョウ並木を指すためだけに、わざわざ学名を持ってくるでしょうか?少し気取りすぎだと思います。一般的に知られた外来語ではなく、検索にかけてもひたすらイチョウ葉サプリがでてくるばかり。タイトルを「イチョウ並木」とか「イチョウの季節」など、簡便なものにしなかった理由があるはずです。また、思い出アピールとコミュの小タイトルにも仕掛けがあったことから、カードタイトルにも二重の意味が秘められている可能性は十分にあると思います。

世界的に有名なゲーテの詩のひとつに「Ginkgo Biloba」があります。日本でも「銀杏の葉」と訳され親しまれています。以下は手塚富雄さんによる訳詩です。

「銀杏の葉」

東洋からはるばると
わたしの庭にうつされたこのいちょうの葉は
賢い者のこころをよろこばせる
ふかい意味をもっているようです。

これはもともと一枚の葉が
二つに分かれたのでしょうか?
それとも二枚の葉がたがいに相手をみつけて
ひとつになったのでしょうか?

このようなことを思っているうちに
わたしはこの葉のほんとうの意味がわかったと思いました。
あなたはわたしの歌をきくたびにお感じになりませんか、
私が一枚でありながら
あなたと結ばれた二ひらの葉であることを?


この詩はゲーテが直接会えなくなってしまった不倫相手のマリアンヌに手紙として贈ったものです。様々な解釈があるとは思いますが、主題はおおよそ「(今は会えないが)私とあなたは心でつながっている。あなたを恋しく思っている。」というようにまとめられると思います。仮に「ギンコ・ビローバ」がゲーテの詩「銀杏の葉」を意識したタイトルであるとすれば、この詩によってなにが示唆されているのでしょうか?

この詩で一番のキーポイントになっているのは太字部です。「私が一枚でありながら、あなたと結ばれた二ひらの葉であることを?」ここではゲーテとマリアンヌを一枚のイチョウの葉に例えています。真ん中に浅く裂け目が入ったイチョウの葉の形を、独立した二枚の葉が根元でくっついたようだととらえ、「私とあなたはそれぞれ独立した人間で(今は)離れているように見えるが、(精神的には)ずっとつながっているのだ」といっているわけですね。細かく説明して無粋になってしまいましたが、とても情熱的で風流な詩だと思います。

ここで「ギンコ・ビローバ」に話を戻します。「ギンコ・ビローバ」がこの詩を踏まえたものであれば、trueコミュ「銀」のなかに関連するポイントがあるはずです。(イチョウの葉が登場するのは「銀」の演出中のみなので)そして「銀」の中で二重の意味を持たせられるような表現、ダブルミーニングが仕掛けられていそうな表現は一つしかありません。そう、

「ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまえばいいのに」

あえて目的語を明示せず、読解を難解にしているこの文です。そして詩、「銀杏の葉」の中で「引き裂かれる」対象としてもっとも自然なのは『銀杏の葉』そのものです。これはGinkgo biloba という語の成り立ちからも説明できます。イチョウはもともと中国から日本、日本から西洋に伝わった植物で、Ginkgoは日本語の銀杏(当時の読みはギンキョウ)に由来します。そしてbilobaはbi(2つ)+lobe(裂片)という語源からなる造語であり、イチョウ特有の裂け目の入った形状の葉を示しています。ですから「裂ける」対象としてイチョウの葉はこの上ないものです。

では詩「銀杏の葉」において銀杏の葉が「ぐちゃぐちゃに引き裂かれる」とは何を意味するのか?一枚の銀杏の葉を浅い裂け目から完全に裂いたとき、左右の葉の小片(ゲーテとマリアンヌ)の接点は完全に失われ、精神的な繫がり、つまりは恋愛感情も完全に失われることになります。

Pと円香に話を戻します。上述の考察をふまえて
「ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまえばいいのに」を解釈すると、
「取り繕われた外面が剥がれ、(醜い)本性が露わになればいいのに。」
という表面的な意味と同時に、
「あなたを恋しく思うこの気持ちがなくなってしまえばいいのに。」
という超弩級のゲロ重感情が暗喩されているととることができるんですね。いやーすっごい。(知能低下)
ちなみにゲーテの不倫相手のマリアンヌは人妻なんですね。円香は透がプロデューサーに向ける特別な感情に間違いなく気づいていますし、(⇒天塵)色々妄想捗っちゃいますね。
あくまで個人的な考察の、しかも根拠に乏しい部分なので何の確証もありませんが、私的には円香をPラブ勢、正確にはPラブ墜ちかけ勢に認定したいところです。
なんだか某5人組ユニットのメガネの人を彷彿とさせる重さですね。

長く拙い文章を読んでいただきありがとうございました。「ギンコ・ビローバ」また円香という人物を考える上での一助になれば幸いです。また、本考察を気に入っていただけた方はSNS等で円香考察に飢えてる方に拡散していただけると筆者冥利に尽きます。
⦅シャニマス考察なんて初めて書いたしSNSもまともにやってないので拡散力0なんですね。たまげたなぁ。半日潰して書いたので誰にも読まれないのは流石に悲しい⦆

b. イチョウという特殊な植物が示唆すること、Pと円香の対照性
c. ゲーテの詩おかわり、シャニPは小鳥さんだった?
雑多なアイディアはあるんですが時間が足りなくてまとめられませんでした。需要があるなら追記するかもしれません。円香が理想を諦めきれていないぴゅあピュアガールであるとか、円香がPにコンプレックス、プレッシャーを感じ始めているとかそんな感じのことを妄想8割、根拠2割くらいで考えてます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?