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夏の感想文『だから、もう眠らせてほしい』受賞作品発表! 入選~特選

 本当にみなさんありがとう。
 最初に感謝の言葉を言っておきます。

 Yくんと吉田ユカ、そして二人に関わった方々を描いたこの本から、みんなが本当に様々なことを受け取ってくれたことがわかったから。
 僕が伝えたかったことも、そして僕が気づかなかった意外な視点も。みんなが書いてくれた作品たちを読めて、本当に良かった。

 では早速受賞作品を発表していきます。
 賞は最終的に、

・天の席:1万円
・地の席:1万円
・人の席:1万円
・特選2席:5000円 ×2名
・入選2席:3000円 ×4名

 入選作品をどうしても4作品から絞ることができなかったため、最終的に9作品が受賞となりました!
 ではまず、入選作品から発表していきます!

入選①

死は誰のものなのかと考えた時に、それはやはり遺される人たちのものではないかと私は思う。

 という書き出しから始まるこの文章。
 なんでそう思うのかな?と思って読んでいくと、自らが大きな病気を抱えて、子どもたち、そして主治医との言葉のやり取りが出てくる。

「今までと変わらない生活を続けてほしい。今まで通り好きなことをしてほしい。お母さんは、何が悔しいって今の生活が崩れるかもしれないというのが悔しい。今の生活は、お母さんが好きなことを集めた生活だから。あなたが好きなことをしているということは、お母さんの生活の一部でもあるのだからそのまま暮らしていてほしい。それは、例えお母さんの病気が治らなくても。」
最終的に治療しようと思ったのは、主治医の
「治療の目標は『普通の生活を送ること』です。我慢しなくていいです。」という言葉だった。

 何があっても普通の生活を送る、ってけっこう大切なことなんだけど、意外と難しいと思うんです。それをクジラさんは、主治医からもかけられ、そしてまた自らの願いとして子供たちへ伝えている。その一連の描写から、それぞれのやさしさがにじみ出てきています。
 Yくんと吉田ユカの日常も、最後まで尊重されていたので安心感をもって読めました、という一文もその「普通の生活を大切にする」という主張に裏打ちされているんだと読めて、とても大切なことを伝えている感想文だと僕は感じました。

入選②

 自らの自殺未遂の経験と難病、そして介護現場で勤務した経験からの医療トラウマ。話の内容自体は重たいのに、読んだ後に心が重くならない不思議な文章です。
 それは絶望ばかりに苛まれそうな暗いトーンの中に、それでも希望がちりばめられているように読めるからかもしれません。もやのかかった夜の中に、時に輝く星が見える、美しい空のような・・・と表現したらよいのでしょうか。

死について考えるとき、相反して生きたいという気持ちもあるのだ。

 という言葉は、よく使われる表現ではあるのだけれども、希帆さんのエピソードや思いをずっと読んできた後に入るこの一文は、そのありふれた表現にぐっと重みを与えているなと僕には感じられました。

入選③

 今回の作品たちの中で、一番「疾走している」感じを受けた文章です。
 実際には違うかもしれませんが、自分だったら
「1時間くらいで一気に書き上げました!」
 ってときにこんな感じの文章になる。思いがあふれてきて書き続けずにはいられない!ってとき。

本当にそれでいいのか。
いや違うでしょ!本人の望みを叶えるために、どうすればそれができるのかを模索していくのが医療でしょ?
医療じゃなくても作業療法はそうであるはずだ。
家に帰るにあたり、
家族が不安があるのであるのであれば、
何がどう不安なのか、
どうすれば不安を解消できるのか、
どうなれば家に帰してもよいと思えるのか
模索していく必要がある。

 このへんとかも最高に走ってる。トップスピードで走っている。どこか散文詩的なところもあり、リズムに乗ってこちらも一気に読める清々しさ。
 それでいて、心火が燃えているようなさんかくしおハッカさんの熱量も同時に伝わってきます。理不尽なことがたくさんある医療現場からの強いメッセージに、僕らも勇気をもらえます。

及川さん、私及川さんのような人になりたいです。強さの中に優しさのある人に。

 今回たくさんのファンがついた及川。その及川に向かって、奇も衒いもなく「あなたのようになりたい」と呼びかけてくれたのもさんかくしおハッカさんでした。ありがとうございました。

入選④

 入選最後の作品はしるばさん。
 実は、しるばさんと似たような文体・論調の作品は他にもたくさんあったのですが、入選したのはひとえにこの一文があったから。

「死んだら猫になって飼われたい」
というのが、私の今の超個人的な死生観なのだけど、家族が猫派じゃないのでやむなく犬に転生するのもいいかと思っている。

 笑ってしまった。
 笑ってしまったらもう僕の負けなのです。そして一文だけで、自分の死生観と家族との関係性まで広く描写できるってすごいこと。
 この一文の美しさを讃えて、しるばさんに賞をお送りいたします。

特選①

 特徴的な文章を書かれる方だな、とまず感じました。
 プロフィールを少し検索してみたところ、ITベンチャーなどを経て、Webサイトリニューアルプロジェクトのマネジメントなどを担当されている方とのこと。これまでもたくさんの記事を書かれており、検索するとそれらがたくさん出てくる。通りで文章が上手なはずだ。
 僕が「特徴的」と感じたのは、そのビジネス的・ライフハック的な構成と文体。僕の本自体は結構情緒的だと思うし、実際に感想文の多くも、やっぱり感情的な表現が多い傾向がある中で、入谷さんは「未来への自分への手紙」と称して、「いざという時にとるべき具体的な行動」に落とし込んでいるのがすごい。

自分の死に方ぐらい、きっちりデザインしたい。たくさんの人の手を借りながら。残していくことになる人々と十分話し合いながら。

 自分の死を「デザインする」という表現にも、入谷さんの価値観がにじみ出ている気がします。
 今回の応募作品の中でもひときわ異彩を放った作品です。「こういう感想文もアリなのか」ということ、そして自らの終末期をこんな風に分析することも可能なのか、という良い例として多くの方に読んでほしいなと思いました。

特選②

 自らの自殺企図と、そのときに救ってくれた3人の友人、そして小さな約束・・・。『何で神様はすぐに迎えに来てくれんのかね』という患者さんの問いから始まる緊張感のある文章と、最後に出した小さな答え。
『だから、もう眠らせてほしい』のあらすじやフレーズは一つも出てこない。でもこれは間違いなく「感想文」なんですよね。僕の本の内容に触れていないからこそ、無駄な文章がそぎ落とされた構成がすばらしい。

私は3人の友人に救われた。その3人に共通していたのは、私がうつ病で『死にたい』と思うこと、言葉を発することを許してくれていたことだ。
 3人は励ますでもなく、肯定するでもなく、否定するでもなく。ただただそう考え、苦しんでいる私を私として扱ってくれた。
 唯一約束されたのは『死にたい時は死にたいと話し、黙って勝手に死なないこと』だった。

 小さな約束は人を救うことがあります。もちろん、そうではないこともあるでしょう。でもt.k-OTさんは、友人から受けたその「約束」というつながりを、また別の方につないでいる。そのつながりが「糸」になって、ふだんはゆるゆるとしていても「ピンと張ったとき」に周りが気づける・・・そんな社会へ、という表現が、最後まで緊張感があり美しいと感じました。

 入選・特選の皆様、おめでとうございます!
  次の記事でいよいよ「天・地・人」の席の発表です!


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