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夏の感想文『だから、もう眠らせてほしい』受賞作品発表! 天地人の席

 いよいよ、「天の席・地の席・人の席」の発表です!
 ちなみに「天・地・人」の3つに特に優劣はありません~。
 どれも素晴らしい作品ですのでぜひ!

人の席

ここ数年「格好悪く死にたい」と思うようになった。厳密に言うと「格好悪い死に方でも良い」と思うようになった。

 こんな書き出しで始まるきょうこさんの文章は、ひとつの「生き方」を僕たちに教えてくれます。

立派な死ばかり見せられたら、「そうあらねばならない」という無言のプレッシャーがかかる。ならば、「私はダメな方の見本を残しておこう」と、そう考えた。

 その姿を子供たちに残しておきたいという。
 もちろん、どんな姿を最後に残したいかというのは、人によって違うと思います。でも、多くの人が「きれいに最期を迎えるところを見せたい」といいがちなところを、「格好悪くちゃダメですか?」と問うきょうこさんの勇気よ。
 僕自身、ある講演で「西先生が人生の最後に聞きたい『音』は?」と尋ねられて、「家族が僕との別れを悲しんで泣いてすがる声」と答えたことがあります。人の死、それは悲しいもの、それがあるがままとして思ってほしいし、第一悲しんでくれなかったらなんかちょっと寂しい。「大往生だったね」っていうのでもいいけど、「人という動物が死ぬってこういうこと」っていうのを何となく見せられればいいなと思っています。たくさんの人の最後を僕は見てきただけに。
 格好悪くてもいい。そこに執着しない。あるがまま、というのが素敵なんだと思います。それをそのまま問いにしたきょうこさん、あなたが「人の席」の主です。

地の席

 冒頭の、子どもを看護する様子の描写が凄まじい。
 まるで映画の一場面を見ているような言葉の描写。

ある夜勤の巡回で様子を見に行ったとき、力のない目と、目があった。なにを訴える訳でもなく、じぃっとこちらを見ている。
酸素投与時の加湿のためのお水が、ぷくぷくと音を立てていた。静かな病室にその音が響く。今でもその情景を思い出すと、その時の「ぷくぷく」という音が蘇ってくる。

 「もう寝てるかな」と覗いた看護師の目と、暗がりに浮かぶ小さな目。その目へカメラがぐーっと寄っていく。二人は無言だ。しかし、そこに聞こえてくる「ぷくぷく」という加湿水の音・・・。
 ものすごい緊張感。背筋がぞくぞくし、汗が流れていきます。

 そしてもうひとつ、侑子さんが取り上げたのは多くの読者にとって意外な場面だったのではないでしょうか。それは、医学生の「ぼく」が初めて人の死に対峙する場面。そもそも僕はこの本の中で「死とは」ということをほとんど書いていないことに気づかれたでしょうか。唯一、明確に「死とは」を描いたのが実はこの場面なのですが、それを侑子さんは

医学生の西先生が、一場面だけを見て、「これが死、か」と呟いたときと同じ気持ちだったと思う。

 という言葉で、「批判するでもなく」看破します。
 そう、この場面は「本当に正しいのか?」という問いなんですよね。この主人公である「ぼく」は僕であって僕ではない。僕がこの本に混ぜた30%のフィクション、そのほんのひとかけらがこの場面にも入っているんです。それを見事に見抜き、そしてこの表現。素敵です。

 ほかにもYくんの生き方と子どもを重ねて捉えたり、死が時の流れの中にある、といった気づきにも唸らされます。侑子さんは本当にものごとの本質を見抜く力がある方なんだろうなと。
 これはある意味、感想文中の感想文だと僕は思うのです。どうして僕はこの本を250ページも書く必要があったのか?「そうですね、書く必要があったんですよね」とわかってもらえた気になったのが、この文章でした。本当にありがとうございました。

天の席

以前ひどい風邪で、3日ほど寝込んだことがある。
熱が少しずつ下がり、やっと何かまともな食事がとれそうだ、となったときに、私の妻が出してくれたのはレトルトのサムゲタンだった。

 もう、この書き出しから始まる時点で普通の感想文ではない。
 森林さんは「このひとつをとっても人と人とのズレを感じる」と続けていくのだけど、いや、病み上がりにサムゲタン・・・けっこうアリなんじゃね?ってツッコミのひとつも入れたくなる。

 そしてそのあと、サムゲタン事件からはじまったコミュニケーションのズレに対するかっこいい考察が続くのですが、その最後に
「まだファイティングポーズを下ろしてはいない」
 ってキリっ決まった!と思いきや、その後にオチが・・・。

 人によっては「奥さんに世話してもらっているのに茶化すんじゃない」って小言をいいたくなるのかもしれないけど、本当はとても奥さんを愛しているんだろうなと、僕は思います。
 この文章は「天の席」。森林さん一人でとった賞というより、奥さんと二人の人間くささに捧げる賞です。

ありがとうございました!

 皆さん、『だから、もう眠らせてほしい』の感想文企画にお付き合いいただきありがとうございました!
 本当にたくさんの方から応募いただき、すべて目を通しました。人によって目の付け所も様々で、同じ場面に対しても賞賛のコメントもあれば批判のコメントもあり。作者としても本当に楽しませていただきました。

 そして受賞された方々、おめでとうございます!
 何が決め手というのがあるわけでもないのですが、皆さん本当に僅差で順位付けするのが本当に大変でした。
 これから皆さんに賞品の発送に向けて一人一人ご連絡をします。基本、noteの「クリエイターへのお問い合わせ」から連絡しますので、設定していない方はよろしくお願いいたします。逆に、1週間経過しても連絡がこない?という場合は僕のTwitterDMに連絡をください。

 さて、この感想文企画はこれでおしまいになりますが、今回のような文章コンテストは、また企画するつもりなので、「次回こそは!」という方はぜひ企画発表をお待ちください。

 では今後ともよろしくお願いいたします。本当にありがとうございました!

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