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どうやって脱け出したの?ニセ医療から。

 堕ちるのなんて簡単だ。
 周囲に苦しみや悲しみがあふれる中で、ほんの少しの正義感と世界への反発が煮詰まっていけば誰でも。

 もう何度か公開の場で語ったことではあるのだけど、僕自身はニセ医療にはまりかけたことがある。

 僕は医者だから、「はまりかけた」と言っても「受ける側」ではなく「実行する側」としてだ。簡単に言えば「自分が診療している患者さんを、ニセ医療に引き入れようとしていた」ということだ。今から考えると怖くて仕方がないが。

 今回は僕が、どんな流れでニセ医療にはまりかけて、そしてなぜ脱け出すことができたのか、を振り返ってみよう。

※本文中で書かれている患者さんのエピソードは特定の人物のものではありません。またクリニックなどでのエピソードも一部創作しています。それらの部分はモデルのあるフィクションとしてお読みください。

がん患者たちが苦しんでいたのは体の痛みだけではなかった

 僕がニセ医療にはまりかけたのは、いまから15年ほど前、医師3年目のことだ。
 僕はこの年、緩和ケアの専門医になるために北海道から関東に出てきて、研修を始めたばかりだった。当時はまだ緩和ケアを本で学んでいたころ。がんによる痛みはモルヒネなどのオピオイドで緩和できることを知り、北海道でも何名かの患者への投与でその効果は実感していた。そして、より患者が集まる関東の病院に赴き、「いざ実践だ!」と逸る気持ちがあったことは間違いない。

 そんな僕の出鼻をくじいたのは、「オピオイドでは到底緩和できない苦痛」の数々だった。

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