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Nurse Controlled On-Demand Model~誰が早期からの緩和ケアを担うべきなのか

 早期からの緩和ケア外来Webを公開して1か月ほどが経った。
 既に何人もの方から
「近くの緩和ケア外来が見つかって助かった」
「これまでたどり着けなかった情報につながれて安心できた」
 などの声を頂いている。少なくない方々のお役に立てて、嬉しい限りだ。

 しかし一方で、緩和ケア外来の存在が明らかになったことで新たな問題も生じている。
 今回公開している「早期からの緩和ケア外来Web」では、その外来形態の内容やフォローアップの方式などについては分類をしていない。例えば、外来でのフォローアップ形式には、「苦痛症状が無かったとしても、『第2の主治医』として1~2か月ごとに定期的に診療する」パターンから、「苦痛症状がある場合のみ対応して、症状が緩和されればフォローは一時終了にする」「コンサルテーションとして症状緩和についてがん治療医にアドバイスをするが、実際の処方や救急対応はがん治療医側で行う」パターンまで様々である。結果として、患者・家族が期待していた外来の姿と、医師が提供する外来の形が一致せず、お互いに困惑してしまう、との声も少なからず聞こえてくる。
 僕の考える理想的な早期緩和ケア外来の姿は前者ではあるのだが、マンパワー的に難しい施設があることも事実だ。外来の枠と、対応できる医師の数は全国的にも限りがあり、無理に理想を追求することは、「そんなに厳しい内容を求められるなら、これ以上外来は続けられない」として、せっかく開きかけた門戸が閉じられる方向に向かってしまうかもしれない。その結果として、専門家であれば対応できたであろう苦痛が放置されてしまうのでは本末転倒であろう。

「緩和ケアを担う医師が少ないのであれば、もっと養成をすればいいではないか」というのは当然の意見だ。しかし現在、医師がどの専門科を選ぶかについてはそれぞれの個人に委ねられており、政府や医師会などが養成数をコントロールすることはできない。
 緩和ケアは肉体的な負担は大きくないものの、精神的なタフさが求められる現場であり、診療現場も限られることから経済的インセンティブも高くない(いわゆる、つぶしがきかないというやつだ)。それに、緩和ケア以外の分野でも人手不足に悩んでいるところは多々あり、緩和ケア医だけを早急に増やすということは難しいのだ。

 では、どうすればこの現状を改善できるか?
 僕は、現在の「医師が中心となる緩和ケア」から「看護師が中心となる緩和ケア」への転換が必要と考えている。つまり、専門知識をもつ看護師が外来に出て定期的なフォローを担当し、医師の助けが必要な時は看護師側で判断して連絡を取り、対応するモデルだ。僕は、このモデルを「Nurse Controlled On-Demand Model」と呼んでいる。このとき、医師は必ずしも同一の施設内にいる必要は無い。早期からの緩和ケアにおいて医師が必要な場面は限定的であり、(医師という)資源効率を最大化するためには、緩和ケア医は地域の1施設に集約化し、遠隔診療やアウトリーチを行う方が良いためだ。
 このモデルが実現すれば、1つの基幹病院が10のネットワーク外来を運用することが可能となり、地域全体の苦痛緩和が促進されるだろう。このモデルのキモとなるのはコミュニケーションであり、最低でも1回/月の、基幹病院の緩和ケア医・看護師と、ネットワーク外来を担う看護師とのミーティングが必要であろう。また、質を一定に保つための研修や施設訪問も定期的に実施する必要がある。

 ちなみに、このモデルは決して看護師に医師の代替を期待しているわけではない。早期からの緩和ケアにおいては、診断・治療を専門とする医師よりも、生活を見ながらケアを行う看護師の専門性の方が、有用な場面が多いためだ。
 それでも緩和ケア医が中心に立たざるを得ないのは、現状の日本の医療システムが医師を中心に回らざるをえないからである。医師が診療情報提供書を用いて紹介できるのは医師に対してのみであり、他院の緩和ケア看護師を宛先とすることは想定されていない。そこに必ず医師を介さなければならない現行のシステムは、いずれ変わっていくことに期待したい。

 今回、早期からの緩和ケアを担うべきは緩和ケアを専門とする看護師であり、彼ら・彼女らが生活面から全人的な苦痛にアプローチし、必要に応じて医療(専門医)につなぐ、Nurse Controlled On-Demand Modelについて紹介した。
 次回は、この看護師ネットワークをさらに有効に活用するための、地域緩和ケアシステムの行きつく先の姿について解説したい。

(この先の有料部分では、①看護師ネットワークを作るうえで乗り越えるべき壁 ②緩和ケア医以外の医師も早期からの緩和ケアは担えるのでは について書きます)

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