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チンコンソンの演奏禁止歌を歌ったために歌手が処罰?

1960年代から70年代にかけて南ベトナムで活躍した歌手カイン・リー。彼女のコンサートをめぐり、この夏、二回も政令、法令違反で罰金を課せられたと報道された。

1回目は6月に行われたダラットでのコンサートでのこと。当日彼女が歌うことを許可されていた曲以外の曲を歌ったということで主催者に罰金が課せられた。もう1回目は7月にダナンで行われた演奏会で、届出とは違う名称で開催したとの理由で主催者がこれまた罰金を課せられた。

事前の許可なくカイン・リーがうたった歌というのが、Gia tài của mẹ(母の遺産)、冒頭の歌詞は次のようなものだ。

Một ngàn năm nô lệ giặc Tàu/Một trăm năm đô hộ giặc Tây/Hai mươi năm nội chiến từng ngày/Gia tài của mẹ, để lại cho con/Gia tài của mẹ, là nước Việt buồn(訳:千年は中国の奴隷/百年はフランスの支配下/二十年は毎日続く内戦/母の遺産、子に受け継がれ/母の遺産、それは悲しみのベトナム)

この曲はチンコンソンの曲で、彼の歌曲のうち演奏禁止となっていたものは2013年に禁止が解かれた。しかしその際に、この曲は含まれておらず、まだ演奏禁止のままなのだそうだ。

ベトナムの党・政府当局はベトナム戦争は「抗米救国の闘い」であり、「内戦」や民族内の「骨肉の争い」であるといった見方は歴史を歪曲するもとして否定している。歌詞の中に使われている「内戦」という言葉が演奏を認められない理由だろう。

グエン・ティ・ビン元副国家主席の自伝でも、この詩の一節が引用されている。チンコンソンの名はハノイの通りの名称にまでなっている。彼の歌をいまだ演奏禁止のままにしておくのはいただけない。今後のベトナム国内の議論に注目したい。

日本ベトナム友好協会機関紙「日本とベトナム」2022年10月号


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