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ベトナム・エンタメ通信

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日本ベトナム友好協会機関紙「日本とベトナム」に掲載された記事をウェブに再録。
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記事一覧

サザビーズで阮朝皇族のコレクションがオークションに

この十一月、パリで催されるサザビーズのオークションで、「壮麗と威厳(Magnificence and Regality)と題して、皇族グエン・フック・ブー・ロック・コレクションのオークションが行われる。 出展作品は十六点。内訳はベトナム人画家の作品8点、家具1点、そして主に清朝時代の陶器などの置物が7点である。 注目される作品は、レ・フォー、ヴー・カオ・ダムらが1930〜40年代に描いた絹絵3点だ。 二人は第二次世界大戦前にベトナムからフランスに移住、そのままベトナムに

安藤彩英子・漆画展「MOON」を観る

ベトナム漆画の日本人画家、安藤彩英子氏の展覧会がハノイの国際交流基金・ベトナム日本交流センターのアートスペースで開催されたので、訪れた。 彼女は現在ホイアンに住んでいる。ハノイからホーチミン市へ移り住んだかと思えば、中部のホイアンに落ち着いた。安藤氏がハノイに住んでいたころは、よく彼女のギャラリーを訪れて、彼女の漆画を観る機会があった。 その中に私が気に入った作品があった。それは作品としては抽象画と思われた。絵の奥からこちらを覗かれている、そんな気分になる作品だった。彼女

ベトナムの水木しげるになれるか?ズイヴァンの「妖怪事典」

日本人は「お化け」好きだ。源氏物語には生き霊が出てくるし、落語には番町皿屋敷、牡丹灯籠などの怪談もある。マンガでは水木しげるの妖怪たちが今も人気だ。 ベトナムに20年近く住んでいて、どうもベトナムには妖怪の気配が少ないと思っていた。伝説では龍や亀など、儒教でいう四獣たちが主人公だ。 ベトナムに妖怪、幽霊の類いはいないのか?と思っていた。が、このほど"Ma Quỷ Dân gian Ký"、副題「ベトナム民間口承文化における妖怪事典」という本が出た。 とにかく表紙からして

ベトナム初の私設美術館「Quang San Art Museum」

Quang San Art Museum https://quangsanartmuseum.com.vn/ この7月、オープンしたばかりのベトナム初の私設美術館「Quang San Art Museum」を訪れた。場所はホーチミン市2区、富裕層や欧米人が多く住むエリアだ。マンションやヴィラ、おしゃれな欧風カフェやレストランが多数立ち並び、ホーチミン市中心街の喧騒を離れた閑静な住宅街だ。 邸宅のような建物の入口に美術館の表示がある。入場券はおとな20万ベトナムドン、約12

日越外交関係樹立50周年記念「ベトナム映画祭2023」8月19日より全国で上映

本年は日本ベトナム外交関係樹立50周年。これを記念して8月19日から東京、横浜、大阪、名古屋で「ベトナム映画祭2023」が開催され、ベトナム現代映画をまとめてみる機会が訪れる。 今回上映が予定されている作品は「走れロム」「第三夫人の髪飾り」「ソンランの響き」「サイゴン・クチュール」「雲よりも高く」など、国際的な賞に輝いた問題作が上映される。そのいくつかはこの「エンタメ通信」でも紹介した。 本ベトナム映画祭は、2015年に公開された松坂慶子主演の映画「ベトナムの風に吹かれて

絹絵画家グエン・ファン・チャンの作品展が金沢で開催

この4月28日から5月19日まで石川県・金沢21世紀美術館にてベトナム絹絵画家グエン・ファン・チャン 絵画保存修復プロジェクト展「愛を語る人 画家のまなざしをつなぐ人々の物語」が開催される。 この美術展は金沢市でのみ開催されるので、多くの方にご覧いただけないのは残念だ。 ベトナム人画家、グエン・ファン・チャンは1892年現在のハティン省に生まれ、1925年にはハノイのインドシナ美術学校の第1期生として絵画を学び、その中で近代絹絵の技法を確立し、フランスでの評価も高く、世界

80年代アイドル歌手の歌が聴けるハノイのパブ!

ハノイの学生街チュアラン通りの路地の奥にそのパブはある。 店の名前は「まちぶせパブ」。若干33歳の店長のお気に入り、80年代日本のアイドル歌手、石川ひとみのヒット曲「まちぶせ」からとった店名だ。 店長のミンは幼い頃、ある日本語の歌を聴いた。近所の誰かがラジカセででも流していたのだろう、すてきなメロディだと思った。 長じてパリの大学に留学、歴史学を専攻し、日本の戦国時代をテーマに選び、研究をした。友人のひとりに日本人の学生があったので、ある時その歌のメロディを口ずさんでみ

【映画評】ブイ・タック・チュエン監督の映画「輝かしき灰」を観て

この12月ベトナムで映画「輝かしき灰」(原題:”Tro Tàn Rực Rỡ​​”)が公開された。本作はこの10月に行われた東京国際映画祭のコンペティション作品に選ばれ、すでに東京でも公開された。 ベトナムの最南端の省であるカマウの海辺の村が舞台。16歳のハウは隣人の結婚式でズオンと酒の勢いでセックスをし、子どもをみごもる。父親にせっかんを受けるもズオンと結ばれて、自分はバナナの餅を加工し、夫のズオンは漁師として働き、子どもを育てる。もう一人の女性ニャンはイケメン長身の男タ

「これってホンモノ?」ベトナム近代絵画の高額取引と贋作問題

過去の本コラムで紹介したとおり、1925年に創設されたインドシナ美術学校の卒業生の絵画がここ数年世界のオークションハウスで高額取引されている。中には100万米ドルを超える価格で取引され、最高額は年々更新されている。 かなしいかな、美術市場が加熱すると必ずつきまとうのは贋作の流通だ。 今年7月、フランスのオークションハウス「オテル・ドゥルオー」で同美術学校一期生のひとり、レー・ヴァン・デの作品「Nắng hè(夏の日差し)」という作品が出品され、 4.3万ユーロ(約606万

無許可美術展開催でベトナム当局が作品の焼却処分を命令⁈

本年7月、ホーチミン市アルファアートステーションで開催された画家ブイ・チャット氏の展覧会が八月になって必要な当局の許可を得ずに開催されたとして、政府政令第38号にもとづき、罰金2500万ベトナムドン(約15.6万円)の支払いと作品29点の焼却処分を命令された。 この事件はネットニュースや各紙で客観的に報道された。「作品は自分が産んだ子どもと同じ。罰金は甘んじて受けるが、作品の焼却処分までは受け入れられない」との画家自身のコメントを掲載するベトナムのメディアもあった。 9月

200米ドル超えも!世界の絵画市場で高値をつけるベトナム人画家の作品

この8月に行われたサザビーズのオークション。フランスで活躍したベトナム人画家レ・フォーの作品がや228万米ドルで落札された。ベトナム絵画史上第2位の落札価格だ。 私は今年5月に行われた同じ作家のオークションを動画で見た。   画面に写し出されるのは、競売を取り仕切るオークショニア、ハンマーを手にしている。そしてサザビーズのロンドン、香港などの各支店でスマホを手にしたバイヤー代理たち。競売中の作品も動画で示される。 オークショニアが競りを開始。240万香港ドルからのスタート

チンコンソンの演奏禁止歌を歌ったために歌手が処罰?

1960年代から70年代にかけて南ベトナムで活躍した歌手カイン・リー。彼女のコンサートをめぐり、この夏、二回も政令、法令違反で罰金を課せられたと報道された。 1回目は6月に行われたダラットでのコンサートでのこと。当日彼女が歌うことを許可されていた曲以外の曲を歌ったということで主催者に罰金が課せられた。もう1回目は7月にダナンで行われた演奏会で、届出とは違う名称で開催したとの理由で主催者がこれまた罰金を課せられた。 事前の許可なくカイン・リーがうたった歌というのが、Gia

ベトナムにおける日本のイメージは日本料理にマンガ・アニメ先進国

安倍元首相の暗殺事件はベトナムでも大きく取り上げられた。ベトナム人の友人からも安倍元首相の弔辞をいただいた。首相としては任期史上最長とあって、首相としての知名度は高く、対中硬派であった安倍首相は当地の庶民からの人気は高かった。安倍内閣の下「安保法制」が成立した際には「この有事法制の成立で南シナ海においてベトナムと中国が戦争になった場合、自衛隊がベトナムを助けにきてくれるだろう」という誤解も広がった。 ベトナムにおいて日本がどのようにイメージされ、理解されているのかを知ること

話題の映画 "Em và Trịnh"(私とチン・コン・ソン)を観て

2021年3月号の「エンタメ通信」でご紹介した、チン・コン・ソンの生涯をもとに創作された映画"Em và Trịnh"(私とチン・コン・ソン)がこの6月にようやく上映された。昨年4月に公開予定とされていたものが、遅れに遅れての公開だ。コロナや天候不順によって撮影が遅延したと説明されている。 公開10日間にして観客動員数は100万人を超え、興行収入も1000億ドン(約6億円)を突破するのは確実だとされている。近年のヒット作のひとつになるだろう。 1989年のパリ。ベトナムの