見出し画像

冬用タイヤの交換

タイヤに関係する悲しい事故が起きたニュースを子どもたちと見た翌日、上司から、次の週末は雪の可能性有り、希望者は冬用タイヤを載っけておいてくれたら、帰宅までに交換しておくので声かけてね、と、そんなサービスまで管理職の仕事なのだろうか?と首を傾げたくなる連絡が入る。

そうそう、冬用タイヤはこの冬、買い替えなければいけない。というのも、この夏に車を新たに購入したからだ。

今年に入ってすぐ、車の買い替えを考え始めた。それは、夫と不仲になる過程で、自分の持ち物の中から、夫にまつわるいくつかのモノを買い替えてきた流れからである。

例えば財布。近くのアウトレットで男性向けブランドの財布を、なんとなく似ているもので夫と揃えていた。昨年、それを近くの革製品専門店で買い求めた。わが町はとても田舎だが、都会で修行された方が、実家の近くでお店を開きたい!と一念発起されることが多く、ここは、そうしたお店の中のひとつである。素敵な作品を手に取って選ぶことができるなんて、田舎住まいで、時間もない私にとっては、とても贅沢なことだ。

キーケース、ペンダント、腕時計、そうしたモノを、かつての夫は私とお揃いにしたがってきた。何かの記念日、というわけでもなく、これらを買いに行くことを目的に、遠出ができることを、私は楽しみにしていた(周りのご家族から見たら、全然遠くない距離の店ばかりだが、わが家にとっては年に数回の、家族みんなでの「おでかけ」だった)。

香水も、夫が、好きなものを、つけてみたら、と私に渡してきたことがあった。
しかし、渡されたのは、別居開始3カ月前、家庭内別居状態のときだ。それも、何がきっかけかというと、私の不倫を疑った夫が私の持ち物を探る中で、ある香水を見つけたことだ。
その香水は「〇〇系の香り」で検索して、良さそうなものをいくつか選んで購入したもののひとつだったのだが、それだけは、どうもユニセックスだったらしい。夫の頭の中では、このイタリア製の香水は、私の敬愛する「先生」のものになってしまった(先生は私をはじめ、親しい仕事仲間には、ちょっとイタリアの男性っぽい言動をするし、顔つきも、たしかに一般的な日本人より、若干ピザを食べすぎているような目鼻立ちではあるのだが)。

そして車。我々、田舎暮らしの必需品だ。夏以前は、黒い軽自動車に乗っていた。私はこの車の納車日を知っている。今から14年前の私の誕生日だ。
その車の最初の持ち主は、別居中の夫である。14年前のバレンタインデーに30人近くの、独身男女が集う飲み会を開いた(開いた、とあるのは、私が女性側幹事だったからだ)。
そこから約1カ月後の私の誕生日に、まだ交際もしていなかった夫から、おめでとう、とメールをもらった。同じ日、夫は初めて自分の車を手に入れる。18歳で就職した彼は、それまで母親のおさがりの車に乗っていたが、ギャンブルに明け暮れながらもお金を貯め、初めて大きな買い物をしたのが、この黒い軽自動車であった。

そこから交際、結婚、妊娠、出産が、なかなかのハイスピードで通り過ぎて行き、2人目ができて一年くらいで我が家にファミリーカーとなるミニバンを購入することにした。
その際、私の乗っていた水色の普通自動車が、夫の軽自動車より少し古かったため、前者を手放し、ミニバンを夫が運転、後者を私が乗ることになった。

というわけで、夫から譲られた軽自動車は、夫を乗せずとも、私や3人の子どもたちを乗せて様々な思い出をつくるための必需品だった。時には義母や私の妹も含めて5人で乗ることもあった。

子どもたちが大きくなるにつれ、軽自動車では遠出が難しくなったこと、長男の通学が自転車になり、いざという時には自転車を載せられる車が欲しくなったこと、そして遅まきながら軽自動車の走行距離が十万キロに近づいたこと、こうした理由があり、車の買い替えを考え始めた。
その時、一番頼りになったのは、長男だった。
もしかしたら、ゆくゆくは新しく買う車が長男の初めて運転する車になるかもよ、
と長男に話したことがきっかけで、彼は車選びに意見を出し始めた。

やっぱり燃費だよ、
と長男は言い、車が決まった。色はさすがに私の趣味で決めさせてもらった。

そして、その車は先生のものと同じだった。厳密に言うと、先生のはその車の中で、一番ランクが良いものだった。わが家の車は真ん中くらい。
そのことを先生に伝えると、
マネしないでくださいよ、
いくら僕のことが好きだからといって。
変なウワサになってしまうじゃないですか、
とふざけてきたので、
いや、長男が決めたんです、
と返答したところ、
長男さんとは、気が合いそうですね、
いい車ですよ、おすすめです、
と嬉しそうにしていた(この半年後、先生は3年間で14万キロ走った車から、まったく同じ車に買い替えた)。

こうした経緯を知らぬまま、夫が家を出ていった3カ月後、新車がわが家にやってきた。長男の部活の大会へ応援に行くのも、海水浴に行くのも、次男のキャンプの送り迎えも、すべてこの車とともに、だった。

さて、その新しく私の大好きな青い色をした車も、冬用タイヤを購入し、交換することができた。以前は、夫がぶつぶつ文句を言いながらもタイヤ交換してくれていたが、仲が悪くなってからは、夫のいない間に、私1人で交換することもあった(手際の悪い私を見兼ねて、お隣さんが工具を貸してくれることもあった)。
今回はタイヤを購入したので、そのまま交換してもらった。

ノーマルタイヤを庭のタイヤ置きスペースに持って行って気づいた。
私のタイヤの隣に並べている、夫のタイヤ。
タイヤを包んでいる銀色の袋の下にあるのは、冬用タイヤか、それともノーマルタイヤなのか。
彼が今住んでいる場所は、ここよりも、もっと雪深い場所だ。袋の下を見て確認したい気持ちもあるが、怖くて、確かめる勇気がない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?