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過去のレコ評(2018-8)

(2018年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「A Still Heart」ザ・ネイキッド・アンド・フェイマス
P-VINE RECORDS
PCD-24748

1曲目は新曲。リズムはなく、今までに比べてリラックスしたイメージ。2曲目からは曲の終わりに(Stripped)と書かれている。「服を脱いだ」とはどういうことか?なぜ「Naked=裸の」ではないのか?2曲目、ボコーダーと混じったアカペラで始まる。オブリガードも声。さりげなくエレキギターが混じっている。3曲目、リバーブなしの声にアコギ。しかしサビからは、ギターが左右に広がり最小限のシンセが加わる。つまりデモテープ的ではない。彼らがやりたかったのは、構造を剥ぎ落とし曲そのものの力を引き出すこと。これまでのファンは曲の本質により直接触れることができる。原曲を知らなければ、まずこれをエアコンの効いたリビングで流して体に染み込ませてみよう。そしていつものモニター環境で原曲を!

「ツンデレ」神聖かまってちゃん
WANER MUSIC
WPCL - 12890

彼ららしいアルバムだ。前作との違いは何か。それは何といっても、歌詞を重要視したミックスとなっていること。ボリュームはもちろん、歌のハイ成分が前に出てくることで、歌詞が聴きとりやすくなっている。前作は音楽的なアプローチがバラエティに富んでいて面白かったが、やはり歌詞が彼らの核心だということだろう。かといって音楽的に守りに入っているわけではない。6曲目、Bマイナーのペンタトニックを基調にした音使いにシャッフルするノリがどこかユーモラスでもあり、トンネルの中にいる主人公を俯瞰させるものとなっている。8曲目、Aメロとサビでピアノの右手がボーカルのメロディラインとシンクロし補強したりしなかったりするツンデレ感。楽しませて頂きました。

「好きなら問わない」ゲスの極み乙女。
TACO RECORDS
WPCL-12913

なんと自信に満ちた作品だろう。ごまかしのない音をひたすら並べている。そこにミックスによる演出はほとんどない。リスナーはメロディを耳で追いかけ、その上にある言葉に耳を凝らす。同時にリズム隊によるグルーブを体で受け止め、和声の積み重ねによるコード感をアニメーションのように楽しみ、曲の中で増減する楽器の厚みにストーリーを感じる。演奏を曝け出すかのようなトラックだが、並べ方には曲により差異がある。M3,4,5のようなアッパーな曲ではグルーブ重視でスネアが主張し、ボーカルは奥にいる。リスナーが歌詞カードを見ながら聴くことを前提としているようだ。一方M1,2,7,8などは、ボーカルの音像が大きく歌詞が聞き取りやすい。それをエモーショナルに響かせるために、時にはピアノがボーカルよりも全面に出てくる。それがギターではないのが彼らの個性。

「Our Latest Number」toe
Machupicchu Industrias
XQIF-91001

16ビートがスリリングに聴こえるのは当たり前として、これだけ心地よく響かせられるバンドも珍しい。それは単に、リズムの縦のタイミングが正確だからというだけではない。それぞれの単音がコード構成音におけるテンションノートになる瞬間の柔らかさ。そして、各楽器の周波数及び定位が周到に振り分けられていることで、頭の中が気持ちよくマッサージされる。まるでよくできた刺繍のパターンを見ているかのようだ。ただ4曲目の3分半にだけ、ボーカルにいきなり綻びが訪れる。何かの間違いかと思うような不穏な響き。しかしそれを知ってしまえば、2度目からはそれも楽しめる。5曲目はブラックサバスのカバー。彼らとは真逆の音楽性かと思いきや、最後の1分半は彼らそのもの。

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