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過去のレコ評(2019-5)

(2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「Our Secret Spot」the HIATUS

1曲目、JUSTICE「Water of
Nazareth」を思わせるような暴力的な歪みがトラックを支配する。エレキギターをドライブさせフェイザーをかけたもののようだが、その定位が快く耳を刺激すると同時にテンションノートとして機能していて気持ちいい。Bメロは鍵盤のみになるが、1番ではオルガンなのに対し2番ではピアノになっているのがその後の伏線になっている。2曲目はBPMが前曲とほぼ同じ。普通はしないようなことをするところに、各曲に対する自信を感じる。ギターとスネアのアクセントがシンクロして爽快だ。3,4曲目にかけて、アルバムは軽やかに進行。かと思えば5曲目はストリングスのピチカートから始まる。とにかく、全ての曲が快感原則のようなものに支配されている。快感原則に従う怖さは、曲のパターンが限られるところにある。例えば7曲目は2曲目と同じグルーブを内包している。しかし彼らの場合はそれでいい。なぜなら細美の声が聴き飽きない性質のものであり、その声を引き立てるお膳立てとして楽曲が存在するから。アルバムが一つの組曲と捉えられる作品だ。

「DEEP BLUE」9mm Parabellum Bullet

ボーカリスト菅原の声は、こんなに真っ直ぐな正統派だったのだろうか。アルバムを聴いてまずそう思った。至極素直な歌表現は、非常に平易な歌詞と相まって普遍的に感じさせるとともに親近感を抱かせる。ミュージックビデオが公開されている1曲目「Beautiful
Dreamer」のサビのリフレイン以外は、アルバム曲の全てが日本語であるのも意図があると考えてしまう。だからといって安易な印象は与えない。唐突に挟み込まれる「ですます調」をとってみても、それらの歌詞がもたらす意味を慎重に選んだ結果だと思わせる。日常的に用いられる言葉を組み合わせながら、適度なロマンチシズムを湛えリリカルにまとめ上げているその匙加減は、アルバム8枚目にして成し得る境地なのだろう。それにしても、これだけトニックコードを用いて曲を作るバンドも珍しいのではないか。その分、音色とリズムで変化がつけられている。バンド初心者がコピーするには良い教材となるだろう。個人的には4曲目Eマイナーペンタトニックが日本的な「Getting Better」が面白く感じた。間奏のデスボイスもツボ。

「濡れゆく私小説」indigo la end

音楽とは、究極的には脳内で作られるものだ。作ろうとしている音楽の雰囲気が頭の中にあり、それに近づけるべくコツコツと音を作る、というのが理想的な音楽の作り方。だが、実際に作っている音が頭の中にある音楽に追いつかずもどかしくなる。音色が違う、楽器がうまく弾けない、コードが分からないなど、その理由は様々だ。それでも諦めずコツコツと音を探して七転八倒する。そうしているうちに、自分の頭の中にあった曲を忘れてしまう。そして、これでいいやと諦める。それが凡人なのだろう。そこで諦めないで努力し続けるのが、才能を持った人だ。そして、その努力を後押ししてくれるのが、セオリーでありフォーマットだ。川谷絵音は既存のJ-POPのセオリーに、自分自身の歌詞とコードワークのクセをトッピングすることで、借り物ではない新しいセオリーを生み出した。そしてバンドというフォーマットを最大限利用し、一個人が持つ一つの体の限界を乗り越えることを可能にした。そして、年月を重ねることでメンバーが有機的に呼応しあうところに達した。そんな一枚。

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