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過去のレコ評(2017-6)

(2017年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「幼さを入院させて」神聖かまってちゃん
ワーナーミュージック・ジャパン
WPCL-12718

さすがである。ちゃんと「ちゃんとしていない」アルバムだ。ちゃんとするには正解を提示すれば良い。しかし、彼らには誰もそんなものを求めてはいない。とにかくニヤニヤしながら聴けるのが、彼らの魅力なのだから。まず彼らに期待するのは、音楽と一体化した「壊れた歌詞」なのだが、1曲目から英語詞で肩透かしを食らう。その内容がまた、至極真っ当で美しいのだから笑うしかない。進撃の巨人のエンディングだから、という縛りへの回答なのだろうか。2曲目はボーカルがシューゲイザーになっているのがツボ。3曲目でようやく生々しいの子の声が聴ける。4,5,10曲目にあるマイブラッディバレンタインっぽいアプローチが、彼らの世界観に合っている。アルバム全体を聴き終え、そう思った。

「Wake Up Now」Nick Mulvey
Hostess Entertainment Unlimited
HSU-10164

キューバで音楽の勉強をした英国人シンガーソングライターの2枚目のアルバム。録音技術やミックスは紛れもなく世界基準のポップスだが、独特な無国籍感がある。シングルカットされた1曲目、冒頭のギターの中低域が心地よい。スパニッシュ的な要素もある弾き方だ。合いの手の女性コーラスにはアフリカの雰囲気も感じられる。強いて言えば、歌い上げることなくまっすぐ声を伸ばす感じが、自分の知っているイギリス的なポップスとの共通点だろうか。最近のヒットチャートは、コードをシンプルに、オケを音響的にし、それとは対照的に歌をエモーショナルにしていくことで「歌い手個人」を前面に押し出すものが多いと感じるが、この作品はもっと演奏家たちそれぞれの存在を感じさせる。

「PARADOX」布袋寅泰
ユニバーサルミュージック
TYCT-60110

1曲目、4拍目の裏で音を切るギターリフで彼だと分かる。タテノリのリズムと、4種類のみのコードは、ロンドンパンクの継承か。ギター用語を絡めた作詞は、いしわたり淳治によるもの。2曲目以降は、お馴染みの森雪之丞の作詞が4曲。相性が良いのは、そのギラっとした言語感覚によるもの。70年代から数えきれないほどの作詞を手がけてきた彼にとって、ありきたりな言葉選びは許されない。最初はぎょっとする言い回しも、2度目からは、ついつい口ずさみたくなる。もちろん、布袋自身の作詞曲もある。幾分マイルドで、優しさが見える。筆者は、自分の曲でギターを弾いてもらったことがある。その場でリフを考えてくれ、惜しげも無くペダルギミックを見せてくれた。最後に36小節のソロを2回だけ弾き「好きな方使っていいよ」と言って帰って行った。貴重な体験だった。(=「SUPERSTAR」CHEMISTRY×布袋寅泰)

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