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過去のレコ評(2018-2)

(2018年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「Songs of Experience」U2
ユニバーサルミュージック
UICI-9068

基本に忠実なアルバムだ。ギターという楽器にとって素直なコード選び。ギターで弾き語ったデモに対して、バンドのアンサンブルを足していった様子が容易に想像出来る。オーバーダブも最小限で、ほぼそのままライブで再現可能。音像も、ギラついたところが少しもない。ボノは相変わらずダイナミックマイクで録音しているのだろうか。5曲目“American
Soul”はグッと温度が上がる。テロに関する歌であり、歌詞が重要な曲だ。では他の曲の歌詞はというと、それぞれが想定する誰かに宛てた手紙だという。「結局人々の頭に残るのはメロディと歌詞が合わさった歌だろ」とでも言うようなストイックな内容。歌とは日常の中で口ずさまれるもの。かのヨシュアトゥリーから30年の変遷を経て、この境地に辿り着いたのだろう。モノトーンの衣装で身を包んだ最近のアーティスト写真がそれを物語っている。

「Popcorn Ballads」サニーデイ・サービス
ROSE Records
ROSE-214

今年アルバムを発表していたのに、また新譜?と思いきや、6月にストリーミング配信したものがCDとアナログでリリースされるとのこと。曲順も変更されており、マスタリングやミックスも変わっている。こういうことが可能なのは、プロツールズ内でのミックスが標準となり、リコールが簡単だという現代の技術があればことだと想像されるが、それにしても大胆なリリース計画だ。例えば「青い戦車」は配信時よりもボーカルが奥まって画面が見渡しやすくなった印象であり、「泡アワー」は配信時よりも音像が広くなり満遍なく周波数を使っている。実際に制作していると、ミックスやマスタリングをもっとこうしておけば良かったかなと思うことは常にある。確かにこういう手法は有効だ。

「Who Built The Moon?」ノエル・ギャラガー
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
SICX97

1曲目、ノエルの歌がなかなか始まらない。ようやく聴こえてきた歌は「自分たちを取り戻そうぜ」というアンセム。気づけばずっと目覚まし時計のような音が鳴り続けている。なにか焦燥感を駆り立てるようなこの曲で、リスナーはもうノエルの術中にはまっている。2曲目、開始から18小節もの間、ルート音がAフラットから変わらない。他の曲でも、やたらとルート音がステイしている。相変わらず、困ったほどに大胆な人だ。そう、音楽とはその人自身だ。コードにこだわってしまう人、音響にこだわってしまう人など、音楽制作者には色々なタイプがいるが、ノエルの場合はその人自身が面白いのだから面白くない音楽ができないはずがない。CDという「檻」に閉じ込めても、それは伝わってくる。

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