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過去のレコ評(2016-2)

(2016年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「Progress」kokua
スピードスターレコーズ
VICL-64578

kokuaは某有名番組のために結成されたバンド。その歌声から「スガシカオの別名義じゃないの?」と思った人も多いだろう。メンバーは、敢えて紹介するのも憚れられる大物プレイヤー兼プロデューサーたち。10年前に主題歌としてM12が作られ、今年10周年企画でM1が制作された。この2曲を聴き比べてみよう。どちらもリズム隊は8ビート。スガ楽曲の16ビートファンク路線ではなく、初期の名曲「愛について」にも近いミディアム路線。しかしメロディのリズムが全く異なる。M12は16分音符が随所に入っていて、いかにもスガらしい。それに対して新作のM1は8分音符のメロディ。他のアルバム曲は、スガによる曲もメンバーによる曲もオーソドックスな8ビートが多い。10年を経ることにより、よりバンドっぽくなったと言えるのではないだろうか。

「夏.インストール」神聖かまってちゃん
ワーナーミュージック・ジャパン
WPCL-12382

昨年ベストアルバムをリリースした彼らの、8曲入りミニアルバム。夏っぽい1曲目は、ベースラインがルートを外れているのが「壊れた」彼ららしくて面白い。が、爽やかすぎて肩透かしを喰らった印象。とはいえ、2曲目はギターがデジタルクリップていて、こちらの期待に応えてくれる音像。フィンガー5へのオマージュも楽しい。3曲目は普遍的な曲調ゆえに、歌詞が頭にどんどん入ってくる。とはいえ、サビの終わりのほうで毎回「間違い」なコードが鳴っているのが痛快。他の曲を聴けば「正しい」演奏ができるのは明らか。もしかしたらコード譜をわざと読みにくく書いて「正しく」弾けないようにしているのだろうか。これだから音楽は面白い。

「The Getaway」Red Hot Chili Peppers
ワーナーミュージック・ジャパン
WPCR-17366

なんだ、この余裕は?難しいリズムやコードがあるわけではない。複雑な演奏や音像もない。それでも「聴くべき」ものがここにはある。ひとは聴いたことのない種類のものに耳を傾ける。それは時に、斬新なアイデアかもしれないし、ありえないほどの情熱かもしれない。過去のレッチリには、それが分かりやすく存在した。ロックバンドなのに、腰にくるようなキレの良い16ビート。アンソニーのシャウト。リスナーはそれらに魅了されてきた。なのに、今作にはそういうものが表面上存在しない。あるのは心地よさ。極端なものはここにない。ちょうどいい歪みのギター、ちょうどいい音域の歌唱、ちょうどいいチューニングのドラムス、そして必要最小限のシーケンス。なのに、どう聴いてもレッチリでしかない。30年以上のキャリアをもってしか達成しえない境地だ。

「ゆ 13-14」UNICORN
キューンミュジック
KSCL 2758

若い!メンバー全員が「半世紀少年」となったというのに、初々しさが眩しい。まるで若い世代に向かって「バンドって楽しいよ。コピーしてみなよ」と言ってるようなアルバム。最近では、メンバーが楽器を演奏しないバンドに驚くこともない。CDとなると音像を作り込み、ライブではシーケンス同期演奏が当たり前になりつつある。そんな中で昔ながらの方法を貫いているアルバム、そしてバンドなのだ。音楽はあくまで身体が気持ちいい方向に、そして話し言葉としての日本語を重視する歌詞が、目まぐるしく脳を刺激する。素直な楽器演奏は、キー設定がボーカルに合わせるのではなく、楽器を使って作曲しているからなのだろう。6曲目のような大胆なことをしながら11曲目のような手堅いことをちゃんとしてくるあたり、さすがです。

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