親権者変更申立事件,子の引き渡し申立事件,面会交流申立事件 福岡家庭裁判所: 平成26年12月4日

福岡家庭裁判所
平成24年(家)第1139号 親権者変更申立事件(第1事件)
平成24年(家)第1140号 子の引き渡し申立事件(第2事件)
平成24年(家)第1392号 面会交流申立事件(第3事件)
平成26年12月4日審判

       審   判

第1,2事件申立人兼第3事件相手方 X(以下「申立人」という。)
同代理人弁護士 清源善二郎
同 岡野重信
同 清源了胤
同 清源万里子
第3事件申立人兼第1,2事件相手方 Y(以下「相手方」という。)
同代理人弁護士 岩城和代
同 弓幸子
同復代理人弁護士 岩城渉
事件本人 Z 平成19年■生


       主   文

1 事件本人の親権者を相手方から申立人に変更する。
2 事件本人の監護者を相手方と指定する。
3 事件本人の引き渡しを求める申立人の申立てを却下する。
4 当事者間の東京家庭裁判所平成22年(家イ)第2077号夫婦関係調整調停申立事件兼同平成23年(家イ)第456号子の監護者の指定調停申立事件において,平成23年7月12日に成立した調停の調停条項の4項を「相手方は,申立人に対し,本審判の確定した月から事件本人が20歳に達する月までの毎月(別紙面会交流要領の1項ないし3項を全て満たす面会交流が実施された月を除く。),その末日限り,2万円を支払え。」と変更する。
5 前記調停条項の7項1号ないし4号,6号,7号,9号,10号を,「相手方は,申立人に対し,別紙面会交流要領のとおり,申立人と事件本人が面会交流することを許さなければならない。」と変更する。
6 前記調停条項の7項柱書を削除し,同項8号に「本項第6号に基づき定められた面会日」とあるのを「別紙面会交流要領1項に基づき定められた面会日」と変更し,同項14号に「本項記載の面会交流」,同10項及び14項に「第7項記載の面会交流」とあるのを,いずれも「別紙面会交流要領記載の面会交流」と変更する。
7 前記調停条項の7項11号ないし13号の取消,10項ないし12項の取消又は変更を求める相手方の申立てをいずれも却下する。


       理   由

第1 申立ての趣旨
1 第1,2事件
(1)事件本人の親権者を相手方から申立人に変更する。
(2)相手方は,申立人に対し,事件本人を引き渡せ。
2 第3事件
(1)当事者間の東京家庭裁判所平成22年(家イ)第2077号夫婦関係調整調停申立事件及び平成23年(家イ)第456号子の監護者の指定調停申立事件において,平成23年7月12日に成立した調停(以下「前件調停」という。)の調停条項4項,7項11号ないし13号,11項,12項をいずれも取り消す。
(2)前件調停の調停条項7項1号ないし3号,6号,9号,10号を「相手方は,申立人に対し,〔1〕平成27年1月から平成29年3月までは,各年の1月から3月までの間に1回づつ,〔2〕平成29年4月から平成32年3月までは,年度(4月から翌年3月まで)ごとに2回づつ,〔3〕平成32年4月から平成39年3月までは,年度(4月から翌年3月まで)ごとに4回づつ,〔4〕平成39年4月から同年7月7日までは1回という頻度で,申立人が事件本人と面会交流することを認めなければならない。その日時については,子の福祉に配慮して,当事者双方が事前に誠実に協議して定める。」と変更する。
(3)前件調停の調停条項10項を「相手方は、申立人に対し,事件本人が22歳に達する年の翌年3月までの間,事件本人が通う又は将来通う予定の教育機関の行事(入学式,参観日,スポーツ大会等)について事前に連絡し,子の福祉に配慮して,それらの行事への申立人の出席を認めることとする。」と変更する。 
第2 事案の概要
 申立人は,〔1〕相手方が,事件本人に対し,申立人を拒絶するよう仕向け,事件本人の福祉を侵害していること,〔2〕相手方を親権者と指定する前提であった面会交流の実施が,相手方により妨害されていること,〔3〕申立人には,親権者変更を求める以外に,面会交流の確保に向けて取りうる手段がないこと,〔4〕申立人には,事件本人を監護する十分な実績と能力があることなどを主張して,事件本人の利益のために親権者を変更する必要があることを理由として,相手方に対し,親権者変更及び子の引渡しを求めるとともに,相手方による面会交流の条件変更の申立ての却下を求めている。
 これに対し,相手方は,面会交流の実現に向けて努力しているが,それでも事件本人は申立人への強い拒絶反応を示しており,直ちに面会交流が実施できないのもやむを得ないこと,相手方は事件本人を適切に監護していることなどを主張して,申立人による親権者変更及び子の引き渡しの申立ての却下を求めるとともに,面会交流に関する前件調停の調停条項の一部の取消又は変更を求めている。
第3 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,以下の事実が認められる(認定に用いた証拠等(特記ない場合には第1事件のものを指す。)は必要最小限の範囲で掲記する。)。
(1)当事者双方の同居期間中の経緯(甲3)
ア 申立人(昭和48年■月生)及び相手方(昭和49年■月生)は,いずれも株式会社■に勤務していたことから知り合い,平成19年■月■日に婚姻し,同年■月には■市内に戸建住宅を購入して転居し,同年■月■日には長男・事件本人をもうけた。
イ 事件本人の出生後,相手方は育児休暇を取得し,事件本人の世話は主として相手方が担っていたが,申立人も,ミルクを飲ませたり,おむつ交換や入浴などの点で,事件本人の監護に関わっていた。
ウ 事件本人は,平成20年4月に■市内の保育園に入園し,申立人は同年5月に育児休暇を終え,1日6時間の短縮勤務で職場復帰した。事件本人の監護については,主として相手方が担っていたが,申立人も,平日朝に朝食を食べさせて保育園に送ることを担当していたほか,休日の食事の世話,おむつ交換,入浴,寝かしつけなどの点で関与していた。
エ 当事者双方は,平成21年末,東京都■所在の賃貸マンション(以下「Aマンション」という。)に転居した。事件本人は,転居直後は託児所に預けられ,平成22年4月から「■保育園」に入園した。事件本人の監護の分担については,上記ウとほぼ同様であった。
オ 申立人は,同年3月12日,相手方に離婚等を求める調停(東京家庭裁判所平成22年(家イ)第2077号,以下「前件離婚調停事件」という。)を申し立てた。
(2)交替監護開始時の経緯(甲3,第3回期日調書・2頁,前件離婚調停事件・平成22年8月20日付申立人代理人作成の上申書,東京家庭裁判所平成22年(家)第7806号(以下「前件監護者指定事件」という。)・[甲1,乙1])
ア 相手方は,平成22年6月20日ころ,事件本人を連れて東京都■所在の賃貸マンション(以下「Bマンション」という。)に転居し,申立人との別居を開始した。
イ 当事者双方は,同年7月8日の前件離婚調停事件の期日において,事件本人の監護を原則として1週間毎に交替して行うとの話となり,同月11日より交替監護を開始した。事件本人の引き渡しは,主に■保育園の送迎を利用して行われていた。なお,送迎の際の事件本人の態度に申立人,相手方による差異はなかったことが確認されているが,相手方は,申立人が迎えに来ることを事件本人は嫌がっていると認識していた。
ウ 交替監護開始直後の同年7月13日,相手方が申立人の監護下にある事件本人に会うためにAマンションを訪れたため,申立人が相手方と事件本人とを面会させたところ,相手方が泣き出し,それを受けて事件本人も泣き出すということがあった。
エ 相手方は,同年8月6日,申立人に対し,事件本人の監護者を相手方と指定するよう求める前件監護者指定事件及び同旨の審判前の保全処分(東京家庭裁判所平成22年(家ロ)第5081号)の申立てをした。当事者双方は,同月25日,監護者が指定されるまでの間,交替監護を継続する趣旨の合意書(乙1)を交わした。
オ 当事者双方は,交替監護の期間中も,■保育園の運動会等の行事には必ず当事者双方がそろって参加していたほか,地域主催の子育て講座にも二人で参加し,事件本人と3人で親子のふれあい体操を習っていた。
カ 申立人の母(以下「父方祖母」という。)は,交替監護の期間中,毎月1回程度,1回当たり5~10日程度滞在し,申立人による事件本人の監護を支援していた。
(3)東京家庭裁判所における監護状況調査の結果(甲3)
 前件監護者指定事件等に関し,平成22年10月から12月にかけて,家庭裁判所調査官(以下「調査官」という。)による監護状況調査(以下「前件監護状況調査」という。)が実施されたところ,その結果の要点は次のとおりであった。
ア 当事者双方の監護状況について,甲乙つけ難いほど,ほぼ十分な監護環境が提供されていることが確認された。家庭訪問の結果,当事者双方と事件本人との関係性はいずれも良好である様子も観察された。また,■保育園の調査結果によれば,送迎の際の事件本人の態度に申立人,相手方による差異はなく,事件本人が保育士に対してそれぞれの親との過ごし方を楽しそうに報告していたことが確認された。
 しかしながら,調査官は,育児休暇の取得等により,申立人よりも相手方が事件本人の監護養育に長く関わってきたことを理由として,事件本人の監護者として相手方を指定することが相当との意見を示した。
 なお,Bマンションの家庭訪問において,事件本人が,調査官を玄関で出迎えた際,いきなり「僕はママ(相手方)といたいです」と述べるところがあったが,調査官は,事件本人がこの発言の意味を真に理解していないものと考えた。
イ 相手方は,面会交流を妨げようとは全く考えておらず,月2,3回の面会交流に応じるつもりであると述べていたところ,調査官は,事件本人と会えなくなるとの申立人の不安は現実的なものと考えられるので,監護者に併せて面会交流も合意することが望ましいとの意見を示した。
(4)相手方を監護者と指定する暫定合意の経緯(乙2)
ア 申立人は,相手方に対し,平成23年1月11日付申立人代理人作成の連絡文書(乙20)において,離婚の条件として,親権と監護権とを分属させ,親権を申立人に帰属させることを希望するが,十分な面会交流が確保されるのであれば,親権についても相手方に譲歩するとの意向を伝えた。
イ 当事者双方は,平成23年1月20日の前件離婚調停事件の期日において,〔1〕事件本人の監護者を当分の間相手方と定めること,〔2〕面会交流を毎月3回実施すること,〔3〕交替監護を同月26日をもって取りやめることを主な内容とする暫定的な合意(以下「前件暫定合意」という。)に至った。
ウ 相手方は,前件暫定合意により,審判前の保全処分申立事件を取り下げた。また,子の監護者指定申立事件については調停に付され,前件離婚調停事件と同時に進行することとなった。
(5)前件調停の成立に至るまでの経緯(甲16,乙3,19,20,相手方主張書面(2)・8頁,前件離婚調停事件・申立人代理人(当時)作成の平成23年4月18日付及び同年5月9日付ファクシミリ送信票添付の調停条項案等)
ア 平成23年3月11日に東日本大震災が発生し,相手方は,申立人の同意を得た上,同月16日に事件本人を連れて実家のある■に避難したが,同月22日には事件本人を連れて東京に戻った。
イ 相手方は,東日本大震災の影響から東京での生活に不安を感じ,退職について上司に相談し,その内諾を得たため,株式会社■を退職して■に転居することを決め,同年4月中旬に事件本人を連れて転居した。相手方が申立人に相談することなく退職及び転居を決めたため,暫定合意に含まれていた毎月3回の面会交流の実施は事実上不可能となり,申立人は相手方に対して強い不信感を抱いた。
ウ 当事者双方は,同年7月12日の前件離婚調停事件の期日において,別紙前件調停条項(物件目録及び抵当権目録は省略する)の内容で合意し,前件調停が成立したところ,それまでの双方の代理人間での調整過程において,次のやりとりがあった。
(ア)申立人は,面会交流実施のために相手方が効果的な協力を行うことを担保するため,面会交流が実現できなかった月に養育費の支払を免除することを求め,相手方はこれに応じた(調停条項4項参照)。
(イ)申立人は,相手方が事件本人を自宅外で引き渡すことにより,事件本人に対して面会交流を肯定することが重要と考え,JR■駅での引き渡しを求め,相手方はこれに応じた(調停条項7項(4)参照)。
(6)交替監護終了後の東京における面会交流の状況等(甲18,51,乙21の1,2)
 前件暫定合意に基づき,平成23年1月30日,2月6日,同月11~12日,同月26日,3月5日,同月25~26日,4月8日及び同月9~10日に面会交流が実施されたところ,その際に次のやりとり等があった。
ア 同年1月30日,申立人が事件本人を迎えにBマンションを訪れると,事件本人は,「来ないで」などと述べて,申立人について行こうとしなかった。相手方は,申立人に対し,面会が終わった後はBマンションに戻れることを事件本人に説明するよう求めていた。
イ 同年2月11日,申立人が事件本人を迎えにBマンションを訪れると,事件本人は申立人について行こうとせず,部屋の奥にいる相手方の様子を窺っていた。相手方も出てこなかったため,申立人は一旦Bマンションを後にし,相手方の連絡を受けて再び事件本人を迎えに行った。
ウ 同月12日,申立人は事件本人を抱いてBマンションに向かっていたが,事件本人は,Bマンションが近づくと,申立人に抱っこされると相手方が怒ると述べて急に降りようとした。
エ 同月26日,当事者双方及び事件本人の3名で■大学のパイプオルガンの演奏会に行ったところ,事件本人は,相手方に隠れるようにして,申立人を避けるような態度を取っていた。
オ 同年4月8日,申立人は事件本人を迎えにBマンションを訪れたが,事件本人は泣き叫んで抵抗した。相手方も部屋の奥から出てこようとしなかったため,申立人は一旦Bマンションを後にし,改めて父方祖父母とともにBマンションを訪れた。事件本人は,おもちゃを取りに来るよう誘われると泣きやみ,引き渡しはうまくいった。
カ 同月9日,申立人は父方祖父母とともに事件本人を迎えにBマンションを訪れた。事件本人は,再び泣き叫んで抵抗したが,おもちゃを買いに行こうなどと誘われると泣きやみ,引き渡しはうまくいった。
(7)福岡における面会交流の状況等(甲0-4,10,15の1~4,42,乙4ないし7,21の3,平成25年4月9日付調査報告書・5~6頁,平成26年6月3日付調査報告書・6頁,第3回期日調書・4~5頁)
ア 相手方及び事件本人が■に転居した後は,JR■駅を引渡場所として,平成23年5月14~16日及び同年6月3~5日に宿泊付面会交流が実施された。事件本人は,引き渡しの際,申立人に噛みつくなど抵抗していたが,おもちゃを買いに行こうなどと誘われると,最終的には申立人について行った。5月の面会交流において,事件本人は,■市内の申立人の実家に行き,父方祖父母とも楽しく過ごしたが,相手方宅に戻ってくると,申立人に対する怒りの気持ちなどを述べていた。
イ 同年7月及び8月に予定された面会交流は,事件本人の拒否により引き渡しが失敗した。同年9月に予定された面会交流は,面会交流支援機関(FPIC)を利用することとなり,FPIC職員が3人がかりで相手方から事件本人を引き離そうとしたものの,事件本人の抵抗により分離に失敗し,面会は成立しなかった。そこで,申立人は,同年10月及び11月の面会は見送ることとした。
ウ 相手方は,同年7月8日の引き渡しの際,同月12日に予定されていた前件離婚調停事件の期日に申立人との離婚が成立しないのは困ると考え,事件本人に対し,申立人と離婚するために面会に応じてほしいと頼んだが,事件本人は泣いてしまい,結局,引き渡しはうまくいかなかった。なお,相手方は,事件本人に対し,過去にも同じような方法で面会に応じるよう頼んでおり,そのときは事件本人も面会に応じていた。
エ 事件本人は,従来は,申立人のことを「パパ」と呼んでいたが,前件調停の成立後しばらくたったころから,「Xさん」と呼ぶようになった。
(8)履行勧告の経緯等(甲10,17,乙4,8,9,東京家庭裁判所平成23年(家ロ)第1855号(以下「第1回履行勧告」という。)記録一式)
ア 申立人は,平成23年12月15日,相手方が前件調停の調停条項7項に違反していることを理由に第1回履行勧告を申し立てた。
イ 同月及び平成24年1月に予定された面会交流についても,事件本人の拒否により引き渡しが失敗した。なお,申立人は,平成23年12月20日,相手方に対し,大阪家庭裁判所が発行している面会交流のしおりを送付し,事件本人の引き渡し時には笑顔で対応するよう求めたが,相手方は,申立人を前にして笑顔にはなれないなどとして,その要求を拒絶していた。
ウ 当事者双方は,調査官を通じてやりとりをした結果,平成24年5月までは間接的な交流のみにとどめ,しばらく事件本人の様子を見ることに合意した。そのため,第1回履行勧告の手続は同年2月1日に終了した。
(9)父方祖父の余命宣告後の経緯等(甲4,5の1~5,6,9,17,50,乙11)
ア 平成24年7月31日に父方祖父が倒れ,手術を受けたものの大腸がんの転移により根治が不可能であり,余命が1~3か月程度である旨の告知があった。父方祖父は事件本人をかわいがっていたので,申立人は,同年8月3日,相手方に対し,事件本人を父方祖父に会わせるために■に連れて来てもらいたいとのメールを送信した。
イ 相手方は,同月5日,申立人に対し,次の趣旨のメールを返信した。
(ア)相手方にとって,申立人との高葛藤の原因は,前件離婚調停事件の財産分与において,〔1〕戸建住宅の頭金200万円,〔2〕家計ボックスに残っていた現金,〔3〕相手方のクレジットカードから支出された申立人の生活費等及び〔4〕別居中の未払婚姻費用などが考慮されなかったことにある。
(イ)これら約300万円のお金を返してもらえない限り,申立人に対する相手方の感情が変わることはない。
ウ 申立人は,相手方に対し,交通費として用意していた3万円を300万円の一部として送金し,同月6日にその旨をメールで連絡した。
エ 相手方は,同月9日,申立人に対し,交通費とは別に300万円を借入れしてでも用意してもらいたいこと,その振込が完了するまでは,事件本人を父方祖父に会わせるつもりがないことなどを内容とするメールを送信した。
オ 申立人は,同月22日,相手方に対し,300万円の支払要求は不当であり応じられないこと,父方祖父と事件本人との面会を速やかに実現させてほしいことを求める手紙を送付した。
カ 相手方は,同月24日,申立人に対し,次の趣旨のメールを送信した。
(ア)事件本人は,申立人や父方祖父母と会いたくないと言っている。
(イ)申立人は300万円の支払に応じず,相手方との関係改善の意思がないと理解されるので,相手方には事件本人を説得する材料がない。
(10)本件申立て後の経緯等(甲12,乙11,当庁平成24年(家ロ)第1025号,同第1026号(以下「本件保全事件」という。)・各期日調書,東京家庭裁判所平成24年(家ロ)第1732号(以下「第2回履行勧告」という。)記録一式,同第(家ロ)第1869号(以下「第3回履行勧告」という。)記録一式)
ア 申立人は,平成24年9月7日,本件保全事件とともに第1,2事件を申し立てた。
イ 相手方は,同月12日,申立人に対し,事件本人を父方祖父の入院先に連れて行く方向で説得していることなどを内容とするメールを送信した。
ウ 相手方は,同月15日,事件本人を連れて父方祖父の入院先を訪問し,事件本人と父方祖父とを面会させた。なお,相手方の求めに応じ,申立人は同席しなかったが,事件本人は父方祖父母に対しても拒否的な反応を示していた。
エ 申立人は,同年10月9日,相手方が前件調停の調停条項7項,8項及び18項に違反していることを理由に第2回履行勧告を申し立てた。同年11月6日,履行勧告手続における調整が困難であることを理由に上記履行勧告の手続は終了した。
オ 相手方は,同月30日,第3事件を申し立て,当裁判所は,同年11月6日,第3事件を調停(当庁平成24年(家イ)第2287号)に付した。
カ 当裁判所は,本件保全事件について,当事者双方を審問するなどした結果,第3回期日までに保全の必要性は認められないと暫定的に判断し,同月12日,第1,2事件をいずれも調停(当庁平成24年(家イ)第2323号,同第2324号,上記オの調停事件と併せて「本件調停事件」という。)に付した。
キ 申立人は,同年12月4日,相手方が前件調停の調停条項7項,18項及び19項に違反していることを理由に第3回履行勧告を申し立てた。同月21日,履行勧告手続における調整が困難であることを理由に上記履行勧告の手続は終了した。
(11)1回目の試行的面会交流(甲44,乙15,平成25年4月9日付調査報告書)
 平成25年3月25日,当庁のプレイルームにおいて,申立人と事件本人との試行的面会交流が実施されたところ,その結果は次のとおりであった。
ア 事件本人は,試行的面会交流の開始当初は,申立人を激しく拒否し,プレイルームから逃げだそうとした。しかし,申立人が,事件本人に無理強いしないよう配慮しながらコミュニケーションを図った結果,事件本人は次第に申立人に近づき,最終的には2人で遊ぶことができるようになった。事件本人は,最後まで申立人を「パパ」と呼ぶことはなかったものの,自ら申立人に抱き上げてもらい,会話の中では笑顔も見られた。約1時間の試行的面会交流のうち後半の約30分については,調査官の介入も必要なくなり,円滑な面会交流が実現した。
イ ところが,事件本人は,相手方が迎えに来た途端に態度を一変させ,調査官が事件本人をプレイルームから出してくれなかったと責め,相手方の顔をうかがうように見たあと,調査官の手に爪を立てて強くつねるなど強い攻撃性を示した。申立人は,プレイルームを退室する際,相手方に対し,「今日はありがとう」と声をかけたが,相手方は,それに答えることはなく,事件本人を抱き上げたまま,申立人の方に顔を向けようとせず,申立人に対する拒否的な感情を抑えることができない様子であった。
ウ 相手方は,試行的面会交流終了後,プレイルームのドアの前で,事件本人に対し,「ママ見てたよ」と述べた。
エ 事件本人は,1回目の試行的面会交流に先立ち,同年2月15日,相手方とともに事前面接調査を受け,事件本人の生活歴の話をしていた際,唐突に,「Xさんと面会しなきゃだめ?」と言い出し,その後母の表情を確認するなど,相手方の顔色を窺うような状況であった。
オ 事件本人は,1回目の試行的面会交流を終えて帰宅した後,相手方に対し,「Z君は神様から作られなければよかった」と述べるなど荒れていた。
(12)2回目の試行的面会交流(乙16,平成25年6月7日付調査報告書)
 平成25年5月20日,当庁のプレイルームにおいて,申立人と事件本人との再度の試行的面会交流が実施された。事件本人は,申立人を一貫して拒絶し,調査官の説諭に対しても強く反発し,円滑な交流は最後まで実現しなかったところ,その際,次のやりとり等があった。
ア 事件本人は,調査官に対し,嫌と言えばプレイルームから出してもらえると相手方から聞いた旨を述べた。これに対し,調査官が,事件本人が嫌と言えばではなく,申立人が嫌なことをしたらであると繰り返し訂正したが,事件本人は相手方からそのような説明は受けていないとして,調査官の説明を受け入れようとはしなかった。
イ 事件本人は,申立人から,プレイルームから出たい理由を問われると,突然「あっちにマジックミラー」などと述べた。
ウ 調査官から,試行的面会交流当日の申立人の何が嫌だったかを尋ねられたのに対し,事件本人は,申立人に無理矢理■に連れて行こうとされたことを述べて申立人を拒否した。そこで,申立人は事件本人に対して謝罪し,調査官からも当面は■で遊ぶことを説明し,他に嫌なことはないかを尋ねたところ,事件本人は黙っていた。
エ 事件本人は,試行的面会交流の終盤に突然,東京にいた3歳のころ,申立人と入浴中に湯船の中で申立人に男性器を触られたこと,それは申立人のところにつれて行かれたときの出来事であったこと,そのことを相手方にも伝えたところびっくりしていたことなどを述べた。なお,1回目の試行的面会交流では,このような発言はなかった。
オ 事件本人は,2回目の試行的面会交流を終えて帰宅した後は,1回目の試行的面会交流の後のように荒れることはなかった。
(13)本件調停事件が不成立となった経緯等(甲25,第3事件・相手方主張書面(1))
ア 申立人は,平成25年10月7日の本件調停事件の期日において,相手方に対し,次の手順により段階的に面会交流を再開するよう求めた。
(ア)相手方が相手方代理人に事件本人を円滑に受け渡せるようにする。
(イ)相手方代理人が,事件本人に対して,申立人との関係回復を促す。
(ウ)相手方代理人立会いの下で,2時間程度の面会交流を実施する。
(エ)仲介者を相手方代理人から第三者に移行し,面会時間を段階的に長くして,最終的には前件調停どおりの面会交流を実施する。
イ 上記アの要望を受けて,相手方は,相手方代理人の自宅で開催されるパーティに事件本人を参加させることを予定したが,事件本人をそのパーティに参加させることができなかった。そのため,平成25年12月9日,本件調停事件はいずれも不成立となり,審判手続(本件)に移行した。申立人は,同月27日,本件保全事件の申立てをいずれも取り下げた。
(14)相手方の監護状況(相手方主張書面(1),平成25年4月9日付調査報告書,第3回期日調書)
 相手方は,事件本人及び相手方自身の祖母と3人で暮らしており,面会交流を実施できない点を除けば,その監護状況に特段の問題は見あたらない。なお,事件本人は,平成26年4月,■所在の■小学校に入学している。
(15)申立人の監護態勢(甲29,平成26年6月3日付調査報告書)
ア 申立人は,事件本人を引き取ることとなった場合,■市内の申立人の実家において,父方祖母の支援も受けながら事件本人の監護を行うことを予定している。最初は,申立人も1か月程度の休暇を取って事件本人と一緒に過ごし,事件本人が新たな環境に適応できるよう努める予定である。
イ 申立人は,■株式会社のa本社に勤務しているが,家庭の事情による■支社への転勤を希望することは可能であり,実際に,平成24年夏に父方祖父が倒れたときにも,同年8月一杯休暇を取得した上,同年9月から異動が実現し,同年10月下旬にa本社に戻るまで■支社で勤務した。申立人は,直属の上司には相談し,事件本人を引き取ることとなった場合には■支社への異動を希望する旨を伝えており、そのまま■支社に残留することができると見込んでいる。
ウ 家庭裁判所調査官は,調査の結果,申立人の監護態勢に特段の問題は認められず,事件本人の引渡しがうまくいけば,事件本人は申立人及び父方祖母から愛情をもって監護されることが期待できるとの意見を示した。 
2 性的虐待の疑いについて
(1)事件本人は,2回目の試行的面会交流において,東京にいた3歳のころ,申立人と入浴中に湯船の中で申立人に男性器を触られたこと,それは申立人のところにつれて行かれたときの出来事であったこと,そのことを相手方にも伝えたところびっくりしていたことなどを述べた(以下「本件発言」という。)。これに関連し,相手方は,平成23年4月及び6月の面会交流の後,事件本人から申立人の男性器を触ったとの話を聞いたとして,それを裏付けるメール(乙21の2,3)を提出する。
 そして,相手方は,文献(乙17の1・2,乙18の1・2)を引用した上,上記メールの時点で,事件本人から速やかに適切な聴取りなどの対応がされなかった以上,申立人による性的虐待の疑いを否定することはできないと指摘し,事件本人の親権者を申立人に変更すべきではなく,事件本人を申立人に引き渡すべきではなく,当分の間面会交流を認めるべきではなく,当分の間を過ぎたとしても,面会の頻度は1か月に1回というわけにはいかないし,宿泊を伴う面会は絶対に避けるべきであるなどと主張する。
(2)この点,相手方は,申立人の男性器を申立人に触らされたのか,事件本人が自ら触ったのかの確認はしていないと述べている(第3回期日調書・4頁)し,上記メールの直後の平成23年7月には,申立人に宿泊付きの面会交流を認める内容を含む前件調停に合意しているから,上記メールの当時には,申立人が事件本人に対して性的虐待と評価される行為に及んだことを窺わせる根拠は全くなかったと考えるほかない。上記メールの時点での事件本人の発言は,性的虐待を具体的に疑わせる内容ではない以上,相手方の引用する文献の指摘は当たらない。
 また,事件本人の年齢は,上記メールの時点では3歳,2回目の試行的面会交流の時点では5歳に過ぎず,その発言を直ちに信用することはできない上,上記メールの時点では,事件本人が申立人の男性器を触ったという話であったものが,本件発言では,申立人が事件本人の男性器を触ったという話に変遷している。これらに加え,相手方も,事件本人又は申立人が他方の男性器を触って嫌な思いをしたという話を事件本人から聞いたのは,交替監護終了後の平成23年4月が初めてであったと述べていること(第3回期日調書・4頁),1回目の試行的面会交流の際には,本件発言のような話は出ておらず,本件発言も,2回目の試行的面会交流の終盤に突然出されたことを踏まえると,本件発言に基づき,申立人が事件本人に対して性的虐待と評価される行為に及んだと認めることもできない。
 むしろ,本件発言は,2回目の試行的面会交流の際,申立人との面会交流を拒否する理由に窮した事件本人が,申立人の男性器を触った話をした際の相手方の消極的な反応を思い出し,面会交流を拒否する理由として,その話を持ち出そうとしたものと理解するのが自然である。
 以上に加え,申立人は,事件本人の体を洗う際に男性器を触ったことや,事件本人がふざけて申立人の男性器を触ってきたことはあるが,性的虐待と評価される行為は一切していないと主張し,それに沿う陳述(甲20,第3回期日調書・4頁)をしているところ,この陳述内容は自然であり信用できるから,申立人は,性的虐待と評価される行為は一切していないと認められる(平成25年6月7日付調査報告書・11頁参照)。
3 事件本人が申立人を強く拒絶している原因について
(1)前件監護状況調査の結果によれば,申立人と事件本人の関係が良好であったことは明らかであるところ,交替監護が終了した平成23年1月末以降,事件本人の拒絶により,面会交流開始時の事件本人の引き渡しが次第に難航するようになり,同年7月以降は全く引き渡しが実現していない。また,平成25年3月に実施された1回目の試行的面会交流ではある程度円滑な交流が実現したものの,同年5月に実施された2回目の試行的面会交流では最後まで円滑な交流が実現せず,その後も事件本人の強い拒絶により,申立人と事件本人との面会交流を実施することが事実上困難な事態に陥っている。
 親権者変更及び面会交流の条件変更の申立てを検討するに当たり,これらの拒絶の原因をどのように理解するかが重要となるため,以下で検討する。
(2)交替監護終了後の事件本人の拒絶の原因について
ア この点,〔1〕交替監護開始直後の平成22年7月13日,相手方が申立人の監護下にある事件本人にあうためにAマンションを訪れ,申立人が相手方と事件本人とを面会させたところ,相手方が泣き出したこと,〔2〕平成23年1月30日の引き渡しにおいて,相手方は,申立人に対し,面会が終わった後にBマンションに戻れることを事件本人に説明するよう求めていたこと,〔3〕同年2月11日や4月8日に,申立人がBマンションに事件本人を迎えに行っても,相手方は部屋の奥から出てこようとしなかったこと,〔4〕相手方は,同年7月8日及びそれ以前に,事件本人に対し,申立人と離婚するために面会に応じてもらいたいと頼んでいたこと,〔5〕相手方は,面会交流の引き渡しの際に,事件本人を笑顔で送り出すことを拒否しており,本件の期日においても,申立人と会っておいでと明るく振る舞うのはかえって事件本人に不審に思われるなどと述べていること,〔6〕相手方は,平成24年夏に父方祖父が倒れた際の申立人とのやりとりにおいて,申立人との高葛藤の原因は前件調停における財産分与の処理に関する不満が原因であり,そのことを理由に事件本人に面会を促すことができないとの趣旨のメールを送信していたことなどによれば,相手方は,事件本人の前でも,申立人自身への否定的感情や面会交流を快く思っていないとの気持ちを隠すことができず,事件本人が申立人との面会を楽しむことに罪悪感を覚えさせるような言動を取り続けていたと推認するのが合理的である。
イ また,〔1〕前件監護状況調査におけるBマンションの家庭訪問の際,事件本人は,調査官を玄関で出迎え,いきなり「僕はママ(相手方)といたいです」と述べたこと,〔2〕■保育園の送迎の際の事件本人の態度に申立人,相手方による差異はなかったことが確認されているが,相手方は,申立人が迎えに来ることを事件本人は嫌がっていると認識していたこと,〔3〕平成23年2月12日,申立人は事件本人を抱いてBマンションに向かっていたが,事件本人は,Bマンションが近づくと,申立人に抱っこされると相手方が怒ると述べて急に降りようとしたこと,〔4〕事件本人は,同月26日の■大学のパイプオルガンの演奏会において,相手方に隠れるようにして,申立人を避けるような態度を取っていたこと,〔5〕事件本人は,同年5月14~16日の面会交流を楽しんだにもかかわらず,相手方宅に戻ると,申立人に対する怒りの気持ちなどを述べていたことなどによれば,事件本人は,上記アのような相手方の態度により,相手方への忠誠心を示すように強く動機付けられ,相手方の前では申立人との良好な関係を隠そうとしていたものであるが,相手方の単独監護下での生活が長くなるにつれて,申立人を拒絶する傾向を強めていったと推認するのが合理的である(平成25年4月9日付調査報告書15~16頁,同年6月7日付調査報告書・11頁参照)。
(3)2回目の試行的面会交流が失敗した原因について
 この点,〔1〕事件本人は,1回目の試行的面会交流では,開始当初はプレイルームから逃げだそうとしたものの,次第に申立人と2人で遊ぶことができるようになったのに対し,2回目の試行的面会交流では,嫌と言えばプレイルームから出してもらえると相手方から聞いたと述べて,最後まで申立人との交流に応じようとしなかったこと,〔2〕事件本人は,1回目の試行的面会交流の終了後,相手方が迎えに来た途端に態度を一変させ,調査官が事件本人をプレイルームから出してくれなかったと責め,相手方の顔をうかがうように見たあと,調査官の手に爪を立てて強くつねるなど強い攻撃性を示したこと,〔3〕申立人は,プレイルームを退室する際,相手方に対し,「今日はありがとう」と声をかけたが,相手方は,それに答えることはなく,事件本人を抱き上げたまま,申立人の方に顔を向けようとせず,申立人に対する拒否的な感情を抑えることができない様子であったこと,〔4〕相手方(第3回期日調書・5頁)によれば,事件本人はプレイルームにマジックミラーが設置されていることを認識していたにもかかわらず,相手方は,1回目の試行的面会交流の後,事件本人に対し,「ママ見てたよ」と述べたところ,事件本人は,2回目の試行的面会交流において,申立人から,プレイルームから出たい理由を問われると,「あっちにマジックミラー」などと述べ,面会交流が相手方に見られていることを意識したと思われる発言をしたこと,〔5〕事件本人は,同年2月15日,相手方とともに事前面接調査を受けたところ,その際,申立人について自ら語ることはあまりせず,相手方の顔色を窺うような状況であったこと,〔6〕事件本人は1回目の試行的面会交流を終えて帰宅した後,相手方に対し,「Z君は神様から作られなければよかった」と述べるなど荒れていたが,2回目の試行的面会交流を終えて帰宅した後に荒れることはなかったこと,〔7〕1回目と2回目の試行的面会交流の間には,申立人と事件本人とが接触する機会は全くなかったことからすると,2回目の試行的面会交流が失敗した原因は,上記〔3〕及び〔4〕を含む相手方の言動により,事件本人が,1回目の試行的面会交流において,申立人と円滑な交流をしたことに強い罪悪感を抱き,相手方に対する忠誠心を示すために申立人に対する拒否感を一層強めたためと推認するのが合理的である。
(4)まとめ
 以上の次第で,事件本人が,申立人を強く拒絶するに至った主な原因は相手方の言動にあると認められる。
(5)相手方の主張について
ア これに対し,相手方は,事件本人が申立人との面会を拒否するようになったのは,面会交流の引き渡しの際に相手方が事件本人の目を盗んで立ち去るなどしたために,事件本人の分離不安が高まったことや,申立人が事件本人に約束したおもちゃを持ってこないなどの出来事により,事件本人の申立人に対する不信感が高まったことが原因であり,相手方は,事件本人に対し,面会交流に向けた働きかけをしてきたなどと主張する。
イ しかしながら,相手方が,事件本人を面会交流の引渡場所に連れてきたり,事件本人に対し,面会交流に応じるよう話をしていたとしても,それと矛盾する言動をとり続けていたことは前記のとおりである。
 また,平成23年1月までは交替監護が実施され,申立人と事件本人との関係も良好だったのであるし,■保育園の送迎の際の事件本人の態度に申立人,相手方による差異がないことも確認されているから,交替監護終了後の申立人との面会により,事件本人が相手方との分離不安を強めたとは考えにくい。面会交流の引き渡しの際に相手方が事件本人の目を盗んで立ち去るなどの行為が必要になったのも,相手方の言動により事件本人が申立人に対する拒否感を強めたことが原因と理解される。
 そして,申立人と事件本人との従前の良好な関係に照らせば,申立人が事件本人に対して約束したおもちゃを持ってこなかったことなど相手方の指摘する些細な出来事が,面会交流を拒むほどの理由とは考えがたい。
 なお,子が親を拒絶する要因については,「小澤真嗣『家庭裁判所調査官による子の福祉に関する調査-司法心理学の視点から-」家庭裁判月報61巻11号1頁」の42頁及び「小澤真嗣『子どもを巡る紛争の解決に向けたアメリカの研究と実践-紛争性の高い事例を中心に』ケース研究272号149頁」(以下「小澤ケース研究論文」という。)の154頁において,監護親,非監護親,子の要因等が複合的に作用するとの一般論も紹介されているが,本件においては,1回目の試行的面会交流後の当事者双方の対応などを見る限り,円滑な面会を実施できない主たる原因が相手方の言動にあることは明らかであり,相手方の言動以外に事件本人が申立人を拒否するに至った主要な要因はないと考える。
ウ したがって,相手方の上記主張は採用することができず,一件記録をみても,事件本人が申立人を強く拒絶するに至った主たる原因は相手方の言動にあるとの上記認定を左右すべき証拠は見あたらない。
4 親権者変更について
(1)当裁判所としては,事件本人の福祉の観点から,親権者を相手方から申立人に変更し,監護権者として相手方を指定すべきであると考えるところ,その理由は次のとおりである。
(2)親権者を変更する必要性について
ア 面会交流を確保することの意義について
 双方の親と愛着を形成することが子の健全な発達にとって重要であり,非監護親との面会交流は,非監護親との別離を余儀なくされた子が非監護親との関係を形成する重要な機会であるから,監護親はできるだけ子と非監護親との面会交流に応じなければならならず,面会交流を拒否・制限しうるのは,面会交流の実施自体が子の福祉を害するといえる「面会交流を禁止,制限すべき特段の事情」がある場合に限られると解されている(細矢郁ほか「面会交流が争点となる調停事件の実情及び審理の在り方-民法766条の改正を踏まえて」・家庭裁判月報64巻7号75頁参照)。
 そして,本件において,かかる特段の事情が認められないことは明らかであるところ,申立人と事件本人との関係が良好であったことに照らせば,相手方の態度変化を促し,事件本人の申立人に対する拒否的な感情を取り除き,円滑な面会交流の再開にこぎ着けることが子の福祉にかなうというべきである(なお,小澤ケース研究論文の156頁によれば,〔1〕拒絶のプロセスに巻き込まれた子どもは,非監護親との関係が失われる結果,監護親の価値観のみを取り入れ,偏った見方をするようになる,〔2〕監護親が子どもの役割モデルとなる結果,子どもは,自分の欲求を満たすために他人を操作することを学習してしまい,他人と親密な関係を築くことに困難が生じる,〔3〕子どもは,完全な善人(監護親)の子である自分と完全な悪人(非監護親)の子である自分という2つのアイデンティティを持つことになるが,このような極端なアイデンティティを統合することは容易なことではなく,結局,自己イメージの混乱や低下につながってしまうことが多い,〔4〕成長するにつれて物事が分かってくると,監護親に対して怒りの気持ちを抱いたり,非監護親を拒絶していたことに対して罪悪感や自責の念が生じることがあり,その結果,抑うつ,退行,アイデンティティの混乱,理想化された幻の親のイメージを作り出すといった悪影響が生じるなどとされている。)。
イ 相手方が親権者と指定された前提が損なわれていること
 前件暫定合意及び前件調停の内容及びそれに至る経緯に照らせば,申立人が,相手方を監護者ないし親権者と指定することに同意したのは,相手方が面会交流の確保を約束したことが主たる理由であったと認められる。また,前件監護状況調査において,調査官は,事件本人と会えなくなるという申立人の不安は現実的なものと考えられるとの意見を示していたから,相手方には,その意見を真摯に受け止め,面会交流の円滑な実施に向けて必要な配慮を行うことが強く期待されていたといえる。
 しかるに,前記認定のとおり,相手方の言動により事件本人が面会交流に応じない事態となっており,相手方を親権者として指定した前提が損なわれていると評価せざるを得ない。
ウ 親権者変更以外に現状を改善する手段が見当たらないこと
 申立人は,調停や履行勧告などの法的手段や,面会交流支援機関(FPIC)を利用するなどして,面会交流の再開に向けて取り得る手段を尽くしてきたことが認められる。そして,申立人は,本件調停事件においても,面会交流さえ確保できれば,親権者変更に拘らないとの態度を示してきたものであるが,前記のとおり,2回目の試行的面会交流は失敗し,その後も面会交流の再開の目途がたたなくなっている。また,相手方は,面会交流を実現するには時期を待つしかないなどと述べ,事件本人に対して面会交流を動機づける具体的な方策を持ち合わせていない(第3回期日調書・6~7頁)。
 そうすると,申立人において,親権者変更を求める以外に,面会交流が実現しない現状を改善する手段が見あたらないといえる。
エ 親権と監護権とを分属させる積極的な意義が認められること
(ア)子の身上監護を行うべき親に監護権を含む親権を委ねることが子の福祉にかなう場合が多いことから,親権と監護権とを分属させないことが原則であるけれども,親権と監護権とを分属させることが子の福祉にかなうといえる特段の事情がある場合にはその限りでないと解される。
 例えば,〔1〕親権者となった一方の親の事情あるい子の事情で,子が直ちに親権者となった親のもとで生活できず,しばらく他方の親のもとで生活させる必要がある場合や,〔2〕一般的に監護者に監護をさせながら,子の監護に重大な問題について,親権者を関与させる余地を残し,共同監護の実を挙げさせる必要がある場合などにおいて,親権と監護権とを分属させることが相当な場合がある(斎藤秀夫=菊池信男「注解家事審判法〔改訂〕」349頁,清水節「親権と監護権の分離・分属」,判例タイムズ1100号144頁参照)。
(イ)この点,相手方の態度の変化を促すことにより,円滑な面会交流の再開にこぎつけることが子の福祉にかなうことは前記のとおりであるところ,そのためには,申立人に親権を,相手方に監護権をそれぞれ帰属させ,当事者双方が事件本人の養育のために協力すべき枠組みを設定することが有益であると考える。
 当事者双方が親権を有していた交替監護の継続中においては,保育園の行事に当事者双方がそろって出席するなど最低限の協力関係はあったと認められるところ,親権と監護権とを分属させることによって,少なくとも交替監護当時と同程度の協力関係を復活させることが望ましい。
 申立人と相手方とが協力関係を構築することにより,事件本人を少しでも葛藤状態から解放することも,子の福祉にかなうと考える。
(ウ)また,申立人は,交替監護の開始前も可能な限り育児に関与してきたものであるし,約半年間の交替監護の期間中の当事者双方の監護状況は,甲乙つけ難いほど,ほぼ十分な監護環境が提供されていたと評されている。調査官は,申立人の現在の監護態勢に特段の問題は認められないとして,事件本人の引き渡しがうまくいけば,事件本人は申立人及び父方祖母から愛情をもって監護されることが期待できるとの意見を述べている。前件監護者指定事件において相手方が提出した陳述書(甲1・4頁)によれば,申立人は,相手方と同居していたときから,事件本人の監護のために2年間で少なくとも23日半の休暇を取得したことが認められ,少なからず事件本人の監護に関与していたことが窺える。
 したがって,申立人には,親権者として事件本人の監護養育の一端を担う十分な実績と能力があると認められる。
(エ)他方,申立人は,事件本人を引き取った場合のことについても具体的に検討している(申立人準備書面2・15~17頁,甲26,39,41参照)けれども,2回目の試行的面会交流の際の事件本人の反応などによれば,事件本人の引き渡しが実現しない可能性が高いと考えざるを得ない。そして,子の引き渡しの強制執行を試みて失敗した場合の事件本人に対する精神的負担や,事件本人の申立人に対するイメージが更に悪化するリスクを軽視しえない。
 また,監護者が暫定的に相手方と指定された平成23年1月から現在まで,事件本人は相手方の単独監護下にあり,面会交流を実施できないことを除けばその監護状況に特段の問題は見あたらないこと,事件本人は平成23年4月から■県内で生活し,平成26年4月からは■県■市内の小学校に入学したことを考慮すると,相手方による監護を継続させた方が事件本人の負担が少ないことも否めない。
 このように,事件本人の監護を相手方から申立人に移すことを躊躇すべき事情が認められる。
(オ)したがって,本件においては,親権と監護権とを分属させ,当事者双方が事件本人の養育のために協力すべき枠組みを設定することにより,相手方の態度変化を促すとともに,子を葛藤状態から解放する必要があること,申立人には,親権者として事件本人の監護養育の一端を担う十分な実績と能力があること,事件本人の監護を相手方から申立人に移すことを躊躇すべき事情が認められることからすると,親権と監護権とを分属させることが子の福祉にかなうといえる特段の事情が認められ,親権と監護権とを分属させる積極的な意義があると評価できる。
(3)まとめ
 以上のとおり,相手方が親権者と指定された前提が崩れていること,親権者変更以外に現状を改善する手段が見当たらないこと,親権と監護権とを分属させる積極的な意義が認められることを考慮すると,監護者を相手方に指定することを前提として,子の福祉の観点から,親権者を相手方から申立人に変更する必要が認められる。
 他方,前記のとおり,事件本人の監護を相手方から申立人に移すことを躊躇すべき事情が認められることを踏まえると,現時点において,監護権を含む親権を直ちに申立人に帰属させる必要までは認め難い。
(4)相手方の主張について
ア これに対し,相手方は,現在の申立人と相手方との関係では,両者の意見が対立した場合にその対立が適切に解消されることは期待できないから,親権と監護権とを分属させることは相当でないと主張し,相手方は,申立人との間で協力して事件本人を監護することが精神的にも困難であると述べている(第3回期日調書・2頁)。
イ しかしながら,親権と監護権とを分属させる積極的な意義が認められることは前記のとおりであるし,急病などの緊急事態において,申立人が事件本人の利益に反する判断を行うとは考えがたい。
 また,相手方は,父方祖父が倒れた際の申立人とのやりとりにおいて,財産分与の処理に関する不満が申立人との高葛藤の原因である旨のメールを送信しているのであり,一件記録をみても,相手方が申立人に協力的になれないことを正当化しうる事情は特に見当たらない。申立人代理人は,申立人と相手方との仲介をする用意があると述べており(第3回期日調書・6頁),相手方が申立人と連絡を取る上で支障があるともいえない。
ウ したがって,相手方の上記主張を採用することはできず,親権と監護権とを分属させることが相当であるとの前記判断は左右されない。
(5)以上の次第で,事件本人の親権者を相手方から申立人に変更するとともに,事件本人の監護者を相手方と指定すべきである。
5 子の引き渡しについて
 上記4のとおり,事件本人の監護者を相手方と指定すべきであるから,申立人による子の引き渡しの申立てには理由がない。
6 面会交流の条件変更について
(1)前件調停の調停条項4項について
 監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において,面会交流の日時又は頻度,各回の面会交流時間の長さ,子の引き渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合は、上記審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができると解される(最高裁平成25年3月28日第1小法廷決定・民集67巻3号864頁)。
 そして,面会交流の実施を確保するために特に必要がある場合においては,民法766条1項の「その他子の監護について必要な事項」として,面会交流が実施されなかった場合に相当な範囲で金銭を支払うよう合意することも許容されると解され,前件調停の成立に至る経緯に照らせば,その調停条項4項も面会交流の実施を確保する目的で合意されたと認められる。 
 本件において,面会交流が実現しない主たる原因が相手方の事件本人に対する言動にあることは前記のとおりであるから,調停条項の4項の合意の趣旨を維持することが面会交流の実施を確保するために特に必要であるし,月額2万円という金額も相当な範囲内の金額といえる。
 もっとも,養育費を受動債権として相殺することが禁止されていること(民法510条,民事執行法152条1項1号)や,扶養請求権を事前に放棄することはできないと解されることに鑑みると,面会交流が実施されなかった場合に養育費の支払義務を免除するとの調停条項の定め方は相当でない。
 したがって,前件調停の調停条項4項に代えて,家事審判規則53条に基づき,相手方に対し,本審判の確定した月から事件本人が20歳に達する月までの毎月(別紙面会交流要領の1項ないし3項を全て満たす面会交流が実施された月を除く。),その末日限り,2万円を申立人に支払うよう命じるのが相当である。
(2)前件調停の調停条項7項1号ないし4号,6号,7号,9号,10号,10項について
 相手方の言動により面会交流が実現していないという現状を踏まえると,毎月1回という面会交流の頻度を変更するのは相当でない。ただし,事件本人の負担を考慮すると,面会交流を再開するに当たっては,短時間の面会から徐々に時間を延長していくべきであるから,1回当たりの時間は3時間と定め,宿泊を伴う面会交流の定めはいったん取り消すのが相当である。また,面会交流の具体的日程は,面会交流の実施の可否を見極めることの可能な相手方に提案させるのが相当である。
 なお,上記(1)のとおり,定められた面会交流が実施された場合には,相手方が月額2万円の支払を免れることになるから,前件調停の調停条項7項1号ないし4号,6号,7号,9号,10号を変更し,面会交流の日時又は頻度,各回の面会交流時間の長さ,子の引き渡しの方法等について,別紙面会交流要領のとおり具体的に定めておくことが相当である。
 また,申立人が教育機関への行事に出席することなどを認める調停条項10項については,その具体的な実施については,事件本人に対する配慮が必要なことは当然であるけれども,調停条項自体を変更すべき理由はない。
(3)前件調停の調停条項7項11号ないし13号,11項,12項について
 面会交流の再開の目処が立っていない現時点において,面会交流の費用負担に係る定めを変更することは相当でないから,調停条項7項11号ないし13号,11項,12項の取消しを求める申立てをいずれも却下するのが相当である。
(4)前件調停の調停条項7項の変更に伴う付随的な変更について
 上記(1)及び(3)により,7項は5号,8号,11号ないし14号のみが残され,その余の条項は主文第5項のとおり変更されたから,7項の柱書を削除した上,前件調停の調停条項のうち7項に関する記載がある部分について,主文第6項のとおり変更するのが相当である。
7 よって,主文のとおり審判する。
平成26年12月4日
福岡家庭裁判所
家事審判官 井出正弘

(別紙)面会交流要領
1 日時
(1)頻度 毎月1回
(2)時間 正午から午後3時までの3時間
(3)面会交流の具体的日程は,相手方が,申立人に対し,面会交流を実施しようとする月の前月7日までに(ただし,本審判が確定した時点で同日を経過している場合には,直ちに),土曜日,日曜日又は祝日の中から候補日を3つ提示し,申立人が,相手方に対し,当該通知を受け取った日から1週間以内に選定した面会日を通知することにより決定する。
2 引渡場所
(1)引渡場所は,JR■駅■改札口付近とする。
(2)相手方は,相手方の自宅を除く■市内又は東京都内の場所を,(1)に代わる引渡場所として指定することができる。相手方は,(1)以外の引渡場所を指定しようとするときは,申立人に対し,前項(3)に基づき面会交流の候補日を提示する際にその場所を通知する。
3 事件本人の引渡方法
(1)相手方は,1項の面会交流の開始日時に,前項の場所において,申立人に対して事件本人を引き渡す。
(2)申立人は,1項の面会交流の終了日時に,前項の場所において,相手方に対して事件本人を引き渡す。
4 以上のほか,面会交流の実施に当たり必要な事項は,事件本人の利益を最優先に考慮し,当事者双方が誠実に協議して定める。
以上
(別紙)調停条項
1 申立人と相手方は,相手方の申し出により,本日調停離婚する。
2 当事者の長男■(平成19年■生,以下「長男」という。)の親権者を母である相手方と定め,同人において監護養育する。
3 申立人は,相手方に対し,長男の養育費として,平成23年7月12日から同人が22歳に達した年の翌年3月まで,月額金2万円を,毎月末日限り,長男名義の■銀行の口座(記号■番号■以下「長男名義の口座」という。)に振り込む方法により支払う。
4 相手方は,理由の如何を問わず,第7項記載の面会交流が実現できなかった場合,申立人に対し,同項記載の面会交流が実現できなかった月における養育費の支払を免除する。ただし,同項記載の面会交流が実現できなかったことが,申立人の責めに帰する事情による場合はこの限りではない。
5 相手方が再婚したときは,相手方は,申立人に対し,その旨を速やかに連絡し,第3項記載の長男の養育費について相手方が再婚した日の属する月以降の支払を免除する。ただし,申立人と相手方は,長男の福祉に配慮し,長男の養育費の支払の継続について,当事者間で誠実に協議し,長男の養育費の支払を継続する旨の協議が整った場合,申立人は,相手方に対し,第3項記載の長男の養育費を支払う。
6 相手方は,長男が養子縁組した場合,申立人に対し,その旨速やかに連絡する。
7 相手方は,申立人に対し,申立人が長男と以下のとおり面会することを認め,その実施に向けて積極的に協力する。
(1)面会交流の回数を1か月に1回とし,2泊を限度とする宿泊を伴う面会交流を行う。
(2)毎年8月については,前号の面会交流に代えて,1週間を限度とした宿泊付の面会交流を1回行う。
(3)毎年冬休み,春休み,ゴールデンウィーク等の長期休暇期間(12月,1月,3月,4月及び5月の間)における本項第1号の面会交流のうち,いずれか1回分の面会交流については,本項第1号の面会交流に代えて,5泊を限度とした宿泊付の面会交流を1回行う。本号の面会交流が2つの月にまたがる場合,当事者双方が誠実に協議して,2つの月のうち,いずれの月の面会交流を本号の面会交流に代えたかを決定する。ただし,平成23年については,12月のみを対象とする。
(4)面会交流の際,長男の受渡場所は,JR■駅とする。
(5)相手方は,面会交流の長男の受渡の際,申立人の父である■又は申立人の母である■が同行することを認める。相手方は,申立人が面会交流の長男の受渡において,申立人が受取ることができない場合,申立人の父である■又は申立人の母である■が,申立人の代わりに,長男を受取ることを認める。
(6)面会交流を認める日(以下「面会日」という。)は,子の福祉に配慮して,当事者間で事前に協議して定めることとする。
(7)相手方は,長男が東京都に来る場合,その旨を申立人に連絡する。
(8)長男の疾病などやむを得ない事情により,本項第6号に基づき定められた面会日に面会ができない場合,相手方は,申立人に対し,遅くとも前日までにその旨を連絡し,当事者双方が誠実に協議して代替日を設定する。
(9)面会交流を認める時間は,面会交流初日が土曜日,日曜日又は祝日の場合は,初日正午から最終日午後5時までとし,面会交流初日が平日の場合は,初日午後6時から最終日午後5時までとし,具体的な受渡時間は,子の福祉に配慮して,当事者間で事前に協議して定める。ただし,面会交流の長男の受渡方法として,本項14号に記載する第三者機関の利用を行なう場合,面会交流を認める時間は,曜日の如何にかかわらず,初日正午から最終日午後5時までとする。この場合,具体的な受渡時間は,長男の学業に支障が生ずるおそれがないように配慮する。
(10)申立人及び相手方は,長男の就学状況,申立人及び相手方の事情に応じて,前号の面会交流を認める時間について,変更の協議を行なう。面会交流を認める時間の変更をする際,申立人及び相手方は,長男の学業に支障が生ずるおそれがないように配慮する。
(11)相手方は,申立人に対し,面会交流1回につき,申立人が面会交流のため要する往復交通費のうち,2万円を当該面会交流が実行された月の末日限り,申立人名義の■銀行■支店(店番■)普通預金口座(口座番号■,以下「申立人名義の口座」という。)に振り込む方法により支払う。ただし,申立人又は相手方の転居により,長男との面会にかかる交通費が現状と変わる場合や,相手方が失職するなど収入が得られない状況になった場合は,上記支払金額について別途協議し,協議が整った場合は,上記金額を変更し,協議中もしくは協議が整わなかった場合は,上記金額は従前のとおりとする。
(12)面会日の前日までに,相手方から申立人に対して,長男の疾病等やむを得ない事情により当該日の面会ができない旨の連絡がなく,かつ,申立人に面会交流のための往復交通費(キャンセル料を含む)が発生した場合,相手方は,申立人に対し,2万円を当該面会交流が実現しなかった月の末日限り,申立人名義の口座に振り込む方法により支払う。ただし,申立人又は相手方の転居により,長男との面会にかかる交通費が現状と変わる場合や,相手方が失職するなど収入が得られない状況になった場合は,上記支払金額について別途協議し,協議が整った場合は,上記金額を変更し,協議中もしくは協議が整わなかった場合は,上記金額は従前のとおりとする。
(13)前2号に基づき,相手方が,申立人に対して支払う金員は,合計で月2万円を限度とする。
(14)申立人又は相手方が,本項記載の面会交流の実現のために社団法人家庭問題情報センターをはじめとする第三者機関を利用することを申し出た場合,申立人及び相手方は,本項記載の面会交流の実現のために第三者機関を利用することとし,申立人及び相手方は,第三者機関を利用するために必要な諸手続に誠実に協力する。当該第三者機関の利用に要する費用は,当事者双方が折半して負担する。
 申立人及び相手方が失職するなど収入が得られない状況になった場合は,上記支払金額について別途協議し,協議が整った場合は,上記金額を変更し,協議中もしくは協議が整わなかった場合は,上記金額は従前のとおりとする。
8(1)相手方は,将来転居することになった際,事前に速やかに申立人に連絡をし,転居前に面会交流の条件の変更等を誠実に協議することとし,協議期間として,3か月程度の期間を設けるよう努力する。相手方は,転居先が決まった場合,申立人に対し,速やかに,転居先の住所を連絡する。
(2)相手方は,将来長男のみが転居することになった際,事前に速やかに申立人に連絡をし,転居前に面会交流の条件の変更等を誠実に協議することとし,協議期間として,3か月程度の期間を設けるよう努力する。相手方は,長男の転居先が決まった場合,申立人に対し,速やかに,転居先の住所を連絡する。
(3)申立人は,将来転居することになった際,事前に速やかに相手方に連絡をし,転居前に面会交流の条件の変更等を誠実に協議することとする。申立人は,転居先が決まった場合,相手方に対し,速やかに,転居先の住所を連絡する。
9 申立人及び相手方は,携帯電話の番号及びメールアドレスを変更した場合,互いの相手方に対し,速やかに,変更後の携帯電話の番号及びメールアドレスを連絡する。
10 相手方は,申立人に対し,第7項記載の面会交流とは別に,申立人が長男が通う又は将来通う予定の保育園・幼稚園・小学校等の教育機関の行事(入学式,参観日,卒業式,スポーツ大会等)について,同人が22歳に達した年の翌年3月までの間,事前に連絡し,申立人が出席することを認める。
11 相手方は,申立人に対し,前項記載の行事に出席するために要した往復交通費のうち,2万円を,当該行事出席が実行された月の末日限り,申立人名義の口座に振り込む方法により支払う。ただし,申立人又は相手方の転居により,長男との面会にかかる交通費が現状と変わる場合や,相手方が失職するなど収入が得られない状況になった場合は,上記支払金額について別途協議し,協議が整った場合は,上記金額を変更し,協議中もしくは協議が整わなかった場合は,上記金額は従前のとおりとする。
12 前項に基づき,相手方が,申立人に対して支払う金員は,年間4万円を限度(以下「行事交通費年間限度額」という。)とする。ただし,第10項記載の行事のうち入学式及び卒業式の出席のために要した往復交通費については,行事交通費年間限度額に算入しない。
13 相手方は,申立人が,長男が通う又は将来通う予定の保育園・幼稚園・小学校等の教育機関に対して,申立人が長男の父親であることを伝え,申立人が,長男に関する事項に関して,当該教育機関に対して,必要に応じて,質問をし,要望を伝える等ができるよう,協力する。ただし,当該機関の方針により,上記協力が困難な場合はこの限りではない。
14 相手方は,申立人に対し,年2回程度に加え,第7項記載の面会交流が実現できなかった月に,長男の成長の過程を記録した写真又はビデオテープを送付すること及び同人から申立人に対して年賀状を送付させることを確約する。ただし,長男の成長の過程を記録した写真又はビデオテープの送付は,年12回までとする。
15 相手方は,申立人に対し,長男の成長に応じ,申立人,申立人の父■母■と長男とが相互に,電話,メール,郵便,ファックス等で節度を持って自由に交信することを認める。
16 相手方は,長男が,携帯電話を持つようになった場合,当該携帯電話番号及びメールアドレスを,申立人に連絡する。長男が,携帯電話の番号及びメールアドレスを変更した場合,相手方は,申立人に対し,速やかに,変更後の携帯電話の番号及びメールアドレスを連絡する。ただし,長男が18歳に達した日の属する月の翌月以降については,申立人が長男に対し,当該携帯電話番号及びメールアドレスを直接確認することとする。
17 相手方は,申立人に対し,申立人が長男へ,節度をもった範囲内で,プレゼントを贈ることを認める。
18(1)申立人及び相手方は,長男に対し,同人が互いの相手方に対して悪印象を抱くような言動を厳に慎む。また,申立人及び相手方は,長男が互いの相手方に対して悪印象を抱いてしまった場合,これを解消するよう最大限努力する。
(2)申立人及び相手方は,第三者が長男に対し互いの相手方に対して悪印象を抱くような言動をすることを見聞きした場合,申立人及び相手方は,第三者の言動を制止するよう努める。申立人及び相手方は,第三者の言動により,長男が,互いの相手方に対して悪印象を抱いてしまった場合,これを解消するよう最大限努力する。
19(1)相手方は,長男に対し,長男が面会交流を拒むように仕向ける言動を一切してはならず,申立人と長男との面会交流の実現に向けて,申立人と長男が良好な関係を保てるように積極的に協力する。
(2)申立人は,長男に対し,相手方と長男の良好な関係を損なうような言動を一切してはならず,相手方と長男との日常生活において,相手方と長男が良好な関係を保てるように積極的に協力する。
20 相手方は,申立人に対し,財産分与として,抵当権,質権,借地権その他申立人の完全な所有権の行使を妨げる相手方が債務者であることを前提とする負担(別紙物件目録2記載建物の賃借権を除く)のないものとして別紙物件目録記載の土地及び建物の相手方の2分の1の持分全部(以下「本件不動産」という。)を分与する。
21 相手方は,申立人に対し,第22項記載の金員の支払を受けるのと引換えに,本件不動産につき,抵当権,質権,借地権その他申立人の完全な所有権の行使を妨げる相手方を債務者とする一切の登記を抹消し,同項記載の金員の支払日を財産分与の日付とし,財産分与を原因とする仮登記の持分全部移転本登記手続をする。
22 申立人は,相手方に対し,財産分与として,前項記載の義務の履行と引換えに,相手方が平成19年5月29日■銀行から借り入れた借入金1210万円(平成23年7月1日現在の残債務額金994万3628円,以下「本件不動産ローン」という。)の支払日における残債務相当額を,平成23年8月末日限り,支払う。
23 相手方は,本日,申立人に対し,第20項及び第21項記載の財産分与を原因とする条件付持分全部移転の仮登記手続をする。
24 申立人は,本日現在の,相手方が負担する本件不動産ローンの残債務相当額の履行を引き受ける。ただし,申立人が,相手方に対し,第22項記載の本件不動産ローンの残債務相当額を,平成23年8月末日限り,支払ったとき又は弁済の提供をしたときは,この限りではない。
25 当事者双方は,本件不動産についての別紙抵当権目録記載の抵当権の抹消登記手続が行なえるよう,互いに協力することとする。
26 前6項の一連の手続に要する費用(不動産取得税,移転登記の登録免許税,抵当権抹消登記の登録免許税,各登記手続にかかる司法書士報酬,本件不動産ローンの銀行手数料約3万円等)については,全て相手方の負担とする。
27 申立人は,相手方に対し,本調停成立後速やかに,申立人口座に入金予定の別居以降,支給が止まっていた長男にかかる子供手当を,長男名義の口座に振り込む方法により支払う。
28 申立人は,相手方に対し,本調停成立後速やかに■保育園作成の長男のアルバム及びデジタルビデオカメラで撮影した同人の動画や写真のデータのコピーを依頼したときに預けた外付けハードディスク,長男の服一式,玩具(プラレールなど),長男の三輪車,乗用玩具(機関車トーマスのデザイン),ベビーカー(スポンジボブのデザイン),トルソー,こいのぼり,赤色アナログ目覚まし時計,ミッフィーのキャラクターの長男のプールバッグ,相手方の未開封の段ボール箱1箱(以下まとめて「引渡物件」という。)を引き渡す。申立人は,相手方に対し,引渡物件の破損,汚損等の瑕疵について,一切責任を負わない。上記引渡のために必要な費用は,相手方の負担とする。
29 当事者双方は,本件に関し,本条項に定めるほか何らの債権債務のないことを相互に確認し,今後名義のいかんを問わず互いに金銭その他の一切請求をしない。
以上