「常(つね)を超える」 “おわりに”

木材物理部門が50周年を迎えたが、私の研究所も今年で10周年の節目になる。齢73歳になったが、所期の目的である木材素材そのものの研究は尽きることがない。タケ材、オイルパーム材を加え広がるばかりである。木材素材そのものは総体として文化的素材であって文明的ではなさそうだ。この材料を生かすためには科学するだけでなく、工芸から建築、人の恒常性、自然環境、経済、政治に至るまであらゆる分野を統一的、根源的に究め、複雑系に対する新たな学問を構築しなければならない。幸いなことに、ここ三雲の地に3000坪の土地と250坪の建屋を得て、ささやかながら統一的、根源的な場を創生し、後進のために道を開いておこうと考えている。ここに示す飾り台は現代の物質文明の象徴的所産の一つである。誰が見ても無垢のシマ黒檀で作られた高価な工芸品と思われる仕事がされているが、実はMDFに木目印刷をしたシールを貼り付けたものである。手に取った重さまで本物に近い。実に涙ぐましい努力であるが、持ち主はごみとして捨てたものである。本物であれば大切にしていたであろう。この製品で分かるように、工業化が進み、多くの優れた機能を持つ規格品が溢れていても、生活環境の中で我々は木材から離れられないのである。文明的所産は所詮捨てられる運命にあるが、文化的所産は永遠に残されるであろう。山田先生が「木質環境の科学」の序章で述べておられることを何としても具現化することが弟子としての私の使命であり、「継続は力なり」をモットーに残りの人生、公を貫こうと考えている。
  地球環境全体を、地球上の全ての生命の調和を視座に置いた場合、常なる社会の常識は、実は非常識ではないかという疑念を持ち、勇猛果敢に挑戦してくれる若い人たちが出てきてくれることを願って止まない。
文責:野村隆哉

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