ヤクザ暗殺失敗

 ヤクザ事務所のエアコンを修理している。いや、修理するフリをして毒ガス装置を中に仕込んでいる。毒ガスは緩やかに散布され、気がついた時には吸引量が閾値を超えて呼吸不全で死亡する。

 自分の所属するグループはヤクザと対立している新興組織で、規模こそ小さいものの、既に街を裏から支配しつつある。地元ヤクザをしばらく動けなくすれば覇権を握れるだろうという事で、事務所ごと壊滅させる作戦に出たわけだ。グループ内で主に暗殺を担当している自分たちの出番である。

 毒ガス装置をセットし終わり、無線機で仲間に完了の合図を送る。数日前に室外機に細工をしてときおり調子が悪くなるようにしてある。これでエアコン業者として潜入しても疑われにくくなるし、何か聞かれても「エアコンの調子が悪いという事で呼ばれました」と言えばごまかせるという寸法。

 「修理終わりましたんで、片付けして室外機の様子を見てきますね~」と言って外に出ようとしたら「もう一つ見て欲しいやつがある」とヤクザに止められた。エアコンの修理技能はないので、何やかや理由をつけて外に出ようと考えていたら、怪しげな地下室へ連れて行かれ拘束されてしまった。

 どうやら潜入計画がバレていたらしい。これは拷問にでもかけられるかな……と思い、どこまでなら話しても問題ないかと考えていたらヤクザ達が拷問器具を持ってきた。最新の電動式の拷問器具ばかりでスタンガン、携帯ガロット、洋ナシなどなど。いずれも電動式になっていて、USB電源のようだった。

 「始めるか」と言ってヤクザの一人がスタンガンの電源をUSBコンセントに挿し込む。しかし電源ランプが点灯しない。


「おかしいな、おいヤス!つかねぇぞ!」
「あ、この電源はUSB2.0だからダメっすよアニキ」
「だったら使えるやつもってこいダボが」

 三下ヤクザが慌ててUSBコンセントを幾つか持ってきてつなぎ直すがやはりちゃんとランプがつかない。今度はケーブルに問題があるとか、安物コンセントだからダメだとか言ってもめている。ヤクザは電気機器に弱いからこういう最新の機械が扱えないのだ。やはり、この街の覇権を握るのは我々みたいな新興グループしかないなと確信した。

 そんな事をしているうちに上の方が騒がしくなって、ヤクザ達は出ていってしまった。無線機で連絡を取っていた仲間が助けに来てくれたのだ。怒号や銃声の後、暗殺部隊仲間が地下室に入って来た。

 「今助けてやるぞ」と言って、金具で拘束されている自分を助けるために仲間は電動ノコギリを取り出した。電源はやはりUSB。

「おかしいな、電ノコが動かないぞ?」
「その電源はUSB2.0だからダメだぞ」
「こっちはケーブルが古いやつだ」

 電ノコが動かずワタワタしていると、ヤクザの三下が現れて「ケーブルこれでイケないっすかね?」「USBコンバータとかいうの持ってきました」などと色々出してきて、拷問器具が動かなくて困っていたヤクザともども悩み始めてしまった。

 自分が直接試せばどれが正しい組み合わせかすぐ分かるのに……とやきもきしながらそれを眺めていた。


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