見出し画像

きまぐれカード紹介② 秘護精マニトゥス

エピローグ「その2」

 「……ここは……どこ……」

 目覚めるとそこは白い世界だった。少女は白い床に寝そべり白い天井を見つめていた。
 限りなく「無」に近いその部屋に、少女は1人きりだった。周囲から音は聞こえず、人のいる気配も無い。少女は少し不気味に、そして不思議に思った。私は何故ここに。どうして。

 少女はそっと身体を起こす。が、

 「……痛い?」

 上体を起こそうと床につけた手がジン、と痛んだ。少女の小さな手は赤く色づいている。何かを打ちつけられた様な、痛々しい痕。

 「これは……」

 何が少女を傷つけたのか。

 少女は思い出せなかった。そもそも、何故こんなところにいるのかも思い出せないのだ。

 「おや、お目覚めですか」

 突然、見知らぬ男の声が聞こえた。
 気配を感じ、本能的に横に振り向く。


 「うん、元気そうですね。何よりです」

 男は少女のすぐ隣に立っていた。いつ移動してきたのか、全くわからなかった。音もなかった。
 少女は怖かった。誰かに会えた、という喜びよりもまず恐怖心が打ち勝った。
 ずっと前からここにいたような佇まいのまま、微笑を浮かべて、男は少女に問いかける。

 「あなたは、誰ですか?」

 ……は?

 少女の思考が、一瞬止まる。

 「いや……それはこっちのセリフじゃ……」

 今度は恐怖心より違和感の方が上回った。

 「いえ、あっていますよ。これは私からあなたにするべきクエスチョンです」

 戸惑う少女。男はさらに問う。

 「それで、あなたは誰なんです?名前は?出身地は?」

 「わ、私は……」

 私?

 そういえば、

 「おや、答えられないのですか?」

 「しょ、初対面の人にペラペラと言うものでは」

 「答えられないのでしょう?」

 ピシャリ、と言う。
 図星だった。

 少女には記憶が無かった。何故ここにいるのか、は勿論、自分が何者なのか、についても何も思い出せなかった。

 あれ。

 私、

 わたし、

 ワタシ、

 私。


 「あなたは、誰ですか?」


 私、


 私は……















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?