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自分に自信がない人にこそ、読んでほしい本

丁度1年前の3月4日、2人の騎手がターフを去りました。
一人は現役の騎手で、今年から調教師として第二のスタートを切る福永祐一元騎手
そしてもう一人は、その父である福永洋一元騎手

福永祐一の引退式ではあったけど、とても大きな落馬負傷を負ってしまった福永洋一さんは
引退式をすることもなく40年以上が過ぎ、引退の日である3月4日に阪神競馬場にてやっと、ちゃんとした別れを遂げることができた。そんな意図もあったんじゃないかと思います。

国内最終騎乗セレモニー(2023.2.19 東京競馬場)

そして祐一さんの調教師としてのスタートである厩舎開業が押し迫った3月1日、福永祐一著の『俯瞰する力』が発売されました。
なんとか3月4日に読み終えることができたので、少しばかり内容に触れる部分もありますが、ご紹介と感想を述べさせていただければと思います。


鳶が鷹を生むどころか...

天才の息子は天才ではなかった。
この本は一言で言うと、そう周りから思われていた祐一さんが目指した到達点までの胸中を語った自叙伝になります。
父、洋一さんが天才と呼ばれ、その息子も当然その才を受け継いでいるだろう。そういう期待の目を向けらデビューした祐一さん。その時どう感じ、どうすれば「なんだ大したことない」と思われずに結果を残してきた過程が語られています。
そんな具合に、各章を読み進める毎に当時の自分を振り返り、なるべく”第三者視点で自分はどうだった”を語られています。
自分のことでありながら、視線は誰かや馬に向きっぱなしでもなく語られている様はまさに「自分を俯瞰」して書いたのだと、読み終わるころにはそう思える内容でした。
個人としては・・・ですが、「第2章 岩田康誠」は見た目のインパクトもありますが「花の12期生」の名前より大きく出してきただけの内容でもありました。


思ってたほど”あの名前”は出てこない。

ここからは少し気になってくるポイントをいくつか語られていただければと思います。
福永祐一と言えば、騎乗馬やレースを除いて調教師、関係の深い騎手など思い浮かぶ人名が多いと思います。
なかでもやっぱり「川田将雅」騎手はいい先輩と後輩、師匠と弟子。
そういう関係なのだと思う様を何度も見てきました。
・・・が、実際読み進めていくと、230ページくらいのボリュームすが、案外とべったり語られるほどでもなかった感覚です。(もちろん、要所要所に出てきます)
恩師や諸先輩の中では埋もれてしまうのは仕方ないものの、行間に「堅っ苦しい文章で書くのなんか恥ずかしいやん?もっともらしいこと書いたらめちゃくちゃネタにしてくるし。そういうのは対談動画見てくれたほうがわかるやろ」が随所に書いてあるような気にもなるのが”らしいな”と、読み終えて思えますね。


やはり特別な馬・・・だからこそ。

福永祐一で思い浮かぶ馬と言えば?と聞かれたら三冠馬コントレイル(前田晋二/矢作厩舎)、日米オークスを制したシーザリオ(キャロットファーム/角居(勝)厩舎)に始まって、ダービー馬のワグネリアン(金子真人HD/矢作厩舎)、シャフリヤール(サンデーRC/藤原厩舎)が真っ先に上がってくるでしょう。
そこはもう成績や記憶に新しい馬名だからある意味では出てくるのは自然だと思います。
しかし、本のテーマである「天才ではない自分」を語るには、長年かかってダービーを勝利したことは大きなトピックになります。その初戦を走り、初のダービー出走では散々な結果となったキングヘイロー(浅川吉男/坂口厩舎)の存在は大きかった。
この馬も「血統として期待されている」境遇も近い存在であり、不思議な縁で出会うべくしてであったのかもしれません。
G1制覇こそ別の騎手が成したものの馬主さんに恩返しをしたかったというのが力強く書かれていますが、今後厩舎にその血が入った馬が預けられるとも聞きます。
近年の「母父キングヘイロー」の響きは耳によく残っているかと思います。きっと、名を残してくれることでしょう。


『俯瞰する力』が結んだ結果

本を読み終えると、騎手:福永祐一の人の歩みとともに、”こういう人なんだ”が見えるかと思います。
「理屈っぽい人の文章だなぁ」と思いながらも、その理屈を組み立上げるにはやっぱり俯瞰することが必要なんだと改めて思えました。
多くの人は一歩後ろから見ることの重要性。それは理解しているけど、いざやってみるとなるとどこかで主観的になってしまったり、肝心なところで一歩引きすぎたところに立っていたり。
そういうことが多いと思います。

天才が開花した天皇賞秋 2022.10.30 東京競馬場


しかし、祐一さんの騎手としての”終活”が始まっていた近年の結果を振り返ってみると、一つの目標であったダービーを勝利し、三冠の栄誉を得た後にあたのは香港スプリントでの落馬負傷。
その頃から調教師への鞍替えを考えていたとされますが、そこから復帰した2022年はどうだったか。

最後にG1(※)を制したのはジオグリフ(サンデーRC/木村厩舎)に騎乗した2022年の皐月賞で。
のちに世界最強となったイクイノックス(シルクレーシング/木村厩舎)、ダービー馬となり、2023年の有馬記念を制したドウデュース(キーファーズ/友道厩舎)を、2,3着に抑えての勝利でした。
そして、最後の最後まで勝利することができなかった有馬記念でも、その実力を発揮したイクイノックスが悠々と先着するも、ボルドグフーシュ(社台RH/宮本厩舎)に騎乗し、名立たる名馬を退け上がり最速で2着まで追い詰める結果。
改めて考えると、これだけの馬と騎手を相手に難しいことをやり遂げられたのは、

騎手としてできること。

天才ではない自分にできること。

それらを俯瞰して何をどうするかを組み立てることができた結果なんだと思います。

※Jpn1を除く中央成績として


やっぱりあの人はヤバい

各章では27年の騎手生活の中で、いろんな人との関係性がわかる内容になっていますが、改めてあの人はすごいというか、今なおそこに立ち、先へ進んでいられるのかが分かった気がします。
敢えて名前を出さなくてもの事かわかると思います。
何がどう凄いのか、それは読むと背筋に来るものがあると思いますよ・・・


最後に・・・

タイトルにある通り、この本は「自分に自信がない人」ほど、読むことで「そうか、それでいいんだ」が出てくると思います。

どちらかと言えば成功することがうれしいし、力になるのはわかってる。
でも、本に書いてある通りじゃ「なんかこれじゃないよなー」ってなります。
それは自己分析をある程度してきたからで、無理したらそのピースははまるかもしれないけど、
それってどうなの?が想像できるからだったりします。

そういう人なので、
自分はそんなすごい人じゃないよ。だけどこうして生きてきて、自分が達成したいこともできたし、これからやりたいこともできた
だからこう考えてみるのはどう?もちろん、それには要所要所でちゃんと自己分析できてないとダメだけどね」と諭されているような心地でした。

最近はとにかく「成功体験」に重きを置いた自己啓発本がよくあります。
そもそも「うまくいきたい」と思って手に取る人であれば、行動に対するアプローチ集みたいなものだと思います。
だから「こうやってみよう」につなげて行動できて、結果として達成のレベルはともかく、「結果として成功」が得られると思います。

他方でその本は「うまくいかないなー」という人に勧めてもあまり効果がなく、しぶしぶ書いてあるようにやってみたけど、成功の実感はなかったり、そもそもうまくいかない。
・・・なんてことも多いでしょう。
そういう人にこそ、刺さると思います。
先日、重版も決まったようですから是非、手に取ってみてはどうでしょうか?

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