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このままだとK-POPは危ない。ミン・ヒジン事件で明らかになったリスク

ADORのミン·ヒジン代表の記者会見が韓国全国民の関心事となり、記者会見で言及された内容も話題になりました。 中でもランダムフォトカード(アルバムに特典フォトがランダムに同封されており、リピート購入を促す施策)、レコード押し出し(発売一週間の初動販売量を膨らませるために流通会社や海外子会社へ大量注文を入れる不当行為)、ファンサイン会などに対する指摘はファンコミュニティにおいて大きな共感を得ました。
ファンだけでなく、業界内にもこうした問題を深刻に考えている人がいます。 しかし、代案は簡単ではありません。 私は今「アルバムの販売方式こそK-POPの潜在的な危機だ」と考えています。

(2:05)「ランダムカード、押し出しとかしないでほしいです、どうか」


⏮️ 一人のK-POPファンはアルバムを何枚買うのだろうか?

アルバム販売量は今でもK-POP産業の代表的な指標として使われる。 初動販売量から累積販売量など。 K-POPだけに該当するわけではない。 20世紀の音楽的成果はアルバム販売量と同じ意味だった。wikipediaでアーティスト名を検索すれば、まずアルバム販売量が優先的に出てくる。 しかし、21世紀のアーティストの価値は? 全く違う。 基本的にアルバムが売れない時代だからだ。

しかし、K-POPにおいてはアルバム販売量が毎年最高値を記録している。 2023年のK-POPアルバムの販売量は1億1600万枚に迫り、歴代最高値を記録した。 2024年1月のアルバム販売量は約560万枚で昨年に比べて低くなったが、これについてサークルチャートのキム·ジヌ首席研究委員は部分的なイシューだと分析する。

「昨年あった初年度販売量の競争激化が持続しにくい点を考慮すれば、予定されたイシューと思われます。 ただ、こうした現象をK-POP市場全体に適用するのは、現時点でやや無理があるものと判断します。 不安定だった中国向けアルバムの輸出量(関税庁基準)が、昨年11月から1月までの3カ月間、着実に回復していることも参考にする必要がありそうです」

サークルチャートキム·ジヌチーフ研究委員


サークルチャート 2024年1月レポート(画像リンク)

それにもかかわらず、K-POPアルバムの販売量はファンのリピート購入によって達成される場合が多い。 2023年3月、韓国消費者院はファンダムマーケティング消費者実態調査を通じてファンがどのようにアルバムを購入するのかを調査した。

2021~2022年の間に発売された主要K-POPアルバム50種に関連し実施された調査では、回答者500人中52.7%が「フォトカードなどグッズ収集のためにアルバムを購入した場合がある」と答えた。 「ランダムグッズを手に入れるための購入経験は194人で、同じアルバムを購入した数量は平均4.1個」だった。 ファンサイン会など「イベント応募を目的にアルバムを購入したケースは102人で、平均6.7個を購入した」ことが分かった。


韓国消費者院「ファンダムマーケティング消費者実態調査」(2023.03)

しかし、CD自体を通じた音楽鑑賞は5.7%に過ぎず、83.3%が音源や動画ストリーミングで音楽を聞くと答えた。 ファンダムマーケティングと関連して改善しなければならない事項として、15.2%が「グッズのランダム支給方式」を挙げ、67.8%が「環境に否定的な影響を及ぼす」と答えた。
アルバム販売量に依存する産業の成長が限界に達していると言っても過言ではないだろう。


⏭️ モルガン·スタンレー: K-POPの潜在性(2024.03)

一方、2024年3月、モルガンスタンレーは「K-Pop:Time to Turn on the Music Again」という分析レポートを公開した。 核心はK-POPの潜在性が高いという分析だ。 要約本は先月、モルガンスタンレーのホームページに公開された。

「現在、K-POPは米国のレコード産業で占める割合が約3%に過ぎず、収益はラテンとカントリージャンルの半分にも及びません。 したがって、最大1300億ドル規模のグローバル音楽産業でK-POPが成長するための旅路はまだ多く残っています。「このような挑戦に照らしてみると、K-POPは新しいアーティスト、より高いストリーミング収益、既存アーティストのより多くのコンサートを通じて持続的な成長潜在力を見せる必要があります。 アルバムの販売、ビルボードチャートの成績、コンサートチケットに対する高い需要などがK-POPの次の段階で重要な役割を果たすでしょう」

「K-Pop:Time to Turn on the Music Again」

⏭️ ゴールドマンサックス: アルバムの販売量は純粋な指標と言えない (2024.04)

ゴールドマンサックスもK-POPの成長性を肯定的に評価した。 しかし、内容の細部に違いがある。 アルバム販売量を指標にするのは難しいという意見だ。

ゴールドマンサックスのアナリストたちは「私たちはアルバム中心の考え方に異議を提起し、代わりにオフラインコンサートの観客数こそKポップの成長勢を測定できるより良い指標だと考える」とした。

また彼らは「K-POPファンダム内では頻繁に一人のファンが数枚のアルバムを購入するため、アルバム販売量データが純粋と言えない可能性が高く、パンデミック期間中のオフラインコミュニケーション不足によってアルバム販売量が急増し、指標が歪曲された」と話した。

オフラインコンサート観客数を基準に評価する時、K-POPはより速いスピードで成長しているが、短期的には「日本での観客増加が主要な成長動力になるだろう」と明らかにした。 ゴールドマンサックスは日本のK-POPコンサート観客が2023年から2026年まで年平均24%の成長率を記録すると予想し、HYBE、JYP、SMの各事務所の合算占有率は2倍(7%→14%)に増えると予想した。

👉 Financial Times "Are we at peak K-pop? Goldman doesn’t think so."

👉 CNBC "K-pop stocks have sold off this year, but Goldman sees a turnaround"


⏮️ K-POPアルバムがより多く売れる理由

韓国は2002年以後、アルバム販売量が急速に減少した。
超高速インターネットインフラやソリバダ、ナップスターのようなP2Pサービスの流行の影響だ。 しかし、2004年当時、ソ・テジと東方神起のアルバム販売量をきっかけに「ファンダムがアルバム販売量を支える」という認識が強くなった。 そのため、2010年頃までアルバムにフォトカードが同封されたり、フォトブックの形で発売されるトライアルが多く行われた。 問題は、このような検証がますます慣習化され、ファンダムの購買力を上昇させる、すなわち「ファンダムから搾り取る」方式に転換されたということにある。 アルバム購入の領収証でファンサイン会やイベントの抽選を行うのが代表的だ。

一方、米国のアルバム販売市場は、2008年にiTunesが音源流通を支配したことで下落した。 韓国と違い、米国のアーティストはデジタル音源で発売することのない独占音源を提供したり、レコードやカセットテープなどアルバムのフォーマットを変えるやり方で危機を突破しようとした。 しかし、大きな成果はなかった。
むしろテイラー・スウィフトのように、アルバムにフォトカードを入れたり、カバー写真を多様なバージョンで発売する方式が成功した。 まさに韓国で2004年に行われた実験が、米国では2010年以降に行われたわけだ。 米国の音楽産業がK-POPのアルバム販売量を驚くほど見ている理由だ。

問題はアルバムの販売量ではなく、アルバムを販売する方式だ。 2024年現在、アルバムを購入するということは音楽を聴くという行為ではなく、グッズを所蔵し、アーティストを後援するという意味を持つ。 この行為はファンの心と愛情に基づいている。 しかし、イベント参加のための大量購買は、この心を悪用する行為と言える。 多くの関係者さえ批判的に考える深刻な問題ではあったが、内部として公式に言及することが難しかった問題でもある。

にもかかわらず、このような質問が浮かぶ。 K-POP産業でファンの存在は果たして何なのだろうか。


🔀 問題はアルバムの売り方だ。

「アルバム押し出し」は企画会社がアルバム販売先にあらかじめ決められた物量を供給すれば、販売先ではその物量を払い落とすためにファンサイン会のようなイベントを進行する方式だ。 あるK-POPグループのファンサイン会費用が少なくとも5億ウォン(約5700万円)なら、アルバム販売先は同グループのアルバムを5億ウォン分購入した後、ファンサイン会の抽選でソールドストさせざるを得ない。

押し出しはアーティストの人気度によっても異なる。 あるグループは、デビューしてから数年間ファンサイン会だけを回り、ファンは同じアルバムを繰り返し購入しながらファンサイン会に行く。 新曲もなくコンサートもなく、ひたすらファンサイン会のようなイベントだけを進めながら活動を維持するのだ。 ファンの立場からすれば「自分たちは"生きるATM"なのでは」という不満が生じざるを得ない。

押し出しは発売初週の販売台数、すなわち初動販売台数のためにも重要である。 このように集計された初動販売量は記事化され、影響力を誇示する指標となるからだ。 このような構造でファンダムは不本意ながらアルバム販売量競争に積極的に参加せざるをえない立場になる。

ミン・ヒジン代表は「子供たちが死ぬかと思ってまた買って、また行って…」という表現を使ったが、この発言はファンダムに対する理解度がない人にはわかりにくいこともありうる。
アルバム販売量が記事になれば、アーティスト間の競争指標のように使われる。 初動販売量はアーティストの影響力とファンダムの火力を証明するのに最も直接的で簡単に得られるデータだ。しかし、ファンダムは基本的に競争を楽しむためにあるものではない。 むしろ競争構造から抜け出し、自分が好きなアーティストをずっと好きでいるためにある。 しかし、ファンダム外部は競争を煽る。 競争が激しければ激しくなるほど、利益が増えるからだ。


⏭️ 供給者が変わらなければならない

このような状況を脱する代案があるだろうか?
最も簡単な方法は「初動販売量の集計を止める」ことだ。 企画会社が初動販売量の報道資料を中断すれば、マスコミがそれを取り扱うこともなくなる。 そうなれば、累積販売量とコンサート指標がさらに重要になってくる。 これは初めての事例でもない。 むしろ音楽市場の本来の価値を測定する指標として累積データの価値が回復されなければならない。 簡単に言えば、アーティストの影響力を測定するのに、新しいアルバムの一時販売量ではなく、過去に発売した音源とアルバムの販売指標が重要にならなければならないという話だ。 音楽でもロングテールの法則が適用される。

容易なことではない。 しかし、だからといって現状のファンダムマーケティングを擁護することはできない。
ゴールドマンサックスの分析は、K-POPの慣行が資本市場でも否定的に作動する可能性があることを示している。 言い換えれば、K-POPの成果は、単にアルバム販売量に収束するのではなく、より文化的なものを目指すべきだ。 「トレンドを作ってインスピレーションを与えコミュニティを構成すること」がさらに重要になってくる。 これこそクリエイティブの領域である。
ゴールドマンサックスだけでなく、韓国消費者院のアンケートとファンダムの意見はまさにこの点を強調する。 音楽は常にクリエイティブを資源として働く産業であるべきだと。

この問題は享受者でなく供給者の問題だ。 特に「アルバム押し出し」のような問題は、供給者が市場を基準以上に撹乱させ、ファンに疲労感を募らせて市場から離脱させてしまう。 K-POPの潜在的な脅威は、K-POPビジネスの外側ではなく内側にある。 特に、K-POPの市場が北米と欧州に拡張される段階で、我々はK-POPの成長性に対する質問を変える必要がある。

K-POPビジネスの問題は大概「どのように安定的市場性を確保するのか」ということで終始してきた。 しかし今こそ「K-POPはどのようにして自らのクリエイティビティを証明できるのか」という問いこそが必要だ。 両者は同じ文脈の問いと言えるが、どの部分に着目するかによって問題解決の優先順位と意思決定が大きく変わってくるのではないだろうか。

翻訳:COLORVERSE JAPAN Inc.


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