(創作)天気次第、雨なら中止


天気次第、雨なら中止  くろだたけし


われわれと名乗る誰かに顔がない皆前を向く記念の写真

われわれの中にわたしはいたのでしょうか。どうにも実感がわかないのですが、証拠の写真を突きつけられては、認めないわけにはいきません。われわれがやったのでしょう。いえ、わたしではなく、われわれです。それ以上のことは、認めようがないではありませんか。

われわれは存在しているわれわれはノイズのように存在している

古い集合写真の中にわたしが見つからないんです。なのにずっと持っていたんです。ずっと前から持っていたんです。わたしだけじゃありません。ここに写っている誰も見つからないんです。いったいここに写っている人たちは誰なんでしょう。集合写真だけがあるんです。

紅白帽半袖のシャツ短パンで集合写真に写るわれわれ

録音はしてあったのですが、なにしろ古いものですから、雑音だらけで、まるで雨の中にいるみたいでしょ。いや、あの日はいい天気でしたよ。だって、遠足に行ったんですから、雨のわけがないでしょう。写真だって白黒でしょ。古いんです。古いからみんな雨の日みたいに見えるんですよ。ほんとは、いい天気だったはずです。いい天気だったはずなんです。

雨の日は芝生しかない星ならばとても静かに過ぎるのでしょう

雨の音、ほかはみんな雑音。雨の音、雨の音、雨の音、いつのまにか、それもまた雑音。雑音じゃない音が聞こえない。雑音しか聞こえない。雨の音、雨の音、雨の音。

明け方の雨に中止を待ちながら星の軌跡は遥かな楕円

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