(創作)矢印
※この作品は「第6回詩歌トライアスロン」(2020年)に応募し、選外佳作だったものです。
矢印 くろだたけし
矢印は私の先を行く。私は矢印の後を追う。矢印の先には矢印、扉をくぐれば矢印、矢印は何も伝えない。矢印は、こちらから、あちらへ、それだけ。
その先は誰も知らないはずなのに誰か背中を押してくるんだ
矢印を誰かが置く。命令、誘惑、視線、指切り、矢印だけ残して、隠れる。扉の向こうに消える。矢印の先、なんて言うか決めてないのに、ノックノック、扉。
扉から先は見えない隠されているのはそちらそれともこちら
扉をくぐれば、道。家は道に沿って並ぶ。最初に道を作った誰か、そして矢印を置いた誰か。矢印の先はどこかへ。矢印を置いた誰かが、来てほしいと願う場所へ。その誰かはもう待ってはいない。待つ気はない。
古くもない新しくもない家家のあいだの道は古くから道
目の前の矢印に逆らうと、そっちにも別の矢印。道があれば、矢印が、手当たり次第に。矢印に従うとか、矢印に逆らうとか、無意味、無意味。人より矢印の方がたくさんある。たくさん。矢印には逆らえない、矢印には従えない。矢印がたくさん。
十字路を斜めに渡る真ん中ですべての矢印が突き刺さる
すべての矢印の始まる場所が、どこかにあったらいいですね。きっとそこは、今はもう、誰もいない、静かな場所で。そこからは、どこへでも行けるから、どこへも行かない。論理的にではなく、倫理的にではなく、私の気持ち的に。もういいやって、言っても許す、許される、はず。
目が覚めてそのまま雨の音を聞くどこかにあった始まりの場所
すべての矢印の始まりの一点に収束する。
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