【BSプレミアム】『ドキュメント「シン・仮面ライダー」 ~ヒーローアクション挑戦の舞台裏~』視聴感想:胃痛のするメイキング

NHKオンデマンド | ドキュメント「シン・仮面ライダー」 ~ヒーローアクション挑戦の舞台裏~ (nhk-ondemand.jp)
○購入期限は来年、2024年3月28日まで。月額会員じゃなくても220円で単品購入(視聴期限は購入から72時間のレンタル形式)できます。


○前置き:映画のメイキングやドキュメンタリーが好き

 先月末に公開された映画『シン・仮面ライダー』のメイキングたる制作ドキュメント。NHKのBSプレミアムで先日放送されていたものを見ました。

 私はアメコミ映画の特典映像のメイキングが大好きで、なぜそのような形になったのか、なぜそのように作られたのかというのを見るのが大好きです。
 ドキュメンタリーといえば、『YOUは何しに日本へ?』も大好きで初回からずっと見ています。放送開始当時、いろんな人がいろんな想いを抱えて日本へ来て旅や旅行をしているんだなぁと、見ていてとても励まされていました。私は人の心の動きを見るのが好きなのかもしれません。

 シン・仮面ラダーに関しては製作の過程、どのような想いで演じていたのか、どのような想いで作られたのか。何が見れるんだろうかと、興味がありました。


○覚悟をして見始めたドキュメンタリー

 シン・ゴジラ、シン・ウルトラマンでおなじみの庵野監督といえば…。シン・ゴジラの時に撮影現場の空気が非常にピリピリしていたと聞いていました。なので今回は、このドキュメンタリーは、ワクワクよりも緊張が勝った気持ちで覚悟をしながら見始めました。
 映画のメイキングを緊張しながら見たのはこれが初めてです。少なくともシン・ゴジラのメイキング映像は、穏やかな場面だけを揃えていたような記憶…。

 そして見始めたら…。


○ピリついてるという表現が生ぬるいくらいに殺気立った現場と関係者たち

 初っ端から俳優陣、そして様々なスタッフ、関係者たちの空気がやばい。もし自分がここにいたら胃が潰れていると思います。
 シン・仮面ライダーが、今までのシン(SJHU)作品と違って庵野監督が単独で監督された作品だと聞いて驚いた思い出。なので、今回は樋口監督がいなくて大丈夫だったのかな? と思ってました。
 やっぱり大丈夫じゃなかった。大丈夫じゃなかった……w


○庵野監督が求めていたものとは…?

 本郷猛役の池松壮亮(いけまつそうすけ)さんが「どうせ撮り直しでしょ?」と心からうんざりしたトーンで吐き捨てていましたが……。これを聞いた直後は、正直、俳優としてどうなのと思っていたけど、いやこれは仕方ないわ……と心の底から同情しました。表情からもう心底疲労しているのが伝わってくる……。

 庵野監督を見ていて思ったのが、殺陣にストーリーを求めているということ。そのストーリーというのは、ただ演技として戦いを演じるのではなく、明確な段取りの中でのアクシデントだったり粗なんでしょうね。
 最終的に「段取りはいらない!」と激怒していましたが、さすがにそりゃないぜぇ~……とは思いましたw

 中盤で「段取りにしか見えない。そうじゃない」と庵野監督にダメだしされたアクション監督の目が恐ろしいことになっていましたね……。下手したら事件が起きるんじゃないかってくらいのやるせなさと憤りが目から伝わってきました。
 SHOCKERの下級構成員は、仮面をかぶっているので演者の表情が見えないから、どんなに歯を食いしばっていても気迫を出していてもそれが見えないのは仕方ないことなんだとアクション監督が言っていました。いやマジで庵野監督の無茶ぶりが過ぎる……。

 アクション監督が心底投げやり自暴自棄になる姿を初めて見ました。仮面ライダーで聞いたことあることといえば、ギャレンのジャックフォームの銃剣の「これどうすればいいんだよ? 刺して撃つのか?」みたいな反応だったと思います。

 そして本郷猛役の池松壮亮さんがずっと顔面蒼白という……。顔色良かったのほんと衣装合わせ? の時だけじゃん……。本郷猛のあの表情と顔色は演技でもメイクでもなかったんだな……。
 そしてそして、全く使ってないカットの数々。唐突に思いつきで日没が近づいた中で急遽始まる全く予定になかったシーンの撮影。ありえん!!! いかに平成ライダーが瞬瞬必生だったとはいえ、これはさすがにありえん!!!!w
 そしてそれがOKという。みんな段取りで決められたこととは間違ってるのに、庵野監督が求めていたところは底だったんですね。必死さってそういう……。

 マジでディレクターズカット版出たら何時間の作品になるんだ……? これだけでドラマ作れるんじゃないか……?w

 監督が求めていたのは、約束組手じゃなくて”組手”だったんだなと思いました。

 もう見てるだけでずっと疲れるw 見てるだけで疲れる映画のメイキングはこれが初めてでした。緊張感、緊迫感がやばい。もし自分が仕事でそこにいるんだとしても絶対にいたくないw
 ここは職場か……? いや、彼らの職場だ……。


○庵野監督が作りたかったものはドキュメンタリー?

 ドキュメントを見ていて思ったのは、庵野監督が作りたかったのは『仮面ライダーというヒーローたちのドキュメンタリー』だったんだなと思いました。

 ただまあ、アクション監督が悩んで組み立てた、考えた筋立てを要らないというのはアウトだと思います。だったら最初からアクション監督という立場を用意しなければいいわけだから。そういう意味では良くないと思います。これを”こだわりだから”で終わらせたら良くないんじゃないかと。
 だってアクション監督の仕事は、かっこいい見せ方を考えて、なおかつ役者がケガをしないような作り方をしないといけないことだろうから。


 突然の自分語りになりますが。私も日々、上司に対して、高率だなんだ言ってるのにどうして効率を悪くするような指示や采配しかしないのかと毎日心の中でキレ散らかしています。ただ、このドキュメントを見ていたら、そうは言っていられなくなってしまいました。それが必要なことだったんだなと。
 いやまあ理不尽だしひどい点は9割だしだけど、でも言い分が全く納得できないわけじゃないという点もあるのは重々承知だから。まあ、それはそれとしてそれを鑑みてもひどいんですがw

 でも、シン・仮面ライダーに携わった方々を見ていたら、もっと私も頑張らないとなと思いました。


 最後まで通して見て思ったことは、庵野監督にも頭の中には筋立てがあった。けど庵野監督自身にも、どうすれば最適解になるのかがわかっていなかった。だからこそみんなが悩んでしまった。リアルを追求し続けた結果。しかし、これは良いことだとは言えないよなぁと思いました。具体的な指示を出さずにフワフワしたことを言うのは上司として良くないw

 最後の最後の戦いが泥臭さを追求したというのは、それをしないと「激怒した理由は、観客にウソだと思われるから、心に響かないから。だからやっている意味がなくなるから。だったらここでやめて良い。」という言葉。その”そうじゃないと嘘だと思われる”というのはめちゃくちゃ伝わってきました。
 だって私は、映画館でここを見た時「ものすごく泥臭い戦いでめちゃくちゃ良い!」と心に響いたのだから。だから、それは間違いじゃなかったと思います。

 私も一視聴者として、もし仮面ライダーなどの等身大のヒーローで格闘シーンを撮るとしたら、その時に、『段取りなしで(もちろんふんわりと決めるのはアリだとして)、ぶっつけ本番でやったものを見てみたい、やってみたい』と思ったことはありました。空手やってた身としては、多少当たっても仕方ない、なんなら思いっきり当てても良いのでは?(もちろん、怪我しない程度に合意の上で)と思ったことはあります。
 でも、それじゃぁいけないということがよくわかりました。

 しかし、この場面にここまでの苦労があったとは…。アクション監督が指示を出さずに役者3人で考えることになっていたとは誰が想像できただろうか……。さすがにあれは逆ギレでは……?w いや、やりたかった庵野監督の気持ちはとてもわかりますが……。そりゃアクション監督をはじめとした皆が「もう知らねーよ! もう台本捨てて帰るわ!」って気持ちにもなりますよね……w

 庵野監督が言っていた「アニメでやる意味と実写でやる意味」。自分の考えを押し付けるだけならアニメでやればいい。実写は自分の考えを押し付けるものではないから自分からは指示は出さない。
 言いたいことはすごくわかるけど……。自分から東映のPに企画を持ち込んで始まったわけだからなぁ……。やらせてもらったんだから、最後まで監督として責任を持って指示を出すべきだったんじゃないかなと。

 このドキュメントを見た後に思うのは、あれだけ様々な素材を集めておいてあの程度の作品になったのか、ということ。ストーリーはもちろん、演出もバトルもめちゃくちゃ良かったとは思うけど、あれだけ散々周りに迷惑かけて公開日の1ヶ月前まで撮影するという膨大な時間もかけたのに、あのクオリティ(特にCGバトル)なのはどうなんだろうということ。そこまでやってたんだったら、もうちょっとできたのでは? と思う場面もあったなぁ、と。だって群生相との通常バトルも見たいと思ってしまったから。
 カットされてた場面もたくさんあったので、映画としてまとめるのに必要なものを絞った結果の作品ということなんだろうなと。
 それなのに映画として、ストーリーがしっかり纏まってるのがすごい……(うろ覚えなので見返したら気になる部分も出てくるかもしれないけども)。


○見方が変わるドキュメント

 マジでドキュメントを見るとシン・仮面ライダーという作品の見方も庵野監督に対する見方もだいぶ変わってきますね……。終始ドン引きしながら見ていました。もしかしたら、映像ソフトが出た時に見返しても、純粋に楽しむことができなくなってるかもしれない。
 仮面ライダーアマゾンズ シーズン2の千翼の俳優さんがトラウマでイベントの時に「作品を見ることができない」と言っていた気持ちが分かったような気がします。

 シン・仮面ライダーが配信などで見返せる日が来たとき、私はまた楽しんでみることができるんだろうか。どのような気持ちで見て、どのように見方が変わるのだろうか、あるいは変わらないのだろうか……。

 それはそれとしてシン・ゴジラを初めて見た時、「こんなのゴジラじゃねぇ!」と1、2週間キレてた期間がありました。でも不思議とすぐにその気持ちが治ったんですよね。その後シン・ゴジラLOVEになったという。
 今回は映画の作り方に対する「これは如何なものか?」という気持ちで、お出しされた作品そのものに対する感想ではないのでまた違いますが……。
 なのでシン・仮面ライダーという作品自体は好きです。



○追記:シン作品視聴後によく見る解説動画 ドキュメンタリー篇

○おまけの夜さんの『炎上!?NHKシン・仮面ライダードキュメンタリーについて徹底考察します』

 私はシン・仮面ライダーという作品は大好きですが、このドキュメンタリーを見たことで、少し印象がネガティブな方向に傾いてしまったのはあります。それでもシン・仮面ライダーは好きなことに変わりはありません。

 おまけの夜さんの解説で、なぜあのような形になったのかだいぶしっくりきました。なので、そのネガティブな方向の気持ちも少しは修正できそうです。

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