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ディープの死に思う

ディープインパクトが亡くなってから早2年が経過した。ディープが亡くなった当時、有名な芸能人を筆頭に全国の競馬ファンは途方もない悲しみにくれていた。わたしもディープの死という事実と、その死に至る経緯に関して、呆然としてしまった部分がなかった訳ではないが、悲しいという感情はほとんどわいてこなかった。

ただ、これに関して一番気になったのは、嫁がどのような行動に出るかだった。嫁が、そしてわたしが、競馬にのめり込むきっかけになったのは間違いなくディープインパクトだった。ディープインパクトが欧州の最高峰レースである凱旋門賞に挑む、それも十分に勝算があるということで、テレビなどで報道されたことが、嫁がディープを、そして競馬を知るきっかけとなった。

わたしは結婚前からも、結婚してからも、そして、浮気が発覚する前からも、家庭においては常に嫁ファーストを心掛けてきた。嫁がこの化粧品が欲しいと言えば、デパートに行って代わりに買ってきてあげたし、嫁がスラムダンクからバスケにはまったときは、一緒になってNBAに熱中した。ニューヨークに現地観戦もしに行った。実際に、面白い物事を見つけてくる能力は非常に高く、凡人の自分には思いもよらない発想をするので、わたしも嫌々ではなく楽しめることがほとんどだった。

ディープに関しても、嫁の傾倒ぶりはすごかった。ディープが引退した後、種牡馬としての活躍を始める前に、社台スタリオンステーションによる新種牡馬展示会というのが、北海道千歳のノーザンホースパークで開催された。たしか2月中旬だったと思う。嫁はこれを聞きつけると絶対に行くと言い出した。2月というのは自分の業務の中でも最も忙しい月である。日曜すら休めない状態のわたしに、種牡馬展示会に連れて行けという。でも、自分一人では行かない、一緒に行ってくれないと困ると駄々をこねた。根負けして、日帰りで北海道に行き、夜に東京に戻ってきた足で職場にも顔を出した記憶がある。

これ以外にも夏休みを利用してディープに会いに社台スタリオンステーションを訪ねに行ったことがあった。北海道に行くのに有名な観光地に行く訳でもなく、ただただディープインパクトに会うためだけの旅行。しかし、わたしはどんなにコストパフォーマンスが悪いことであろうと、嫁のやりたいことを優先させる。それがトータルでみると自分にはプラスであることが分かっているからだ。

嫁にとってディープインパクトは、遠く離れているけれども、自分が飼っている馬であるというような気持ちを持っていたのだろう。ディープが亡くなった日の夜、帰宅すると嫁は大泣きしていた。そして、ディープを偲ぶと言って、ディープの栄光を讃えるべく作られたDVDを見ると言い出した。わたしはその日は早朝からの出勤に加え、夏風邪で体調も悪く、とても最後まで見る気力・体力はなかった。しかし、そこは嫁が言うなら仕方がなかった。わたしもディープが好きだったし、追悼する気持ちがない訳ではなかった。しかし、嫁とは気持ちの強さが違いすぎた。わたしは途中で何度も何度も寝落ちしてしまい、その度に嫁から冷たい目で見られることになった。

わたしは、この日記で嫁の悪口を言うつもりは毛頭ない。わたしが思うのは、客観的に見て、わたしはものすごくよく出来た恐妻家ではないだろうかということだ。果たして他の男性にわたしと同じ役回りが務まるだろうか。なんとなく自慢めいてしまったが、決して自慢ではない。そして、もう一つ思ったことは、わたしは嫁に比べると物事に対する情がものすごく薄いのではないかということだった。わたしは今後嫁の死に直面したとしても、同じように眠りを優先してしまうのではないか、そんなことを思う夜だった。

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