見出し画像

Siip-彼が観てきた世界と現代への警句-

平易な表現を使えば、タロットカードに注目したSiipの考察記事だ。

一年前に考えついたSiipに対するこの見方は、おそらくまだ誰も気づいていない考察を多分に含んでいるであろうし、限りなく真実に近いこともまた含まれていると感じる。
ただしこれから記す内容はあくまで「不完全な知識に基づいた断片的な理解」の域を出ないことをあらかじめ断っておく必要がある。

まずSiipという存在について知らない方のために簡単に説明しておく。

Detail are unknown.
Siip is an elusive phantom expresser who does not have a certain image.
Works as a singer-song creator, and spreads his creation with one-of-a-kind hand painting sense.
Creates inner-tripping and sound-scaping as making non-categorized sounds.
Therefore, Siip thrusts the music which is an essence of art. It might be a suggestion to reform the pop culture in transition.

私訳)
正体は不明。
Siipは捉えどころのない幻影の表現者であり、特定のイメージを持たない。
シンガーソングクリエイターとして活動し、また独自のハンドペイドセンスによって創作の幅を広げている。
内なる旅と音景の創造によりカテゴライズ化されない音楽を生み出す。
それゆえSiipはアートの本質である音楽を突き動かす。それは過渡期にあるポップカルチャーへの改革の提案であるかもしれない。

Siip Official Siteより

要は彼は羊の仮面を被った正体不明の表現者である。
2020年のクリスマスに突如として活動を開始。2021年に8曲が収録されたアルバム「Siip」をリリースし、独特の世界観と深淵な歌詞、そしてミステリアスな音像が唯一無二の才能であり、すぐに話題を呼んだ。(それは唯一無二の才能が地球上に二つ存在するという矛盾を抱えていたからである)

その後音沙汰はなくなっていたが、2023年にMrs. GREEN APPLEのアリーナツアー「NOAH no HAKOBUNE」に予告なく登場してまたもや話題となった。

略歴はこのくらいにしておこう。
2023年の夏、これまでランダム再生で聴いていたアルバム『Siip』を、何気なく曲順通りに聴いた時に感じた、悟ったこと。そしてそれぞれの曲に与えられたタロットカードを見てその悟りが確信に近いものに変わったこと。それについて記していく。
⚠️これから断定形で書かれることもありますがあくまで一個人の考えとなります。

まず初めに

Siipの世界観は旧約聖書から北欧神話、そして生命の創造から現代社会に至る。全てにおいて寓話的・警句的価値をもつ。

そもそも彼がなぜ羊のような姿をしているのか。

羊がヨーロッパ社会において、最も人間に近しい存在であったことは間違いなく理由の一つであるだろう。
羊や羊飼いはしばしば神話で語られるし、生贄の対象として描かれることが多い。星座にもなっていることから古代の人々も羊に近親性や神秘性を抱いていたことがわかる。

そしてSiipはこの世界を、神的視点から観ている。ただ、Siipそのものを神と捉えるのはやや性急であるように感じる。それは一方でやはり羊のように人間のそばにあるものだからだ。

つべこべ言わず、曲を見ていこうと思う。ぜひ、『Siip』を順に再生しながら読んでいただきたい。

1. saga

saga(サガ/サーガ)とは、古ノルウェー語で書かれた、中世の物語のことだ。そこから転じて広く長編小説を指して使われる。

つまり、これはアルバムの形をした長編の物語なのだ。そしてこの物語は、Siipが観てきたこの世界のシナリオに他ならない。その中でこのsagaは物語の表紙・扉絵的役割を果たしているのだといえる。

sagaは歌詞がなく、音のみで構成・表現されている。

前半は音も小さく、音数も少ない。中盤から後半にかけて徐々に音が大きくなり、さまざまな音が生まれていく。それらの音は、1分を過ぎたあたり、最後の10秒を残して、突如止む。
その後は明らかにこれまでと趣の異なる音が響き、まるで異世界に突入したような気にさせられる。

saga
実はこのタロットカードはかなり奥深い。アルバムの真の構造を理解してからこのタロットカードを見た時、思わず声が漏れそうになるほど衝撃を受けたのを覚えている。ただしこの説明、答え合わせは都合上最後にする

前半は無機的な音がぶつかり合い、徐々に有機的な音像に変化していく。それらの有機的な音もまた混じり合い、そして終盤に、何かが舞い降りたかのような神聖さを纏った世界に一変する。

これは、生命の誕生を表現しているのではないか、と思う。
生物は元々無機物から始まり、アミノ酸などの有機物へと変化していった。それは「単純→複雑」へと変遷する。単純な物質が混じり合い、複雑な物質へと変化していく。

太古の海に思いを馳せながらsagaを聴いてみる。悠久の時の流れとその中で着実に複雑性を増す物質たち。前半には聴こえなかった拍動のような音が中盤にかけて大きくなり、徐々に早くなっている。
音はどんどん大きくなり、複雑性を増し、1:05を境に、限界に達したかのように音が消える。

その後に何かが舞い降りたかのような、尊い命がこの世に誕生したかのような音が響く。

2. πανσπερμία (Panspermia)

2曲目はπανσπερμία(パンスペルミア)である。
πανσπερμίαとはギリシア語表記である。

パンスペルミア説とは簡単に説明すると、「生命の起源となる種子が宇宙から隕石によってもたらされた」とするものである。先ほどのsagaを表紙とするならば、この曲によって物語の第一章が始まるのだ。

1つ、光
2つ、流れる海
繰り返さないように
初めてのフリをしよう

ここで挙げられる「光」と「海」は、生命の誕生に必要な条件である。光合成のための光と溶媒となる海。パンスペルミアというタイトルの通りこれは生命の起源のことだと捉えるのが良いだろう。ただ、続く歌詞が引っかかる。

「繰り返さないように初めてのフリをしよう」

まるで生命の誕生が初めてのことではないかのような言い回し。

どうやら また
ただ生命は不安定で
何かに縋るように
美しさと名付けようとしている

どうやら「また」ただ生命は不安定なのである。
また、ということは過去にも生命が存在したということだ。

勘のいい方ならわかるだろうが、Siipが生命の誕生と立ち会ったのは初めてではない。以前の生命は不安定さゆえに崩壊し、破滅したのだろう。一度以上彼は世界の誕生から破滅までを目の当たりにした。

そして彼は再び生命の誕生を目撃した。しかしやはり生命は不安定なのである。でも、その不安定さをなんとか美しさと捉えようとしているのだ。桜が儚いから美しいように。

πανσπερμία
古代生物とシナプスの様なもの
そして開いたカーテンは生命の夜明けを意味するか

この曲は、初めて聴いた時から曲調も相まって、まるでユダヤ人のことを歌っているようだなと感じた。

本題から逸れるため、この曲についての詳しい感想は別記事にまとめたので興味ある方はご一読を。

3. Cuz I

Cuz I とは、Because I を省略したスラングである。日本語に訳すなら「だって私は」と言ったところだろうか。

満ちれば吸われる運び
単純に遣る瀬無い

Siipが羊であることを踏まえると、搾乳をモチーフにした表現だと思われる。MVでも羊乳に満ちた透明の羊が描かれている。

この曲はタロットカードの男女にSiipが寄り添っているように、非常にミニマムな視点(それこそ羊のような)から描かれているのが特徴的だ。

偶像に何を求めるの?
僕は君じゃない

ここは、神としてのSiipと表現者としてのSiip、両者の本音が現れているように見える。
神としての視点では、偶像とはすなわち偶像崇拝のことであろう。偶像に何を求めたって偶像に過ぎす、「そこに私はいません〜」状態である。
表現者としては、偶像とはすなわち曲のことである。(わかる人にはわかる)
そんな偶像に対して過剰に期待・依存してしまっている人への痛烈な箴言ともとることができる。

4. 2

左のバケモノは誰だヨ、
MV同様青い炎で建物が燃えているのは考察に値する。

5. Walhalla

狼や鷹

ヴァルハラは選別された戦士の魂が集められる。この宮殿には、540の扉、槍の壁、楯の屋根、鎧に覆われた長椅子があり、狼と鷲がうろついているという。これは、戦場の暗喩である。館の中では戦と饗宴が行われ、ラグナロクに備える。(Wiki情報です。ごめんなさい)

タロットカードには狼と鷲が描かれている。歌詞にも「喜びの館」「屋根は盾」などヴァルハラに関連する言葉が使われる。戦場の暗喩とされている通り、歌詞にも不穏な言葉が並んでいる。

ここで注目しておきたいのは、アルバムを通して、この曲で初めて争いが語られる、ということだ。

つまり、遂に世界に争いが生じたのだ、とわかる。

生命誕生から幾夜を超えて。

6. 来世でも

大樹の葉の先から滴り滴り落ちる泉・骨盤の散歩・ペガサスの羽先から摺り抜け溢れる泉
などの象徴的な言葉が描かれている

性の答えはさ 十月運ぶ水の中
幸福は計れぬ 旅の中
巡り私が生まれる

こうした言葉から、来世でもは生まれくる生命を歌っていることがわかる。
「骨盤の散歩」は胎動と捉えることもできるし、「十月運ぶ水」は十ヶ月の妊娠期間と羊水と捉えるのが自然な解釈だろう。

一方で死にゆく生命も歌っている。

別れ征くあなたへどうしよう
フェリーに乗って三途の川へ

どうしてここにこの曲を置いたのかその真意は図りかねるが、戦争の中でも生まれ・死にゆく生命の尊さを歌っているのかもしれない。
なぜなら次の曲で…

7. オドレテル

血の海・奥にはSiipの姿が。

タロットカードは真っ赤な血の海

人々は息絶え、この状況を手のひらの上からSiipが観ている。

彼はこう思っているだろう、「ああ、またか」と。

掌から伝う
赤い跡が残る
私だけを呪う
私だけが昇る

この歌詞はまさにタロットカードの描写と一致する。

溺れられず踊れてる
敵わない人が居る
消えれずに浮かんでいる
消えれずに浮かんでいる

Siipの左右には溺れずに踊っている人がいて、手前には消えれずに浮かんでいる人がいる。

この情景が何を意味するのか。Walhallaとの連なりから考える。
Walhallaで人々は争っていた。同種の争いの先に何があるのか。

血の海である。つまり破滅である。

冒頭にも書いたが、こんアルバムは警句なのだ。

Siipが争いで滅ぶ世界を観たのはこれが初めてではない。

軽々突き刺せる刃物を
君は持って居る
目と目で通じ合う事さえ
忘れてる愚民

現代の我々に向かって警鐘を鳴らしている。これはSiipからのメッセージなのだ。

だから「あなただけは分かるように話してみるから」と歌うのである。どれだけの人がこのメッセージを受けとれただろうか。

私だけ気づける
私だけ生き続ける
あなただけには
あなただけには届かぬ様に
バカなフリをするから

この世界の真理にSiipだけが気づけるのだ。なぜなら彼は生き続けているから。いつから?この世界が生まれるよりずっと前から。

叶わない夢を見てる
溺れられず踊れてる
望まない代償がある

叶わない夢を見ているのはSiip本人なのではないか。彼は無常な世の中に辟易している。だからこそ歌っている。でも届かない。叶わない。

溺れられず踊っているのはもしかするとSiip自身なのかもしれない。

8. scenario

石像のようなもの。偶像?

最後の曲はscenarioだ。この曲はMrs. GREEN APPLEのツアーでも披露された特別な曲である。

非常に無情な世界線
我ながら作り手ながら

冒頭で、Siipがこの世界の作り手であることが打ち明けられる。

仕方ない愛を記して
塵達に居場所を創って
バランスが取れているように
見せかけの現世で立ってる
仕方なく愛を記して
由々しき時代を創って
気づけばやり過ごしてる様に
全部シナリオ通り進んでる

塵達とは人間のことであろう。世界の破滅は「はじめから怯えても避けられない」それならば、仕方なくこの世界を営もう、といったSiipの観念が見てとれる。だからこそ、この世界の綺麗な部分は見せかけに過ぎないのだ。

そうしたSiipによる世界の運営は、バランスが取れている様に見えるだけで、実際は剥がれた塗装を塗り直す様な不完全なものに過ぎない。

見てなかったから
はじめから
見どころだけ
さらうとしよう

まさに見どころだけさらったのがこのアルバムと言えるのではないだろうか。生命の誕生・愛・生と死・争い・破滅。

まるでこの世界のダイジェストを観ているようだ。

そしてそれらは全てシナリオ通りなのだ。

悲しいかな、諸行無常の響きである。生まれたものは遂には滅びる。生まれ、愛し合い、憎み合い、殺し合い、気づけば血の海となるという、この世界の避けられないシナリオ。

そんなシナリオがわかっていて、諦観していても尚、愛おしさが鎖となってこの世界を愛してしまうのだろう。

終わりに

ここで、冒頭のsagaのタロットカードの話に戻る。
sagaは見てきた通り、生命誕生前後のストーリーである。

saga以降に人間が誕生し、争い合うのである。そしてその誕生から破滅までの流れは初めてのことではない。そのシナリオは何度も、延々と繰り返されているのである。

その証拠が、sagaのタロットカードに刻まれている。


生命誕生時には存在しているはずのない建物や船。それらはすでに荒廃し、人の気配はない。かなりの時間が経ったのだろう、多くは土に埋もれてしまっている。

そう、この絵は世界が一度滅んだこと、つまり過去に生命が存在したことを示しているのだ。

Siipはこれ以上曲を生み出さないのではないか、と感じる。生み出さないというか、生み出す必要がない。なぜならこの8曲でこの世の全てを四次元的に歌い上げているからである。scenarioの次にはもう一度sagaが奏でられる。そうして延々とCDを再生するように、この世界は延々と同じことを繰り返していくのだ。


P.S

だーーーー6,000字書き上げました、、。ちょっと難しい話になってしまったし、すごく断片的な理解だから、読みながら眉をひそめる方も多かったかと、、。でもある面ではかなり真理に近づけてると思います、。(sagaのタロットカードとか結構すごいのでは、、?)
楽しみにしてくれてる人たちがいるから頑張って書いた!一人でもSiipの聴き方が変わる方がいればそれでいい!ありがとうございました。よかったら♡とか、拡散とかよろしくお願いしまス。

ここで一つ予想を。
もし、BABELnoTOHでSiipが歌うことになるならば、Walhallaかオドレテルだと思う。ともに争いの歌だから。

よかったら他の記事も読んでいってください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?