見出し画像

持ち物検査の思い出

私が中学2年生の頃、あれは確かカーディガンを着ている女子がいたので二学期だったと思う。

「今から持ち物検査を行います」

終礼の後、担任のこの一言でクラスはザワついた。

ちょうどこの頃、漫画の貸し借りが流行っており私は友人たちに金色のガッシュベル!!という熱い少年漫画を薦めていた。

友人達からはスラムダンクやドラゴンボールなどド定番だが全巻持ってはいない漫画を借りては読んでいた。

受け渡しは主に放課後に行われていた。
何かあってもバレないようタオルに包んで一冊ずつ、それは麻薬の取引のように行われていた。実際は知らないが。

今思えばそんなリスキーな事をせず帰宅してからまとめて借りれば良かったのだがそこは中学2年生、人生で最も馬鹿な年頃だったのでこの背徳感を楽しんでいた。



あの日、私は幸運にも漫画を持ってきてはいなかった。
友人達も余裕の笑顔だ。どうやら今日は誰も漫画を持ってきていないようだった。

最初のターゲットは持ち物検査開始からずっと吠えていたひょうきん者のA君。
彼は機転を利かせられず携帯電話を没収され敢え無く御用。
授業中に何度か携帯電話を鳴らしていた事が担任の耳に入ったのだろう。

うちのクラスはヤンキーのような生徒が居ない本当に大人しいクラスだった。
私達が漫画を持ってきていない事は目配せで確認済みなので後は5分もあれば終わるはずだった。

廊下側の先頭の子から検査が行われていく。
担任の先生も、流れ作業の様に通学カバンや手提げを確認していた。
いや、あれはもう確認していなかった。
ノルマは達成したと言わんばかりのウイニングランにも見えた。

窓側まであと二列、帰ったら何をしようか考えていた時に担任の足は止まった。

なんだなんだとそちらを見てみるとクラスメートの中でも特に大人しい女子、才女のSちゃんの前で担任はフリーズしている。
自己申告だったようで机の横のフックに掛かっていた紙袋を机上に置いていた。黙っていればチェックされずに済んだものをわざわざ正直に申告していた。

しかしSちゃんに限って携帯電話や漫画が出てきたとは考えにくい。
おおかた「ロミオとジュリエット」だか「カラマーゾフの兄弟」だかの中学校には置いていない高尚な小説が出てくるだけだろう。

机の横のフックに引っ掛かっていた紙袋の中身は重そうで、ハードカバータイプの分厚い本が入っていそうな雰囲気だった。

さすが文学少女は持っている物が違うなァと感心している間に担任はソレを教壇まで持っていき、おもむろに中身をぶち撒けた。

シェイクスピアでもドフトエフスキーでもない

ボボボーボ・ボーボボだった。
8巻くらいあった。
時間が止まった。

クラスで一番大人しい女の子がボボボーボ・ボーボボを何のカムフラージュも無しに8巻くらいまとめて持ってきていた。


担任は狐につままれたようだった。
読んだ事が無くても、ふざけた表紙でどんな漫画なのかは想像に難くなかっただろう。
クラスメートも呆然としていた。
その後のことはあまり覚えていない。


私達はSちゃんの勇姿を胸に刻むと共に卒業するその日までドンパッチと呼び続けたのだった。


https://amzn.to/3c05glL


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?