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映画『アウトサイダー』 ジャレッド・レトの眼球見開きヤクザ2時間1本勝負

みなさんはもう『アウトサイダー』を見ただろうか?

唐突だと思うかもしれないが、「この映画見た?」という話をまず私の生い立ちから語っても中学校1年生で見知らぬ先輩に後頭部をハイキックされるまでで16時間かかるという冗長な感じになってしまうので、「この映画見た?」に関しては前置きなどかえって邪魔なのであり、出会って5秒で挿入するのが正しい態度(アティテュード)なのである。

話を戻そう。『アウトサイダー』は2017年3月9日にNetflixで公開されたジャレッド・レト主演のヤクザ映画である。

なぜかジャケでは「ジャレッド・レトー」と最後伸ばされているが、これは「プリンタ対プリンター戦争」の代理戦争であり我が国はこの紛争に一切関与いたしません。

それよりも、内容である。さきほどヤクザ映画と言ったが、マフィア映画の表記ミスではない。『アウトサイダー』は日本の大阪を舞台にしたまごうことなきヤクザ映画であり、任侠映画であり、むちゃくちゃ金がかかったVシネなのである。

監督のマルティン・サンフィリートは当然日本人ではないのだが、最大限日本のヤクザ映画を作ろうと努力している。その証拠に当時の大阪の雰囲気を再現し、俳優も浅野忠信、椎名桔平、田中泯などの一流どころを使っている。また、お笑い芸人安田大サーカス団のHIROをヤクザとして起用していて、その意外なハマり具合になるほどこの手があったかと強く頷いたのである。

そして、主人公のジャレッド・レトである。『レクイエム・フォー・ドリーム』、『ブレードランナー2049』などに出演する名優で、『ダラス・バイヤーズ・クラブ』ではトランスジェンダーのHIV患者を演じてアカデミー賞助演男優賞をゲット。固形物を1ヶ月食べないで体重を落とすなどのストイックな姿勢が話題となった。

ジャレッド・レトは私にとって「目見開き俳優」である。眼力が異常にあるので、ほとんど喋らなくても画面が成立してしまう。基本的にイケメンではあるのだが、その異様な目の見開き方によってすべてが上書きされていってしまい、もはやイケメンかどうかなどはるか宇宙の彼方。とりあえず出しておけば画面が落ち着くので、監督にとっては重宝される存在であろう。

その名優ジャレッド・レトはこの『アウトサイダー』でも圧倒的存在感を放っている。しかし、それは従来のジャレッド・レト像を完全にぶっ壊すものだった。

まず冒頭から日本語をめっちゃ喋る。「カンシュー!!カンシュー!!」と看守を叫んで呼ぶ。偽装自殺をして刑務所を出るために腹を掻っ捌く浅野忠信を助けるために「タスケテー!!タスケテー!!」と叫ぶ。もうこの時点で私の中のクールなジャレッド・レト像は崩壊してしまっていて、おもしろ日本語眼力男に上書きされてしまっている。それでも存在感だけはあるから、我々はおもしろ日本語眼力外人が画面にいるだけで映像が成立するという不思議体験を得ることができるのだ。

対する日本人俳優たちも負けていない。話の流れとしてどうしようもないのだが、基本的にはみんな英語を喋る。浅野忠信がぺらぺらと英語を喋るし、「あんなアメ公信用すんな!」とか息巻いてた椎名桔平も「He~y, Let's talk with me!」みたいな感じで急にヒュー・ジャックマンみたいなノリになるし、恋人役の忽那汐里もめちゃめちゃ流暢に刺青の説明を英語でする。終戦直後の大阪人がそんなに英語喋れるわけないんだが、そこはもうヒューでジャックマンで行くしかなく、いっそのことジャジャジャジャジャーンな感じで椎名桔平が歌い出して浅野忠信もハモってライアン・ゴズリングと踊り出して欲しい。

ストーリーは謎展開が多いのだが、とにかく全編がヤクザ的雰囲気ならどうにかなるという前提の下で進められていく。しかし、出所したTシャツ姿のジャレッド・レトが初仕事で相手の頭をかち割って血まみれになってるのもヤクザというかどちらかと言えばただのサイコ野郎にしか思えず、その後も割とノーモーションで人を殺していき、もはやアウトサイダーとかそんな生易しいものではなく、時々日本語を喋る外国人男性が日本人を殺しまくる『アメリカンサイコ in Japan』みたいな雰囲気さえ漂ってくる。その雰囲気の中で稀にジャレッド・レトが日本語で語りかけてくるからもうたまらない。そして、それは聞き取れない。

なんか幼馴染が急に「フリースタイルラップ始めるから」と言ってダボダボの服を着始めたみたいな若干の置いてけぼり感を食らったまま物語はクライマックスへと走り抜ける。ここからは任侠の世界である。時代に取り残された田中泯親分を裏切って対立組の大森南朋のところに走った椎名桔平一の下にジャレッド・レトが単身乗り込むのだ。ラストは自分の目で確かめて欲しい。衝撃の展開は特に待ってはいないのだが、マルティン・サンフィリート監督による渾身のYAKUZA理解がどーんと叩きつけられるのであり、我々はお辞儀をするしかないのである。

というわけで、ジャレッド・レト渾身の眼力映画かつ摩訶不思議ヤクザ映画かつ巨大資本Vシネマ『アウトサイダー』を見てみんなポカーンとしよう!!レッツ・タスケテー!!謎日本理解もあるよ!!


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