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実体的意識性

これは今にして思えば、せん妄の体験の話かも知れない。
手術をした直後に体験した事だからだ。
幼い頃の記憶は今でもはっきり覚えていて、そしてこれは僕の記憶の始まりと言える。
それまでは前日の記憶を引き継いで今日の行動に活かすとということを考えつかなかったからだ。記憶の引き継ぎを実績解除したのかも知れない。
今回は幽霊的な話です。オカルト的な死後の話でもあります。
オイラ自身が蝶にこだわりだしたきっかけの話でもあります。

本投稿は、『週間キャプロア出版』で掲載されたものを大幅に加筆修正したものです。
『週間キャプロア出版 企画』とは、全てFacebookメッセンジャーのやりとりだけで企画からKindleでの出版までをメッセージグループに居合わせたメンバーだけで行うという新しい試みの出版グループです。とても面白い試みですので、ご興味がある方は是非参加してみてください。

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実体的意識性

今はもうない、川の側にあった病院。
強い西日が差し込む階段の踊り場。おしゃれとは言えない、地味な天井扇。
トイレには子供用のアヒルのおまるがいくつも並んでいて、消毒液の匂いが広がる。
ベッドが並ぶ部屋の中には子供達がいて、一緒に寝泊まりしている。
ぼくは入院していたんだ。

病室の中で看護師さんに囲まれている。
右股関節には大きな揚羽蝶がいて、透明のビニールのシートでとめている。ぼくは蝶がまるで自分の血を吸っているようでとても痛かったので外したかったのだけれども、外させてはくれなかった。両手を押さえつけられズボンを無理やり穿かされる。

その直前夢を見た。真ん中の通路を中心に二つに分けた8列シート。
ぼくは飛行機の中にいると思っている。前方に向かって右窓側に座っている。
左斜め前方とふた席ほど前に、知っているらしい子が座っている。らしいというのは、知っているということだけ覚えていて、誰が座っているかはわからないからだ。
飛行機は巨大なドーム状の建物の中にいるようで、窓の外の景色は薄暗い。
ゆっくりと飛行機は動き出し、建物の中を動き出す。
窓の外をよく見ると、知って居る人たちが手を振って居る。
悲しそうだけれども、なぜ悲しそうなのかはぼくにはわからない。
手を振って居るのは、ぼくのママやパパ、おじいちゃんやおばあちゃん達だった。
ぼくは無邪気に手を振るんだ。
みんなの横を過ぎ去ろうとしたとき、飛行機は止まった。
そして、白い服を着た人たちがぼくを飛行機から降ろした。
降りたくなかったのだけれども、降ろされた。
多分白い服を着た人は看護師さんなのだけれども、わからないんだ。看護師さんという存在は知って居るのだけれども、看護師さんだとは思わなかった。
そして、不思議なのはぼくは飛行機をまだ知らなかったことだ。乗ったことはないのだけれどもこれは飛行機なんだと知っていた。
そして目は覚める。

天井にはおしゃれとは言えない、地味な天井扇が回っている。
ぼくは上半身を裸にされて、お医者さんに聴診器を当てられている。胸の真ん中には青い一筋の線が入っていて、肋骨を押さえつけられるような地味な痛さがある。よく見ると縫い付けているようにいくつもの細い青い糸が重なっていた。
身体中からは、いろんな管が出ていてテープでぐるぐる巻きにされている。
上着を着せられ、そのあとズボンを脱がされたんだ。
そしたら右の股関節に揚羽蝶が止まっていたんだ。
その時の強烈な記憶と同時に、不思議なのは、なぜか知っていたのは蝶は血を吸うことはないし、ここに蝶が止まっているのは明らかにおかしいという違和感があった。
でも蝶が血を吸っていると思っている。そして吸っていると思い込んでいるはずなのになぜか入っていく感覚があった。そして蝶々は生きている。
なんだか何もかもがぐちゃぐちゃで不思議だった。

溲瓶でおしっこがしたかった。おまるでおしっこがしたかった。車椅子に乗せて貰っていろんなところでおしっこをさせてもらいに行った。おしっこをした後は、西日が差し込む階段の踊り場の前を通って病室に戻る。
あの光の先に行きたくて仕方がなかったのだけれども、行かせてはもらえなかった。
とても行きたかったのだけれども。
行ってしまった子もいるのだけれども。

掲載時あとがき
3歳の頃に心臓の手術をしています。その時に強烈に残っている記憶だけをまとめて文章にしてみました。強い光への憧れの感覚はトリップしていますし、なんの脈絡もなく急激に気分が変化していく様子に実感を持った最初の体験でもあります。病室という非日常の空間で、明らかに存在していない揚羽蝶は幻覚でしょうし、飛行機の中の夢は臨死体験なのだと思う。

週刊キャプロア出版では、このようなテキストを沢山の人が参加して、沢山の人が企画し、編集をして出版される電子書籍です。
Kindle Unlimitedでも無料で読むことができますので、是非お手に取ってみて下さいね。

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