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セオドゥールー&ロイ『行政入門』

Theodoulou, S. Z. & Roy, R. K. (2016). Public Administration: A Very Short Introduction. Oxford UP.

セオドゥールー&ロイ『行政入門』(石見豊訳、芦書房、2024年10月予定)

せっかく翻訳が出るみたいだから先に読んでみよう。

「行政」は古代文明からずっとあったが、本書ではウェストファリア体制以降の近代行政を見ていく。国民国家という枠のもと、発展する代議制民主主義との緊張関係のなかで行政はいろいろ変わる。要するに政治に対する説明責任がますます求められ、それに応じた「科学的」行政ができていく。

本書が扱うのは主にアメリカで、元々の憲法デザイン=権力分立にそういうのが内在していた。しかし第一の転機は世界恐慌で、ケインズ経済学と手を携えてニューディールという「実験」的な行政が行われる。他方でテイラー・システムによる組織管理法も行政のあり方を「効率的」に変えていく。

ウェーバーの官僚論とか、サイモンとウォルドの論争とか、いろいろありつつも1960年代までの行政はサービスの直接の供給主体としてどんどん強く大きくなっていく。が、オイルショックでそうもいかなくなって、以降は新公共経営(NPM)の旗印のもと、行政の仕事はより間接的な規制へとシフトする。

行政の仕事と権限が肥大化する一方で予算的には厳しい、あと予防的な仕事も多くなって不確実性も、みたいなつらい 行政国家 のできあがり。かといって小さな政府一辺倒でもなく、元の民主主義との緊張関係が続いていて、市民参加とか新しい公共的価値とかそういう理念的なこともまあまあ生きている。

政治部門に対するアカウンタビリティと広く市民向けのそれは重なりつつもややズレていて、そのへんの緊張関係は近代行政が代議制民主主義とともに発展してきたことと対応している。ケネディスクール出身者はわりと理念的なこと言いがちだが、現場レベルでは市民参加による正統性確保とかになっていく。

みたいな感じで、近現代行政を見るうえで重要な歴史区分(1648、1929、1973)から、予算制約のもとでの仕事の変化(肥大化、不確実化、間接化)に取り組む行政の、(1) アカウンタビリティ(政治部門向け、市民向け)と (2) 組織管理法の2点を軸に、行政学の知見を位置づけていく本ですね。

ざっくりいえば、行政活動や行政組織を見るうえでは、① 政治部門、② 市民、③ 内部(行政の他の部署も含む)のどこを見ているか、つまり どこ向けにアカウンタビリティの用意をしているか で考えるといいよ、みたいな感じ。

【追記】
Makmor Tumin による書評 in Institutions and Economies, 10(3), 2018。丁寧な内容紹介といった感じ。