見出し画像

水木しげるの漫画を読み始める方へ 01

 明後日は水木しげる大先生の99歳の誕生日です。大先生の名前を知っている方は多いと思いますが、実際にその作品を読まれてる方は意外といないんじゃないかと思いまして、オススメ本を紹介したいと思います。ただ偏ってるので気をつけて下さい。大先生の漫画を私なりに勝手に分類すると、三種類の要素に分かれます。

 ①怪奇もの 
 ②ドキュメンタリー(戦記、伝記、自伝) 
 ③風刺もの 

 ①と②が重要で、この二つを追求する過程で③が現れてきたように思えます。
 量的にも①が一番多く、一般的に代表作と言われる「墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)」「河童の三平」「悪魔くん」は全部怪奇ものです。②は第二次世界大戦や昭和史を扱った漫画、近藤勇・南方熊楠の伝記がこれにあたります。自伝もこれに含めてしまいましょう。最後の③はねずみ男やサラリーマン山田が登場する漫画などを指してます。さて具体的なオススメを紹介しましょう。今回は『墓場鬼太郎』から2冊紹介します。

01 墓場鬼太郎 吸血鬼と猫娘

 内容はどちらもほぼ一緒なのですが、漫画大全集版(高い方)の方が資料やカラーページが充実してます。中篇集なので1巻から読まなくてもOK。
 大全集版は高いですがkindleに表示するとなかなか満足感があります。紙の本でしたら文庫本が読みやすいです。

画像1

kindleのコレクション機能。左下に番号振ってあるので、順番に並べるときれい。

 2巻にはネコ娘やねずみ男、ニセ鬼太郎と、楽しいキャラクターが盛りだくさん出てきます。さらに昭和30年当時の東京の風景もたくさん描かれておりレトロ好きなら楽しいと思います。この漫画が発表された1960年当時、これだけ現実の風景が描かれたストーリー漫画って他になかったと思います。フランク永井も勅使河原蒼風も出てきて風刺要素もバッチリ。つまり①〜③の要素全部が入っているのでオススメというわけです。

画像2

画像4

 この可愛らしい女の子が初代ネコ娘でございます。だだっ広い河原の景色!戦後!最高!風景画家水木しげるの荒っぽい描線が冴えに冴えてます。新聞の下で寝てるのがねずみ男でございまして、猫はネズミが好きだから追っかけてるわけです。この躍動感ある追っかけシーンも最高。水木しげるのアクションシーンは実はかなりいいです。
 河原に捨ててある畳(?)の山のようなものを指して「ちょうどよいソファー」と言ったり、ねこ娘が「私はこれを我慢できない」と言う諧謔が水木節です。「私はこれを我慢できない」は、映画「女はそれを我慢できない The Girl Can't Help It 」(1956年)のパロディです。多分。

画像4

 こいうチョイネタを探すのも墓場鬼太郎第二巻の楽しみの一つです。ネコ娘が「メロンの気持ち」「刑事のテーマ(アモーレ・アモーレ)」「おぉキャロル」を歌ってるのも見どころ。
 結局ねこ娘は死んでしまうのですが、ニセ鬼太郎との、なんというか計算高いというか、絶妙で微妙なやり取りは絶品です。ともかくキャラクターが昭和30年代の東京を舞台に生き生きと動いています。息遣いが聞こえるってこういう漫画のことを言うんでしょう。

02 墓場鬼太郎 ボクは新入生

 主人公は水木しげる本人!喫茶店で鬼太郎とねずみ男と出会い、そのうちに自らも怪異に巻き込まれるという漫画です。私も自著『電話・睡眠・音楽』の自作解説は「ボクは新入生」と大城のぼる『愉快な鉄工所』の話からはじめました。かなり批評的でメタフィクショナルな漫画です。

IMG_0321のコピー

 この漫画に登場する怪異は「ブリガドーン現象」なのですが、このブリガドーンというのも同名のハリウッド映画があります。こちらは愉快なミュージカル映画ですが…。初期=貸本時代の水木しげるはアメリカンなのです。

画像6

 twitterでしょっちゅう流れてくる、このオリンピック批判も『ボクは新入生』の中のワンシーンです。それにしてもこれほど細かく昭和30年当時の現代風俗を描いた作家は他にいませんでした。写真を作画に導入したということです。ただこのころの水木は自分で撮ったというより、当時出版されてたグラフ誌やカメラ誌からパクってきたのが多いはずです。
 ネタバレになるのであまり言いませんが、話の筋がすごい。なんというか超現実的というか……。我々がここに存在していることの不確かさみたいなものをこのころの水木漫画は提示してきます。

 貸本時代の「墓場鬼太郎」シリーズ6冊全部買っても損しないと思いますが、2巻、次に5巻がオススメです。普通に怖いのが好きなら1巻を読むといいです。1巻は鬼太郎誕生秘話になっております。
 水木のトレードマークである点描は、1965年以降大手資本出版社進出以後のプロダクション制作がはじまってからなので、この時期の漫画には見られない表現です。

 <つづく>




このサイトでは著者(かわかつ)にお金を渡せます。家賃・生活費に使います。面白かったら是非!