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コエタロ (夏の家)

アルヴァ・アアルトの「夏の家」は、フィンランドのムーラッツァロ島の高い木立に囲まれた岩盤の上に建っている。完成したのが1952年で、ル・コルビジュエのカップマルタンの小屋と同じ年ということになる。この家が「コエ・タロ(コエ=実験・タロ=住宅)」という名称で呼ばれているのは、アアルトはこの家を様々な構造や素材を試していたためとされているが、実は税金を安くするために税務署にて「いやー、ここは住むためでなくあくまでも実験のための家で...」と掛け合ったというのが真相。でも、税務署側はアアルトのその勝手な言い分にべもなく却下したという(笑)。

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夏の家は、煉瓦造の母屋と木造のゲストルームがあり、少し離れたところに増築されたサウナがあって、フィンランドの短い夏を満喫するために建てられた。島にあるためアアルトが使っていた頃はボートでしかいけなかったが、今は歩いて行けるようになった。ちなみにそのボートもアアルトが技術者とともにデザインしたものですごくカッコいい。

税務署は認めなかったものの、実験の場であったことは確かにそうで、例えばさまざまな色や大きさや質感のレンガを中庭の床や壁に張っていたり、リビングの上に梁から吊ったようなこじんまりとしたアトリエだったりという具合だが、このレンガやタイルは実は自分が手がけた他の建築で余ったものをリサイクルしたものだ。税金といい余った資材の再利用といい、フィンランドを代表する国民的建築家だったのに、ものすごく堅実だったアアルト。

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屋根の低い建物は正方形の中庭を囲むようにL字形になっていて、これは伝統的なフィンランドの農家「トゥパ」のレイアウトをベースにしているという。トゥパはリビングとキッチンとダイニングがひとつになったもので、アアルトはL字の片側に暖炉付きのリビング・ダイニング(+宙吊りのアトリエ)、もう片方のウイングには3つのこじんまりとしたベッドルーム、そしてバスルームを作った。

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ヘルシンキにあるアアルト自邸もだが室内は白の壁を基調として、そこに木材をふんだんに使うのはアアルト様式だ。窓からは針葉樹とバイヤネン湖が見え、少し離れにあるサウナは煙突のない「スモーク・サウナ」と呼ばれ、屋根は芝生や草で覆われた伝統的なものだ。農家だったりこの昔風のサウナの仕様だったりフィンランド人としての誇りと伝承がこの家には込められているのだ。(コエ・タロは夏の間だけ45分間のツアープログラムが行われている)