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藍染の隙間で見る在来馬のいる風景

アムステルダムを拠点とするシャルロット・デュマの新作を含む展示が銀座メゾンエルメスフォーラムで開催される。これまでシャルロットは日本に14回も来日したことがあり、日本各地で撮影を行ったそうで、今回の展示にはその成果が展示されている。彼女は人に身近な動物、特に馬と犬を被写体にして人と動物の関係性などを問う作品を発表してきたわけだが、日本固有の馬の存在を知った彼女は、北は北海道から南は与那国島まで赴き、個体数が少ないため絶滅が危ぶまれている馬たちを撮影したというのだ。

そのような馬群は8種類のみ(純血種に近いものはこの8種のみと考えられている)で、それが「日本在来馬」として認定されその多くが国によって保護されている。中でも交通が不便な与那国島などの離島は、外国産馬の血がほとんど入らず、昔のままの姿をよくとどめる馬群が数は多くないものの残されているそうだ。実際、ぼくがこういった固有馬の存在を知ったのもシャルロットの写真を通じてだったのだが、彼女の写真に導かれるように、いずれはこれらの馬を見る旅に出かけたいと考えているほどだ。

さて、今回の展示会場で目を引くのは藍色に染められた大きな布が天井から舞い降りてくるような構成だ。この美しい染めを手がけたのが沖縄在住のテキスタイルデザイナーのキッタユウコ。その長い垂れ幕のような何層もの布が会場の空調だけで静かにたなびいていたのだが、ご本人によれば「異なる3種類の厚みの布を使っている」とのことで、その動きが一定でなく空気の流れをより感じられたのだが、その布たちにまさに包まれるように映像モニターが設置され、与那国で撮られた映像作品を鑑賞ができるという仕掛けだ。

日本在来馬はもともとモンゴルから朝鮮半島を経由して、九州に連れてこられた高さが130cm程の小ぶりの馬で古墳時代にはすでに家畜馬として飼われていた。馬骨や馬歯、馬具が当時の古墳からも出土し在来馬の存在がそういう形で確認されているのだ。ゆえに、シャルロットの他のシリーズもそういった歴史的な背景を知って見るとより面白いので、是非とも会場で資料を読みながら、彼女が撮った馬たちの美しい作品を見ることをお勧めする。