見出し画像

おいしい浮世絵展

タイムマシンがあったら行ってみたい場所と時代が江戸時代中期の頃なのだが、森アーツセンターで始まったこの展示はとても興味深い企画展で、浮世絵を通して江戸時代の食文化を今に伝えるというものだ。江戸湾で取れた魚介類(「江戸前」と呼ばれているもの)、そして迷路のような河川を使って運ばれてくる野菜が当時の食の基本だったが、当時の様子を視覚的に現代に伝えてくれる浮世絵の数々はとても面白い。

江戸期までは4本足の動物は表向きには殺生を忌む仏教の影響で食べてはいけないものと言われていたが、実際には食べられていて、例えば鹿肉を「もみじ」、いのしし肉を「牡丹」、または「山くじら」と呼んで鍋料理にして食べられていた。山のくじらと呼んでいたのも、当時は鯨を哺乳類ではなく魚の仲間と思っていたからで、「イノシシ?肉?滅相もない、これは山のくじらだよ」という感じで食べていたのだろう。

また、江戸の町では火事が頻繁に起こっていたせいで、家の中で火を使った調理は禁じられていたため、町民たちは屋台での食事を楽しんでいた。天ぷら、鰻、寿司、そば、豆腐。そして今のような夏の季節は白玉や冷水なども盛んに売られていたという。魚市場は日本橋のたもとにあり、冷蔵庫がない時代なだけに採りたてばかりのものを必要なだけ買って調理をしていたから、常に新鮮なものが揃っていたはずだ。

江戸時代の庶民の食事の基本はごはん、味噌汁、漬物だけという超シンプルな「一汁一菜」。ご飯を炊くのは明後日の一回だけで、朝食が炊きたてのご飯と味噌汁、昼食が冷や飯と「アサリのむき身と切り干し大根の煮物」など、野菜もしくは魚などのおかず。そして夕食がお茶漬けと漬物。また豆からつくられる豆腐や納豆も人気食材だった。ランチが一番豪華だが、これは健康維持のためには理にかなっている食習慣だ。

また、量が少ないように思われるが、そのご飯の消費量は凄まじかった。なんと成人男性は1日5合!を食べていたそうだ(だから「脚気」が多かったのだが...)。将軍のお膝元であった江戸は、全国から年貢米などが集められるため、米の流通システムも整備されていた。だから、長屋の住民でも精米した白い米を食べることができ、「白米を食べられること」は江戸っ子の特権であったのだ。

以下、本展の紹介文から。「江戸時代が終わってから150年以上の歳月が流れた今、そこに描かれている状況や習慣の中には忘れ去られてしまったものもしばしばあります。少し後ろを振り返る気持ちで、江戸時代の暮らしや食について紐解き、当時の人たちの生活に思いを馳せることで、きっと浮世絵はよりあざやかに、いきいきと、私たちに語りかけてきてくれるのではないでしょうか」