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トリビュート Op.2 強く長く発信し続けなければ批判すらされない

家族でクルマに乗って音楽をシャッフルで聴きながら走っていたら、突然うちのムスメが言った。

「椎名林檎、音程揺れるから気持ち悪い。」

親バカを抜きにしても、うちの子は絶対音感がある。ピアノはショパンのソナタを普通に弾きこなすし、オーケストラでトロンボーンも吹いている。

でも、しかし、だ。ちょっとイラッとして、深呼吸をしたあとムスメに言った。

「あのな、彼女はデビューしてから25年以上経ってて、ずっと売れ続けてる。批判するのは別にいいけど、その意味を考えたことがあるか?」

「世の中、音程が気にならない人が多いってことだね。最近のK-Popはものすごいトレーニングやっているからダンスも完璧、音感も完璧だよ。テイラーもめっちゃ歌うまかった」

「ちょっと待て。そういうことじゃない。全然違う。よく考えてみろ。」

「彼女の音楽は25年以上売れ続けているけれど、売れてなかったら当然彼女の歌を聴く機会もないし、あなたが今言ったような悪口を言われることはない。ずっと売れ続けていて、多くの人の耳に触れる機会があるからこそ、批判されることもある。

仮に音感が超正確でも、売れなければ誰にも聴いてもらえず、誰もその人の存在すら知らず、誰からも相手にされず消えていくし、批判してもらえる機会もない。そんな人たちがほとんどなんだから。

彼女は様々な理由で厳しい競争のなかで25年以上自己表現の場を確保することができているわけだけど、それがどれぐらいすごいことなのか考えてみたことある?」

昔林檎ねえさんのことがめちゃくちゃ好きだった父ちゃんがややオタクっぽく真っ赤な顔で早口になっていた可能性は全く否定できないが、そう言うとムスメはぼそっと一言、

「確かにそうだね」

と納得した。

時間の経過とともに、失意のうちに自己表現の場を、あるいは発信する場を失ってしまうことはよくある。自己表現したり発信したりする情熱を失ってしまうこともよくある。

聴いてもらえるのは、生き残った人だけだ。生き残らないと聴いてもらえない。そして批判もされない。長く生き残れば生き残るほど、売れれば売れるほど、より多くの人にリーチできるようになり、結果的に批判される機会も増える。批判されるのは生き残った証であり、逆説的だが、多くの批判をされるのは、より長くより強く発信を続けて生き残ることができた証だ。

ルーザーは、批判すらされない。



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