きっと誰かが見てる。

老人ホームでケアワーカーをしてた時、僕はひとより仕事が遅かった。
介護の現場では程度の差はあれ仕事のスピードが求められる。
なぜならそうじゃないと仕事が回らないから。
3食の食事介助。定時のトイレ介助。
おやつの準備と介助。起床、臥床介助。
これを決して多くないスタッフで回していくので、仕事の速さ、要領の良さは無いよりあった方がいい。

だから自分の仕事が遅いことはずっと負い目になっていた。

ある日のこと、利用者さんの部屋の掃除をしていた僕は、相変わらず他のスタッフより時間がかかっていた。
Tさんという物静かなおばあちゃんの部屋の掃除を終えて部屋を出ようとすると、そのTさんがこう言った。

「あなたはいつも丁寧にやってるわね。いつも見てるわよ」

メガネの奥の優しい目が笑ってる。
それまで利用者さんにそんなことを言われたことがなかったので、少し驚いた。

でも嬉しかった。とっても。

心の中では「遅くても丁寧にやる人が1人くらいいたっていいじゃないか。」と思っていた。
Tさんに言われて自分は間違っていなかったんだとちょっぴり自信がもてた。

今でもTさんのいたあの部屋の風景とTさんの優しい笑顔は忘れられない。

#やさしさに救われて


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