論文のリトラクトについて

また昨日もサボってしまった...言い訳すると昨日今日は急遽で論文の修正を行わなくてはいけなかったからなんだけど...まあ今日は今日ということでやっていきましょう。今日は研究の話。

数日前に物性界隈で話題になったのが、酸化物超伝導で有名な京大前野研究室から発表された論文のリトラクト(撤回)である。

Scienceに載っていたことと、有名な前野研ということでこの話題は超伝導屋ではない私にも目にするところとなった。また、前野研には(非公式ながら)固体量子というVTuberがいて、なんとYouTubeで研究内容(当然発表済み)の解説が行われている。VTuberということで最初は侮っていたが、動画の内容はそれなりに専門的で、かつ分野外の人にもわかりやすく説明されている。そんななかでこのリトラクトの件がYotubeに公開されたのである(!)

最初これをTwitterで見たときはかなり驚いた。そして内容を見て二度驚いた。リトラクトというのは一般には研究者としてはかなり不名誉なことなのだが、動画ではその内容についてしっかりと触れており、こういった理由で撤回に至ったということが解説されている。ここまで撤回した論文について前向きに発表できるとはさすが前野研といったところだろうか。

研究をやっていない人からするとこの撤回が当たり前のように思われるかもしれないが、実際の現場では怪しい論文が往々にして論文として残り続けている。(特にスピントロニクス界隈では最近そういった論文が多いような気がする...)実験結果がアーティファクトで発生しているのでは?という疑問からなるべく目をそらしたい、という論文はかなり多くなっているように思う。予算獲得が一層厳しくなっている昨今では、こういった流れはかなり強くなっているように感じる。

ただ勘違いしないでいただきたいのは、新しい実験結果に対して物理的に説明を行った結果、説明が間違っていたということは物理の世界では当然のことであるということだ。有名な量子ホール効果も、初報ではその理由をまったくランダウ順位と関係づけることはできなかった。物理学の発展は、そのような現実に実際起きた事象に物理学的にもっともらしい説明とその実験的な検証を繰り返して、真として残る知識のみが未来につながってゆくという形で発展してきた。その意味で、誤った実験結果は後世に残してはいけない。論文を自ら取り下げるというのは、大変勇気がいる行為であり、今回の件に関してはより一層前野研の論文は信用に足るものだなあと感じた次第だ。

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