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【一幅のペナント物語#60】昭和30年代の女性が選ぶ観光地③「層雲峡」

雑誌『旅』の1960年(昭和35年)9月号の特集「女性におくる」で紹介された「女性の好きな旅先24」というラインナップを元に、ペナントを紹介してみたい。


◉ペナント観察:超個性的なシルエットで手の込んだ一幅

赤い不織布ベースに黒い縁どり、旗竿部分は他にあまり見ない独特な形状にカットされています。右側先端部も"くびれ"が入っており、全体のシルエットが個性的。白いスピンドルがぐるりと円を描くように配されていて、救命浮輪を彷彿とさせるデザインの中に、層雲峡を象徴する柱状節理の断崖の下を行く観光バスの姿が描かれていますね。その円の中をさらに分割して、銀河の滝が描かれているという、なかなかテンコ盛りの図案。右側の「大雪山国立公園 層雲峡」の文字の上には、青空の下の牧場風景が影絵で表現され、右端にはスズランの絵も。経年劣化で金色の部分が褪せてしまっていますが、なかなか情報量の多い一幅です。

◉「大雪山麓」とはどのあたりなのか?

雑誌『旅』が紹介する「女性の好きな旅先24」の中で、北海道から選ばれている4カ所のひとつに「大雪山麓」とありますが、実は大雪山という名前の独立峰があるわけではなく、旭岳や黒岳など、いくつかの山々の連なりをひっくるめたエリアのことを指すので「大雪山麓」と言われても、どこのことなのか正直わかりません。ただネットで調べてみると「大雪山のふもと」というワードとセットで頻繁に紹介されているのが、層雲峡を含んだ層雲峡温泉だったので、今回「層雲峡」のペナントを紹介しようというわけです。

広大な「大雪山(系)」の中でも、この「表大雪」と呼ばれる
御鉢平カルデラを中心としたエリアが一般的に「大雪山」と呼ばれているようです
(地図は環境省HPより一部を転載しました)
黒岳から見た大雪山系(Wikipediaより 撮影:Shirokazan様 ※天地を少しカットしています)
こちらのペナントでは「銀河の滝」とロープウェイが描かれている。
「層雲峡」は厳密にいえば確かに「黒岳」のふもとに当たる。
それにしても「層雲峡」のフォントが荒々しくて素敵すぎる!

◉層雲峡のクライマックスエリアよ、先端技術で今再び!

石狩川沿いの約24キロに渡る断崖絶壁の景観が「層雲峡」と呼ばれているのですが、実はそのうちの1/3ほどの区間は現在、見ることができなくなっているようです。1987年(昭和62年)の天城岩の大規模崩落事故(層雲峡小函天城岩崩落災害)を受けて、銀河トンネルが開通。1995年(平成7年)には天城岩や羽衣岩などの見所を要する小函地域は、車で見に行けなくなってしまい、さらに3年後には別の場所で落石が多発したことを受け、完全に通行止めとなって、それ以来、四半世紀の間、その景観を拝むことが叶わないようになっているようです。勿体ない!「銀河の滝」「流星の滝」もいいけれど、個人的にはこの覆いかぶさってくるような圧倒的迫力の"層雲峡地区で最大級の柱状節理"が拝める小函エリアの景観こそ、ザ・層雲峡じゃないかと思うわけです。現在、地元の皆さんが、観光客を呼び戻すために遊歩道再開の方法を模索中のようですが、崩落の危険性を考えるとなかなかの難問でしょう・・・。ましてや、昭和の頃のように「女性が足を運ぶ」には危険すぎますよね。でもドローンやVRとかを活用すれば、誰でも安全にこのスリリングな景色を楽しめそうなので、そういう楽しみ方は期待できるかも。

この迫力がナマで拝めないのは勿体ない!
(画像は以下、空犬様「北海道絶景100+」よりお借りしました)
これだけの区間が観れなくなっているのは、本当に勿体ない!と思いません?
(画像は以下、北海道地方環境事務所さんのHPよりお借りしました)
くどいですが、この景色、マジでスゴくないですか?
復活に向けて尽力されている関係者の皆さん、応援してます!
(画像は以下、北海道地方環境事務所さんのHPよりお借りしました。ぜび記事もご覧ください)

◉ここにも廃墟化の波が・・・

「層雲峡」のことを調べていて最初に目についたのは、ホテル層雲解体のニュースでした。YouTubeでも複数の廃墟探訪動画があがっていますが、まさに「層雲峡」の玄関口のような場所にある巨大観光ホテルです。営業開始は1965年(昭和40年)。客室数210というからなかなかの規模。それが2011年(平成23)に廃業し、そのまま10年以上も放置されているというのです。

鉄道も通らぬ山奥ということも災いしたのか、この界隈ではホテル層雲の他にも2軒のホテルが廃業、解体の運命を辿っています。その天人峡温泉のほうの2軒は既に解体のために自治体が14億円をかけて、今年中に更地にする計画が動いていますが、ホテル層雲のほうは昨年1月に

上川町の層雲峡温泉で10年以上廃虚となっていた「ホテル層雲」の解体が動き出す。環境省北海道地方環境事務所が2023年度に着工する計画で、解体費には少なくとも20億円を見込む。設計を2、3月にも発注する。層雲峡温泉が生まれ変わる第一歩として期待が掛かる。

北海道建設新聞社HP(2023年01月27日記事)より引用

という記事があったのですが、その後、2023年10月23日付けの記事に

ホテル層雲については、国が本年度内にも解体に着手する見通し。事業費は十数億円。財源としては22年度、環境省の滞在型観光の拠点整備を行う2カ年の事業に採択され、10億円が予算計上されている。上川町の佐藤芳治町長は「層雲峡温泉の課題に解決の道が見えた」と安堵(あんど)する。

北海道新聞HP(2023年10月30日記事)より引用

とあって、それであれば既に解体が進んでいるはずなのですが、それ以降の様子がWeb上では発見できませんでした。どうなってるのでしょうね。昭和の観光ブームで持て囃された観光地ですが、今回ペナントを入口に探っていくと、あちこちでこうした寂しい現状を目の当たりにします。

◉昭和の人気観光地が寂れてしまったワケ

前出の北海道新聞の記事の中で、北大大学院の石黒准教授が指摘されていた問題点について、とても興味深かったので引用してみます。

この問題には三つの失敗があります。一つ目はホテルを所有する民間事業者側の店じまいの失敗、事業継承の失敗です。

 二つ目に地域が責任を果たせなかったという失敗です。温泉地は集積産業。観光地の規模を見定め、隣接するホテルの経営内容などの情報を把握できるはず。厳しい時は他のホテルや観光協会、行政が一緒になってどう防ぐか議論すべきです。温泉や景観など公共財を使って商売する以上、観光地の経済は地域で面倒を見る必要があります。

 三つ目は国の観光政策そのものの失敗です。民間事業者がいなくなれば、原状復帰の費用は国が肩代わりするしかありません。特に国立公園内ではホテルを増やすより減らすこと、適正な数に抑えるべきでした。

 道内の温泉地のホテルは数十年前の団体旅行に合った、同質で同じサイズの部屋が多く並ぶものばかり。インバウンド(訪日客)も含め個人旅行にシフトした今、供給過多で経営悪化を招いています。温泉地の存続に向けてホテル同士で話し合い、ダウンサイジング(縮小化)を図り、付加価値を高めていくことが重要になっています。

北海道新聞HP(2023年10月30日記事)より引用

この指摘、他の地域にもそっくり当てはまるような気がしますね。地域の衰退を語るときにもたびたび出てくる話ですが、「どこか、もっと早いタイミングで軌道修正をできる機会がたくさんあったはず」なんですよね。それを「まだ大丈夫」「次の世代で考えればいい」というように先延ばしにした結果、ただでさえ財政が苦しい中山間地域で莫大なお金を支出しなければならなくなるという・・・・。ペナントを巡る旅をしていると、溜息が出ることが多いような気がします。

◉次は東北エリアへ!

雑誌『旅』が紹介する「女性の好きな旅先24」の北海道4カ所の残るひとつは「然別湖」なのですが、あいにくと僕の手元には「然別湖」のペナントはありませんでした。ネットで探してみたのですが見つからず。というわけで後ろ髪をひかれつつ、次回からは東北エリアの紹介となります。探索中に見つけた北海道の会社、西江建設さんのインスタをおまけに貼っておきます!いいなあ、然別湖ペナント!(笑)


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