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潜在意識にある、とある消したい男。2

 どうしてこんな事を書き始めてしまったのかと後悔している。
まったく面白くない。思い出せば思い出すほど面白い話ではない。
ドラマみたいな話って思ってたけど、どう考えてもアホな話でしかなかった。
そう結論づけられるなら書いた意味はあると思うので、続行する。

 話は本店で背後霊扱いされていたころに戻る。
この頃の記憶は薄れかけている。

密かに好きだったSのことで少し振り回されていたのは前回の話。
いい加減にしてくれない?と思って、私もSさんのこと好きだったけれど忘れようと思ってたのに、といろいろとぶちまけたのち、実は俺もお前のことが...という流れ。それは仕事終わりの夜だったっけ。
確か車でアパートまで送ってもらっていた夜。
お互いの気持ちを確かめ合ったところで、六甲山の峠攻めに同乗させられた。
ものすごいスピードで山に登った。登りはそう怖くなかったけれど、下りは相当怖かった。警察がいたら捕まっていたかもしれない。
シートに背中を縛られているみたいで身動き一つできず、車のライトが照らす峠のカーブだけを凝視した。試されているのかもと思った。怖いと言ったら信用してないと思われそうで。後のことはよく覚えていない。
なぜなら、あっという間に別れたから。
これを持っていてほしいと、Sが車の整備をしている横顔の写真、誰がカメラに収めたのかも不明。大きく引き伸ばして、額に入っているものをもらったことは覚えている。今から思えば、あんなものを部屋に飾ったりしたら、私の中でSという偶像を崇拝する気持ちが芽生えてもおかしくはない。スナップ写真ならともかく。それにこんなものを作ったのは誰なんだ?その気持ち悪さから、部屋に飾ることはしなかった。

 多分、私の友人Mのこと以降でもSさんは助手席に乗せる女の子には不自由していなかった。実際にまったく知らない女の子からSへの思いとSへの別れへの心境を書いた手紙を私は受け取っている。
Sにも言い分はあるかもしれないけど、ちゃんと付き合って、付き合えないならちゃんと別れる、別の女の子を巻き込まないでいてほしかったけれど、何しろSはモテた。いったいあの頃、どうなっていたのか。

 Sはお金持ちになりたかったみたい。今から思えばになるけど、車が好きで、車をいじるのも好きなのだから、お金はいくらあっても足りなかっただろう。食事代も持っていなかったことがあった。
今の仕事にしても収入に不満もあったはず。
お金が自由に使えるなら車以外のことでも贅沢出来るし、趣味に没頭もできる。
それが望みだったと思うけれど、本人の真意は永久にわからない。

 夕方の休憩が終わって持ち場に戻ろうとした時、Sは休憩に入るところだった。私たちは顔を合わせた。
ポンとテーブルに置いたのはブランドの長財布。初めてお財布を見たと思う。
私は目ざとく財布を見て、「誰にもらったの?」と咄嗟に聞いた。
Sはニッコリと例の爽やかな笑顔を見せる。誰かは言わなかったと思う。

 これだけ社内でも外でも、女の子を振り回しても誰からも咎められなかったのは不思議。新入社員の女の子は必ず何人かはSに引っかかってしまう。あの笑顔のせいだ。
程なく財布の送り主はSと同じフロアの超お金持ちお嬢様だとわかった。
私は偶像崇拝用のSの写真をSの部屋に返しに行った。
ドアから顔を出したSは満面の笑みで、
「今日は超お嬢様が来てくれる日だからごめん」という。
やっぱりそうなんだなぁ。そういうことなんだなぁと、一瞬硬直してしまった。
じゃあ帰るわって私は諦めた。
誰かが階段を登る足音が聞こえる。すぐそこに来てるお嬢様。
 しまった。写真返してない。
しばらく隠れて、Sの部屋のドアが開いて、閉じた。
ドアの横にSの写真を置いて帰った。
この流れ、私の行動はおかしい。やっと両思いになってこれからという時に、Sに抗議するわけでもなく、あっさりSの都合のいい行動に出ている。
Sはこの超お嬢様を最終的に選ぶだろうとどこかで覚悟してたんだろうね。
私はSの望みを叶えることは出来ないし、Sが逆玉の輿に乗れたら万々歳。
でも、この特別な写真を突っ返しに来た私のことを、都度都度、思い出すが良いというつもりもあったことは覚えている。

 それからしばらく経って、私が休日の日、朝から1日を使ってSと話をした。
Sは自分が超お嬢様と付き合うことを黙認してほしいという主旨のことを言った。
でもまだ、いったい何が起ころうとしているのか私は理解していなかった。
「お前がTさんと付き合っていると知って俺は我慢したから、お前も今回は我慢してくれ」
とサラリと言った。それ、どういう理屈なんだろうか。納得し難い。
Sの真意はどこに?Sの愛情は誰に注がれているのかすらわからない。
話を終わらせたくなくて、話を引き延ばす。
雑談の中で、快便すぎてたまにびっくりする太さのが出るとか言ってる私。
なんでこんな話に?
「うわっ、醒めたわー」と爽やか笑顔でSは言った。
快便の話で醒められたらしょうがない。なんだかよくわからないけど。
ずっと、あんな話するんじゃなかったと後悔していたからよく覚えていた。
問題はそこじゃない。その時期に私はSにとって邪魔者だっただけ。
その日で終わった。短かったな。密かに好きで、忘れようとした2年間の方が楽しかったなと思ったけれど後の祭り。
しばらくぽかーんとしていた。
とにかく終わったことにした。夏の途中で始まり、夏の途中で終わった。

書き始めてからSの夢は見なくなって来た。この調子で行こう。

続く。

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