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創作、迷走、鎖分銅。

ここ半年ほど、自作で、武術で使う鎖分銅を作っている。当初、アイボルトという穴の空いたボルトに、焼き入れしたs45c(鉄に0.45%の炭素が入っている鋼鉄)のナットを取り付けて、アイボルトの穴に鎖を繋いで作っていた。
分銅が鎖の中間にもついている三連式鎖分銅というものである。

これが三連式鎖分銅である。
焼き入れしたs45cのナットなのであるが、中央の高ナットが生地でメッキがされていなかったため、他のナットも生地にするために、一度、トイレ掃除用洗剤のサンポールで全部のナットを生地にした。これは劇薬を使わず強酸の液体を使う代用でサンポールなのだ。
メッキを剥がしてしまったので錆びる。それを防ぐために黒錆加工をした。
黒錆加工とは、わざと鉄を黒錆で錆びさせることにより、空気中の酸素と鉄の間に黒錆の皮膜をつくって酸化を防ぐことである。黒錆は鉄の内部にまで広がる赤錆とは違い、鉄の表面にだけ発生するのだ。
当初、これまでの経験で、濃い紅茶と米酢で溶液を作り、その中に裸の生地にしたナットを入れて黒錆を発生させようとした(黒錆は鉄の表面に膜が張る感じで発生するので“沈着”ではなく鉄の“変化”なのだ)。だが、まったく黒錆が乗らない。濃い紅茶と米酢の溶液にも黄金比があり、少し違うだけでも結果が変わるのだ。
しびれを切らした私は黒錆加工用の溶液を買うことにした。ガンブルーという溶液である。欧米で銃を黒錆加工するときに使用する溶液である。銃は輸入できないが、銃のメンテナンスに使うものは輸入できるということだ。
ここで蛇足だが、黒錆加工は鉄を焼くことでも出来る。屋台の焼きそばを炒めるような鉄板が黒いのも、SLが黒いのも、黒錆のためである。焼くことで鉄のなかの水分が蒸発し、そこに酸素が入って黒く錆びる。これで「薬品がいらない」と安易に考えてはいけない。鉄を焼いて熱すると、曲がる。曲がった部品は使えなくなるので、銃のような精密なものにはやはり黒錆加工溶液なのだ。
話が逸れたが、ガンブルーを買おうと思って調べると、ガンブルーに入っている薬品が日本の法律の規制対象になったようで、輸入制限を設けられたところで市場にガンブルーがなくなっていた。代用品ということでシャイニーブルーという京都の会社が出しているものを買った。黒錆の乗りはガンブルーに劣るが、まあ、黒くなった。それが写真の三連式鎖分銅である。

次に考えたのが鉤鎖である。
じつは私は中学生のときに鉤縄というものを作っている。江戸川乱歩の小説に傾倒していた頃で、怪人二十面相に出てくる少年探偵団に憧れて鉤縄を作ったのだ。考えると、最初に自分で作った秘武器(武器ではないが)に該当するものが、この鉤縄である。だから今回、鉤鎖を作ったことで、中学生の頃の自分へのアンサーという意味合いも出来た。
鉤鎖の鉤は、道路工事の際に使用する覆工板を吊り下げるフックである。1トンの重さに耐える。この覆工板フック、じつは一年前に手にいれていたが、改造の方法が思い付かず、もて余していたものだ。
これに径5mmのSUS304ステンレスの鎖を繋ぎ、もう一方の端にはステンレスのリングを取り付けた。

それがこの鉤鎖である。
リングを取り付けたのは、重い覆工板フックを振り回すときに遠心力(向心力)で腕が持っていかれないための工夫だ。
この鉤鎖で、中学生のときの自分の鉤縄に対する答えを出せたと思う。

次に作ったのが、高強度鎖分銅だ。
もっとも強くて壊れなく、もっとも打撃力が強い鎖分銅を作りたかった。それで出来たのがこの鎖分銅である。
鎖には建設現場で使われる業務用のスリングチェーン、分銅にはトラクターに使われる強度区分10.9のリンクピンを採用した。

このようなものが出来た。
スリングチェーンは有名なキトーのものより30%ほど軽量化された高品質なものだが、一日中、身に付けてみて、重たくて体が痛くなった。
だが、考えうる最強の鎖分銅だと思う。

一通り考えあぐねた結果、数年前に私が考案して商品化した、本部式鎖分銅に戻ってきた。戻ってきた理由はもう一つ、これから夏になるので、汗をかいても錆びないSUS304ステンレス製で、薄着でも違和感なく隠匿できる鎖分銅として、帰着したのである。
ただ、バッと出したときに、鎖が絡まることがよくあった。これを解決しなくてはいけなかった。
これまでの創作と迷走で、コイルチェーンというものを手にいれていた。コイルチェーンとは、鎖の環同士がすり抜けて引っ掛からなく絡まらない鎖なのだ。
通常の鎖と、そのコイルチェーンとを付け替えたのがこの本部式鎖分銅だ。

心配だったのが、分銅と鎖を繋ぐ丸カンの溶接に出すとき、「これって鎖分銅じゃね?」となることだった。これまでのボルトとナットにしろ、覆工板フックにしても、トラクターのリンクピンでさえ、“武器”を連想するものではなかったから良いものの、この分銅は説明がつかない。
だが考えて、「犬を係留するときの接続ピンのオスメスのオスのほう」という曖昧な伝え方をしたら、意外と了解して溶接してくれた。

二転三転して、また元の、本部式鎖分銅に帰着したが、さらに勉強ができて、本部式鎖分銅のバージョンもアップさせられて、自分の経験値もあがって、良かったと思う。

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